47話 雪山登山の恐ろしさ


「なんか落ちたぞ」

「箱?ドロップ品かな」


触れると『そり』に変化した

よかったと思うのもつかの間

突然の猛吹雪が吹きつけて足を滑らせた

自分ではどうなっているのか分からないまま

何処か雪の上に着地した


今はスマホを持っていない

戦う為にナイフと防御用の装備だけ

辺りが吹雪で真っ白になり暗く何も見えない



「……ふ、う」


ピンチな時ほど冷静になろう

こうなることも予想にはあった

スマホが無いいま闇雲に動くのは危険

最悪のパターンにならなくて良かったのがスマホを持っていないだけということ

つまりスマホを持っていたのに吹雪でスマホがとばされる事態にならなかった


勿論スマホがあればすぐ戻れたなんて事もいわれるだろうが結局は結果論


「まずは冷静にッ!!」


頭の中でごちゃごちゃと五月蠅い

ヒロも何かあった場合はありそうだが

何にせよウサギ定石が迎えに来るのは分かっている


「風が―――そうだ」


雪の中にいればかえって風だけ防げて温かい

つまり『かまくら』を作ることに

本当に簡易的な壁だけを雪で作った

屋根こそないもののさっきよりは大分マシ


「よし」


眠ると凍死しやすい事を考えて気合で起きて

すこし吹雪が弱まってようやく彼が来た


『ご主人様!!』

「ウサギ定石……ッ」


スマホを運んでくれたので(ウサギ定石はスマホが使えない)

地図を頼りにどうにかテントへ戻る事が出来た

ヒロもテント内にいてほっとする


「怪我は?」

「し―――……て、ない」








目覚めると朝どころか昼になっていて

身体は左手の小指と薬指が動かない

他に異常はなかった


「目覚めたか」

「小指がこれ、動かない」

「回復魔法でなんとか残りの指は無事だったらしい」

「確かにあの状況だったのに指二本で済む?」

「今もう箱すら3回でてんだぞ」

「夕方!?」


時刻はもう16:00をしめしている


「お前ひとばん丸々雪の中にいてよくまぁ死ななかったな」

「登山靴のおかげで足が冷えなかったからね」


長い靴下と冬用の温かいズボンがあって良かった

ゲームで家をあさるのは大事だ

しかし指が本当に痛む



「……本当は切り落とした方が良いんだがな」

「え?」

「あまりに状態が悪い……そこ腐ってるかもしんねぇんだよ」

「やって」

「即決かよ」

「幸い利き腕じゃないし何とかなる」


寝ている間にとの話もあったが

それだと襲撃と勘違いするから起きているうちに、と

速い方が良いらしく


「痛み止めって奴は効くのか?」

「飲むから多少は何とか」


頭痛・生理痛などと書かれているものがあったので拝借しておいて

怪我でも実は多少の痛みであれば軽減できる

飲んで覚悟を決めた

剣で部分を切る処置をしてもらい


「う゛ッ!!!」

「カイフ」


回復魔法でも指を生やすような事は出来ないらしく

傷口は皮膚で塞がった

多少の痛みこそ残るが先ほどよりはマシで


「薬も効いてるのか思ったほどじゃないよ」

「良かった」

「箱から何か大事な物って出た?」

「そういや寝袋が出た」

「え!?」

「今までと見た目が違うんだが何か分かるか?」


マミー型と呼ばれるタイプの頭もすっぽり収まる保温力の高い寝袋

ところが別にいつもの箱だったのでまだレア枠ではないらしい

それとバケツに木


「木?」

「もう燃やした」

「焚き木だったのか」

「杭っぽい感じだったが今はお前を温めるのが先だったからな」

「うん、ありがと」


寒さ対策が疎かになっていたのは認めるが

食料があのまま尽きるよりはマシだった

ここはゲームの中で一生残る傷じゃない



『はぁいプレイヤー諸君!!』


ぼったくん!?


「何を売りに来た?」

『目印杭』

「え?」


たしか彼は今まで入手したアイテムかその系統しか売ってこなかった

カップ麺やカロリーバー(味違い)に毛布(色違い)

つまりは今まで入手したものの筈だがそんなものあっただろうか?


『なんと10本もセットでお値段1000円』

「買う」

『まいどー』


1000円程度の課金など普通のゲームでもするだろう

最も2万の課金を普通のゲームにつぎ込まない訳では無いが

渡されたのは確かに『木でできた杭』でボッタくんは消えた。


「さっき燃やした奴だな」


馬のモンスターがテントを襲おうとしていた為

外に出ないで過ごすのは難しい

それを考えれば暖を取る方法が本当に必要だ


「これで何とかタイムリミットは伸びたかな」

「なんだ?」

「あまりに暖がとれないならいったん戻るしかないと思ってたから」

「その場合はどうなる?」

「一度に出る量が多くみつもって4日分だから食料が半端なく不足する」

「切り詰めても無理か?」

「……口減らし」

「はぁ!?」

「本当に死ぬ訳じゃない事も考えると僕を含めて誰かがわざと―――」

「何とかできねぇか?」

「しないために強行突破した」

「この先で『クリス』を連れて行くのは無茶がありそーだが?」

「確かに速度や力はないけれど人の手を減らしたくない」


彼女は小さくて力こそないが妹のためにここに来た

羊に3人やられたとしてもクリスが最終地点を登れたらクリアはクリア

そんな中でウサギ定石が戻って来た


『急ぎつたえたい事が』

「何?」

『馬のスポナーが拠点の近くにある』

「すぽ?」

「スポナー!?って、このゲームに!?」


スポナーというのは特定の敵が出現しやすくなる装置で

場合によっては味方キャラのスポナーなんてものもある

ようするにはちみつが置いてあってハチが寄ってきやすいようなもので


「馬の湧き具合による、かな」

「馬なら何とか撃退はできんだろう?」


スポナーの恐ろしい所は湧くのが一匹や二匹ではないこと

一度に3匹が出現して襲ってきたら?



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