36話 お兄ちゃん


私は病気が見つかって入院した

胸が苦しくて仕方が無い

いつも私の事を守ってくれた兄が手を握ってくれた


「お兄ちゃん何でもするからね!!」


兄は本当に言葉通り友達と遊ぶ事もしなくなり

家の事をやりながら心配させないようにと成績も上がったと

だけど聞くたびに悲しかった

体調が良い日に少し歩いた日に少年が泣きながら走って行くのが見えた

自分は病気で走る事が出来ない上に今はもう夜だった



「待ってッ」

「空美?」

「お、お兄ちゃん!?」

「今日は体調がいいって聞いて―――」

「お願い今の子を追いかけて!!」


大声を出したせいで自分は倒れてしまった

目が覚めた時は病室のベッド

泣きながら走っていた男の子がいた


「ごめん―――アタシ、治療が辛くて屋上から飛び降りる所だったの」

「そんなに病気が苦しいの?」

「ちがくて、頭が」

「頭?」

「男の子だからって、カツラ―――買って貰えなくて、嫌で」


そんな理由で何て事は思わない

だって病院には同じように抜けて行って泣いている子がいる

物が手に入らないと泣いているだけならば


「お兄ちゃんハサミ持ってる?」

「一応あるけど――――え」



長かった自分の髪の毛を一気に切り落とした

切り方なんかしらない

ただ目の前にあるどうにか出来る理不尽を


「お兄ちゃんこれでカツラ作って来て」

「大事な髪の毛だったのに!?」

「私は心臓の病気で移植手術でも助かるか分からない」

「アンタの方がアタシよりも重病じゃない!!」

「だけどお兄ちゃんが頑張ってくれているのに死んだり出来ないよ」

「僕がんばる!!」

「アタシ―――は」

「一緒に生きていこうよ」

「……アンタが生きている間だけは死なない事にするわ」

「やった」

「カツラの恩があるからね」


それから自分の身体は徐々に弱っていき

本当に危ない状態まで行った時のこと

人工心臓を使った手術が成功したのだ



「アタシたち同じ中学に通えるのね」

「……」

「それで高校も一緒がいいわ、いいでしょ?」


兄も父も母も泣いて喜んでくれた

寝た切りだった自分は手術が成功しても筋肉が衰えていて

リハビリは本当に大変だったが


「お兄ちゃんと彦星くんが頑張ってきたんだもん」


医者も驚くぐらいの速度で回復していって

勉強も難しかったが兄や優しい先生に助けられて

どうにか高校生になる事が出来た


「アタシたちやったのよ!!」

「家に来て」

「え?ああ合格報告しに行かないとね」


彦星とは付き合う事となりクラスも一緒

皆が自分たちとの距離を困っている中で

すこし変な関西弁の女の子が距離をつめてきた


「ああ可愛いなぁぺろぺろしたいわホンマぁッ」


最初は彦星を狙ったのではないかとひそひそされるも

そうではなく彼女は自分をアイドルのように推していて

ストーカーしていた事も発覚した



「まぁいいか」

「いいの!?」

「好かれてるだけならいいかなって」

「せやでー」

「もーその代わりアタシたちだと出来ない事とかやって貰うからね」

「例えば?」

「3人組を作ってくださいとかアンタ以外だと地獄よ」

「せやな」


友達との憧れた高校生活は1年が終わり

終業式に参加した後に用があり図書館へ向かう

その道中で胸が急に痛くなる


手術も成功したしリハビリも終えたのにと


目が覚めたら病院で兄と先生の話が聞こえた

人工心臓が壊れそうになり別の機械に今は繋がれているらしい

それでもいつまでも持たないと医者は言う

目が覚め話せるようになってから妙な客が来た


「こんにちは」

「どなたですか?」

「私は味方ではありませんが敵対してもいい事が無いゲーム会社の社長です」

「なんで社長さんがこんな病室に?」


ゲームは自分の具合がよくなってから兄がドハマりした

知らない訳ではないけれど自分との接点が本気で分からない

自分が目覚めたのに看護師も兄も出てこない


「まずは状況をお話します」


社長が人工心臓のスペアを持っている事

更には世界にたった一つしか無く他にも金でほしがる者がいて

けれど社長はゲームをクリアする事を条件とした


「他の人は?」

「ゲームに敗退しました」


あっさりと言い切る

金で雇われた者たちはすぐにリタイアしたと聞いた

更に兄の親友が既にリタイアした


「彼は優秀なプレイヤーでしたよ」

「……私は参加できますか?」

「物理的にその状態では会社に来る事が無理ですね」


病院のベッドから起き上がれても命を繋ぐ為いくつもの機械と繋がっている

外したらそれこそ死にかねず本末転倒になってしまう

それでも自分に出来る事は何かしたい


「ゲームに参加が不可能なら何か他にありませんか?」

「その話をしに来ました」


参加は出来ずともやれる事はあるそうだ

彼は隠さずゲームについて教えてくれた

本当に彼は『敵』ではなくただクリアして欲しい人で


「ここまで全てを聞いたうえで誰かひとりにメールが出来ますよ」

「え」

「文字数に制限と届くのは体感時間でかなり後半になりますが」

「送れるのはメールだけって事ですね?」


プレイヤーの兄達が知らない情報はいくつもある

十二支のモンスターや召喚獣についてのヒミツ

ないがしろな使い方をしているとモンスターに変わって牙をむく


「お兄ちゃんに頼られるのはきっと悪い気分じゃない」

「かもしれませんね」

「頭はいいからお兄ちゃんに伝えるべき内容はアドバイスじゃない」

「どのような内容を送るつもりで?」

「事実を出来るだけ」


理由なんかそれこそ必要ない

ただルールを明確に伝えておけば兄が立ち向かってくれる

あのメンバーなら頭を使う事は間違いなく彼

彦星も決して愚かとは言わないがゲームは詳しくない


「前向きな人ですね」

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