38話 耐久



め゛ぇええええええええええ



とうとつに山に響く鳴き声

十二支の未(ひつじ)だ

メールで知らせて来たという事が表すこと


「厄介そうなモンスターが来たかと」

「羊の鳴き声みたいに聞こえたな」


このシリーズ羊がよくいるが

嫌な記憶しかない明確な理由として

とにかく早くて硬い(攻撃力はそんなにない)


「次は順番的に本来ならば酉(とり)でさらに強いのが猿でさらに強いのが羊」

「クッソ強いって事か」

「分かりやすくいいます硬い速い敵の可能性が高い」

「戦うか?」

「出現したから野放しにしておくと危険かも」

「羊の好物って布じゃなかったか?」

「そうなの!?」


※実際は食べません


「テントを喰われる可能性があるなら叩ききってくるしかねーな」

「僕は?」

「両方何かあったら詰むだろ」

「信じて任せるね」

「勇者様として敵をきればいいだけの任務なんか安いもんだ」

「ウサギ定石は連絡役で」


こうして送り出して

2時間経過してもまだ戻らず

嫌な予感が徐々に増していく

探しに行けば最悪の場合は入れ違いになるので信じて待つ事に

更に30分が経過したらウサギ定石の叫び声が聞こえ


『ごしゅじーーーーーんッ!!』


慌てて外に飛び出して周辺を見回す

するとヒロを背負っているウサギ定石

赤い物が見え急いでかけつけた


「え?」


ウサギ定石の鎌が血でしたたっている

腹部には突き刺されたような跡

左腕は鋭利な物で切り裂かれているヒロの身体

冷静に考えた結果まずはヒロをテントに入れる事に

今のまま外にいれば体温がまずい


「一体何が?」

『毒液のツノで突進されて―――解毒の為にと』


毒が体内に回らないように大量出血させて噴出させたらしい

やり方が正しかったかを考えている余裕は無い

しかし傷が妙で服の方がやけに穴が大きい


「服の方を多く切り裂いた?」

『いや回復魔法が服に適用されなかったんだ』


回復魔法でどうにか傷はこの大きさまで小さくした

しかし本人の意識が飛んでしまい

ここまで抱えてどうにか運んできたとの事

包帯でこれ以上の出血にならないように腕を縛り

気絶しているなら痛みで苦しむよりは寝かせた方が良いと判断


「心臓は動いてるし毒抜きが出来たなら―――」


言葉にすると冷静になれそうで

まずは暖かくして体温を上げなければ凍死されてしまう


「ガスコンロ―――」


ガスは節約しなければならないが

今は残量を気にしてしまえば何かあった時に後悔だけが残る

前にやった治療法を考えるが周辺で石を探すのは難しく

お湯を沸かしせめて何かと考えていたら


「う、ぅ」

「ヒロさん意識が!?」

「喉がかわい――水」

「白湯(さゆ)ですけどこれ飲んでください」


実は血が大量に出ると『脱水』する

妹が生理の時は気を付けて水を飲むように言っていた

ちょっと気持ち悪いと言われることもあったが脱水は非常に恐ろしく

水不足というだけで死んだ人間は多いのだ


「ふ、生きて、んな」

「傷の手当は簡素ですがしておきましたがお腹の方は」

「腹は浅いから大した事ねぇが腕はこれ使えなくなるかもな」


メールで緊急事態を連絡し治療に使える物がないか聞く

針と細い糸があり深く切れているなら怪我を縫うべきであると

ウサギ定石を走らせ中間地点で合流させることに

細かい作業はタロウにとっては絶望的


テントの気温をとにかく下げない事を意識して真夜中の事



「広子さん!!」

「おー?」

「傷口を診せて……やれるだけ、やってみるわ」


中の温度を保つにしても使える火は限界が来そうで

ウサギ定石と共にテントを出た

外にあった薪だが振り返れば狭い室内

中で火事になってしまうだろう


「かまどで火を作って―――そうだ」


スコップで雪をどけて石を探した

砂にちかいような小さなものから色々とあつめて火にくべる

持って来てくれた火バサミで砕けてなくなった物を避けて

焼いた石をテントの中に入れ


やがて彦星が処置を終えたので動かさないようにと


「これ腕が動かなくなるかも」

「いや……ここまでしてくれりゃ回復魔法で何とか出来る」

「顔色もだいぶ良く成ってきたわね」

「ああ」

「久利巣ちゃん一人おいて来ちゃったからアタシは戻るわ」


真夜中で外は暗闇

戻らせるのはどう考えても止めた方が良い

そこで体育座りを一人して二人には寝て貰い朝出発に


「耐えられるのかしら?」

「これぐらい平気だよ」


こうして朝まで過ごして朝になり

彦星は元の地点に戻る為に出発した

寒い中だが久利巣が一人なのが心配なのと寝床も無い


「気を付けてね」

「アタシよりも広子さんに無理させないでね」

「何かあれば引き返して来て」


こうして送り出したあとに箱を調べ

出てきた物が毛布だったのでテントの中へ入れて

朝のスープを作りその間はウサギ定石が薪集め


「痛って」

「何でテントの外に出て!?」

「便所」

「あ、はい」


それは仕方が無い

怪我は右腕と腹なので足は動かせる

テントの出入りだけを手伝い中で大人しくしてもらうことに


「ほらスープ出来ましたよ」

「口移しで喰わせてくれるのか?」

「本当に弱っていたらやりますよ僕」


紙のコップに入れてゆっくり飲ませた

冗談言ってごまかそうとしているが呼吸も辛そう

肩の上下に動く具合でそれがよく分かる



「雪の具合は大丈夫か?」

「外で雪を降ろして来ますね」

「『ひつじ』に出会ったら絶対にテントへ入って逃げろ」


外で雪をおろして

焚き火から石を回収してテントの中に入れた

ガスがもうほとんど残っていないので焚き火をするしかない

しかし現時点で山に燃えそうなものが落ちている気配は無く


事体が変わったのは昼時のメール


『箱からテントが出たわ』



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