39話 テント


彦星と久利巣がいる地点で出たテントはかなり大きいらしく

ワンポールテント(中央に柱があるテントの事)でポールが重い

持ち運べない程ではないがコンパクトにまとめるには技術が必要


「こっちも箱からライター出たけど」

「俺が今は動けねぇから大きいもんは厳しいんじゃねぇか?」

「けれど中で焚き火が出来るほど広いテントとなれば話が変わって来るね」


今のテントは狭いので中で焚き火は出来ない

箱が出現する場所を巻き込んでテントを張れれば極端に危険が減る

外にいるかもしれないモンスターと鉢合わせなくて済むし

暗闇の中で焚き火をしに出る危険な作業も



「行って来れるのか?」

「焚き火用の薪運びをどうするか―――そうだ」


ウサギ定石が薪を抱えて帰って来た

着火をコンロではなくライターで出来るようになった今

食料は何とかなると考え新しいテントを運ぶ事を決意


「博打よりも確実性をとりたいから」

「そこまで広さって大事か?」

「外に出なくていいとなれば安全度も温かさも段違いになるよ」

「『ひつじ』に出くわしたらテントなんか捨てて逃げろよ?」

「出発するのは明日の朝にします」


夜になり箱からは『聖水』が出て来た

慌ててテントの中にもっていくと取り上げるような速度で飲まれ

回復呪文を自分にかけるヒロ



「チッ……嫌な予感はしていたが」

「何か?」

「ちと握力が落ちてるな完璧に指が曲がらねぇ」


握りこぶしは小指と薬指が曲がっていない様子

親指と人差し指と中指だけは完全に動く


「痛みは?」

「もう無いって言えるな」

「明日の朝に箱から出て来るものが何か次第で行動を変えようか」


ウサギ定石を抱いて眠る

翌朝はヒロの怪我も随分と良くなっていた

相変わらず動かしづらい指はあるものの


「テントを運ぶのなら俺も行くか」

「怪我治ったばかりですよ?」

「中途半端に失敗するより俺も行く方がいい」


翌朝になり箱から出てきたのは桃の缶詰め(缶切りが必要ないタイプ)

30個も在るので食料に不足はしなさそうだが

出来る限り温かいものを食べたいこの山では少し価値が下がる


「向こうは逆に食料が厳しそうだから持っていこうか」

「例の靴で移動すればかなり雪でも移動は早く行けそうだ」

「ソリでもあれば下までは楽なんだけど」

「今は道具も少ないのでリュックと食料を持って行きましょう」


ウサギ定石も含めて出発して2時間で山を降り

景色が雪景色から木々に変わる

雪をとかした水を飲んで登っていき昼頃には到着した



「むっちゃ心配したで?」

「お前らも『ひつじ』には気を付けろよ本当に」

「どんな敵なん?」

「速い硬い毒のツノで突進してくる」

「確かに嫌やわ」


テントは既にあって箱を囲むような形で建っていた

まずはポールを外し重量がどれほどか確かめる

確かに重いが思ったほどでは無く


「これなら運べるかな」

「ほら土産」

「桃の缶詰やんけごっつうれしいわ」

「向こうだと焚き火する燃料あまりないでしょ?」


燃料は今なら山ほどあるのでありがたく余っている分を使う

こうして出来上がった温かいスープとカロリーバーを食べて

テントを畳んで小さくしていく



「重いな」

「工夫して持って行こうか」

「いざとなったら置いて逃げる、いいな?」

「勿論」


手分けして巨大テントを運ぶ事に

総重量が厳しいが時間をかけていけばどうにかなりそうだった

山を降りていき時刻は夕方でかなり暗い


「このテントをはるか野宿か?」

「テントを張る時間はなさそうですから野宿を」

「何で向こうに入らないんだ?」

「この山に『ひつじ』がいないからです」

「絶対に来ないのか?」

「そうですね」


野宿をして朝を迎え

明るくなってから山を登り始めた

酷い寒さだが雪の影響は靴のおかげでほぼ受けず


13:33分には山頂に到着出来た。


「動けるうちにテントを建てようか」

「分かった」

「まずは箱にかぶせるように広げて」

「ここか?」


時間をかけて何とか形にはした(まだ完全な完成とは言えない)

床が無いタイプだったのでヒロは最初怪訝だったが

テントの中で焚き火をして温かくなると

意味が分かったらしく納得していた


「床に布あったらかえって燃えちまうだろうな」

「ポールの火耐性が心配だけど」

「俺が見た所かんたんに熱の温度で変化する鉄じゃねぇ」

「なるほど?」


今までテントの調整をするために箱をそのままにしておいた

とっておいたショートケーキの苺を食べるようなわくわく感はあるが

タロウはここまで来て問題が起きる事のほうを心配していた


「これはロープだね」

「燃えなさそうでいい縄だな」

『ふー……』

「お疲れ様」


ウサギ定石をついつい撫でる

特にうれしそうにする様子もなければ嫌がる様子も無く

気が付いたらヒロに抱きかかえられていた


「さすが召喚獣だな!!」

『命令に従っただけだ』

「ウサギ定石は怪我しても死なないって事で良かったよね?」

『三日ほど俺が使えないだけだが』

「ならまた薪をとって来てくれる?」

『行ってくる』


今まで使っていたテントからあらゆるものを持ってきた

これでかなり安全かつ温かさを確保出来た

しばらくは動くべきとは思えないが


「まずは物を貯めよう」

「ふむ?」

「特に聖水!!」

「確かに」


他のものはともかく聖水が出る確率は低く無い

MPを回復してもらえれば敵との※エンカウントも脅威の度合いが減る

※おもに遭遇を差す言葉


「怪我をしないように耐久しよう」

「俺も大賛成だがクソねみぃ」

「温かいものを飲んで昼寝かな」


今朝はビバーク(野宿)だったので

酷く眠かい為に寝袋でがっつり寝る事に

火だけは流石に危ないので消した

出現していた箱を開ける


「あーはいはい」


ハーケン(山の雪や地面に刺して登る為の杭)が5本

次のレベルからはいりそうだが今はもっと温かさに直結するものがよかった

ウサギ定石が入り


「ご主人様」

「お帰り」

「これだけの薪があれば何日かはこもれるだろう」

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