40話 暮らす


「床に直接この寝袋をおくのは不味かったね」

「焚き火して飯にしようぜ」

「缶詰め温めて食べたくなってきました」


温めて食べた缶詰めは案外イケた

よく考えてみれば別にアップルパイなど温かい果物でも美味しい

食料の種類があまりない今これはいい発見だった


「甘いし美味かったな」

「焚き火で温かくなったしテント内をもっと温かくする工夫しようか」

「というと?」

「毛布で地面との接触を遠ざけて」

「テント作り終わったと思えば雪をかき出せって必死こいてやった意味が分かった」


温かい室内に雪があれば溶ける

しかも地面に染みぬかるんで文字通りの泥沼だ

そんな場所では足を取られるし泥汚れも大変な事になっていた事だろう


「土の上に毛布しきましょうか」

「トイレまで中でいいとか家みたいだな」

「確かにそうかも」

「家族と一緒に暮らすなら城ほど大きな物より中くらいの大きさがいいな」

「大きいと掃除大変なんだからね」

「まるで俺と一緒に探すみたいに言うねぇ?」


ニヤニヤするヒロと目を合わせないようにして

荷物の整理と確認をしていく

焚き火で温かい室内が原因ということにして顔を赤くするタロウ


「ここからは当分の間を動かない忍耐力だから」

「二人きりだな~」

「家族になったら二人きりなんて当たり前の事だよ」

「・・・・・・!?」

「いつもやられてばかりじゃないもん」

「可愛い」

「寝袋の土汚れを洗おうか!!」


こうして特に大きなことも無く5日間を過ごす

期間中に出て来た16個の品々

① ライター

② パン30コ

③ 塩1kg

④ ブルーシート①

⑤ ブルーシート②

⑥ ビニール紐

⑦ 毛布

⑧ カフェオレ缶30本

⑨ ガス10本(ミニコンロ付き)

⑩ 大きなタオル4枚

⑪ バケツ

⑫ ハーケン①

⑬ ハーケン②

⑭ フック付き頑丈ロープ

⑮ パンツと下着が3枚ずつ

⑯ 焚き火台


「なんだこれ?」

「火を地面でやりたくない時はこれを使うんだよ」

「確かに燃え広がりそうな場所もあるもんな」


生活にもはや慣れてきていた

出て来た聖水は彦星と久利巣の方で1個だけ

向こうはレア確保の為に山を変えるらしい


「次の山にそろそろ偵察に行って貰いたいのだけど」

『分かった』

「偵察してみて難易度がほんとうにきつそうなら違う山から目的地にいくのも手だな」

「確かに急に山のレベルが上がっていくかも」


翌朝にウサギ定石は一番近い山を偵察しに出かけた

それと同時にルートの確保

簡単に言えばハーケンを時々地面に刺して

ロープを張って目印にするとともに滑り降りるのを防ぐ


「もし引っ越すにしても少しずつ荷物を移動した方がいいから」

「贅沢な旅だなぁ」

「RPG系の人たちは荷物が少なすぎるね」


夜になってウサギ定石が戻ってくるまでに

鍋とロープが出たが大して変わる事もなく

話を聞いてみると驚くべき言葉が



『次の山は雪が無い』

「えっ?」

『ただどうも『高い』気がする』

「高い?」

『見た目の話だがかなり角度があって登るのにはかなり苦労しそうだ』


写真を撮って貰ったのでヒロとタロウは見てみる

スマホが小さいのと写真があまりよく取れていないのもあり

見ても二人には荒い画像だなとしか認識が出来なかった


「ずっとここにいる訳にもいかないし明日の朝に出発して様子を見るよ」

「周りにある山は1個だけって訳じゃねぇだろ?」

「何にせよ全部のカ所を様子だけ調べたいから」

「『ひつじ』がいるのに危なくねーか?」

「何か他の案を出して」

「んー聖水があと二つ手に入ったら動くとか」


タロウも出来る事ならそうしたいのは山々だが

ここではもう登山靴のような『レアアイテム』がとれない

先に進むにはもっと山用のいい装備が必要不可欠


「ずっと出ない可能性もあるよ」

「そうなのか?」

「こういうのって運だからね」


ゲームによっては最大の敵となるドロップ率

ババ抜きでそろわない時を想像して欲しい

服屋にいってもいい服が無いなど


「子供たちはどうなんだ?」

「久利巣さん達に大きな怪我は無さそうですね」

「あんなに小さいと山に登るには不向きだが『ひつじ』がなぁ」

「ならばいっそ北ではなく東に行くのは?」

「え?」

「東側は5レべだから『ひつじ』が絶対に出ないんだ」

「つまり下山している間だけが危険か」


話し合いの結果は東側の山になら行ってもいい

それほど『ひつじ』が脅威だと感じたのなら今より一歩下がるのは手だ

東の山はまだレアが何か分からず確認は大切


「ウサギ定石は明日もいける?」

『構わない』

「ほんとうに優秀だよなぁウサギちゃん」

『俺は――ただ』


そこまで言って黙るウサギ定石

無理に聞くのもよくないとタロウが遠慮する中で


「ウサギちゃん何がしたいんだ?」

『え』

「疑っている訳じゃあねーけど目的とかはあるだろ?」

『楽しんでもらう事、だ』

「え?」

『こんな状況だがゲームを少しでも楽しんでもらえたらいい』

「大道芸人的な?」

『あくまで今のご主人様たちはデバッガーだ』

「でば?」

「色んな問題が起きていないか確認する人たちだよ」


ウサギ定石は耳を折り曲げながら

テントの中はとても暗いがそれでも見えた

少し毛を赤くしつつ言う


『ゲームを遊んでもらう事が何より嬉しいんだ』

「え?」

『そもそもバグのフラグがゲームクリアで―――いや難しいな』


ウサギ定石に難しくてもいいから聞かせて欲しいと願う

本人が言いたくないならともかく言っていい事

ほとんど変化が無かった世界で情報というのはとても娯楽なのだ


『クリアしたら今回はともかく次回からはバグが取れる』

「ばぐ」

『簡単に言えば記憶を失わずにゲームを楽しめるようになるんだ』

「だったらクリアさえ出来ればよくないの?」

『俺も開発者の一人……あー忘れてくれ』

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