34話 クリアに向けて



ウサギ定石(じょうせき)を抱えて眠るタロウ



「そういえばウサギ定石(じょうせき)って名前に由来はあるの?」

『オセロだ』

「それってボードゲームのオセロかしら?」

『合っている』


オセロの戦法であり論理的に互いが『有利』を求める場合の形だと聞く

ボードゲームには詳しく無かったので不思議だった

気が付けば朝になっていて目覚めはスッキリ



『ご主人様おはよう』

「おはよ」


起きて朝ごはんの準備をする

ヒロや久利巣も無事に起床

妹を助けるために改めて皆で話し合い



「向こうにある山がここよりレベルが3高い」

「一気に3も上がるのか?」

「天候もだけどモンスターもレベルが上がるんじゃないかなって」

「確かに」

「となると……」

『俺が偵察してこよう』

「本当に任せて大丈夫かしら?」

『命を失う事は無いし失敗しても問題ないので行ってくる』

「分かった」


意外という顔をする久利巣

鳩サブレなどを可愛いからといって食べるのをためらうような人物ではない

そう思ったうえで頭から行くのがタロウだった


「迷子にはなるの?」

『俺は迷ったらご主人様の元へワープ出来る』


こうして拠点にいながら彼を待つ

食料問題があるので迂闊には動けないが停滞しつづけるのも怖い

妹が悪い奴に捕まっているなら急いだ方が良いかと聞かれる

しかしこのゲーム24時間がリアルタイムの10分

10日経過した所で100分になり2時間弱

余命数か月の妹が1か月経過するまで24×30×60÷10で4320


4320日の余裕があるので10年かかっても間に合う


「妹の空美(ソラミ)にはまだ猶予がありますから」

「とはいえ早い方がいいな」

「時間魔法がかかっているのでタイムリミットまで10年あると思ってて下さい」


慌てて少しでも道を踏み外す方が圧倒的に高リスク

やがて夜になりウサギ定石が戻ってきた

向こうの天気は『ここよりも少し強い雪』


「しかし時間がやけに早かったわね」

『俺はご主人様の元へ条件付きの瞬間移動で戻れる』

「条件?」

『移転まで動かずに60秒が必要であることと連発出来ない』


それぐらいなら今は気にしなくていい

箱を見つけたが召喚獣では箱が反応しないとの事で

薪の問題でここに来た今次は食料


「山頂にテントは張れそう?」

『箱の周辺は木が無く岩と土に雪が少し積もっている』

「2cmって所かしらね」

「二手に別れませんか?」

「食料の問題もあるから悪くない手だけど」

「テント一式運ぶとなれば大ごとだぞ?」

「川が無いなら水どうするねん?」


テントについてウサギ定石の力も加われば運ぶのは案外出来る

水については雪を溶かして飲めばいい

気温のと食料が一番大きく問題になる


「炊いたご飯をおにぎりにして持っていくのと缶詰め」

「雪を溶かして飲むなら鍋がいるな」

「粉末のスープがありますからそれと―――」


彦星の発案で簡素な風呂を作り一旦清潔にしてから行く事に

向こう側は木があまり生えていなくて火起こしするのはガスコンロになりそうなのだ

身体を洗う為のお湯が必要ではあるがろ過装置がうまいこと作動している


軽い準備をして就寝し翌日の朝に風呂、食事をして出発という話がまとまる。




「これ残った分をもってきーや」

「え?」

「カップ麺とかだとかさばって量を持てへんやろ?」


チョコ味のカロリーバーの残りを全て渡された。

彦星とも相談して決めたらしい

自分たちに今渡せるものは渡そうと


「アタシたちはお米もまだあるしなんとか出来るわ」

「板チョコも登るならいるやろ?」

「でも重量を考えて5枚ぐらいね」


板チョコ5枚は50グラムかける5で250グラム

鍋などに比べれば重さは大したことが無い

問題は『ガスコンロ』『寝袋』などかさばる物で


「荷造りって大変やなぁ」

「実際のキャンプならそこまででも無いわ」

「詳しいねんな?」

「強く聞けばペナルティになりかねないから明日の事だけ話そうか」


こうして荷造りをして就寝

翌朝に鍋にお湯を作りヒロとタロウで頭と身体を洗う

泥や汗など汚れの大半が取れたのでしっかりと身体を拭き朝食を食べ



「これ使えるんちゃう?」

「箱の中身―――棒?」

「トレッキングポール!!(山登り用の杖)」


見た目はスキーで使うものに似ているがどっちでも使えるのは間違いない

基本的に山登りは手の力より足の力(垂直に近い山だと手も使う)

それを手の力も加える事で体力は普通よりずっと消費が抑えられる


食事を済ませてテントを畳んで向かう事に


「岩が多い山なら滑った先に木とか掴めるものがねぇから気を付けろ」

「流石は勇者」

「まーな?」


ドヤ顔する女性は可愛い

とも言っていられない為に出発した

まずは下りでペースを速めない事

今までの経験からして体力は残したまま進むべし


「頂上までたどり着けなくてもいいからビバークしてでもゆっくり行こう」

「びば?」

「テントを張らない野宿です」

「―――分かったがもし暗く成ったらテント貼れるなら貼るぞ」


こうして二人と一匹で出発した

出発はAM10:12分

道中をとにかく休みながら遅いペースで歩き

下山したのは14時:02分


ここから冬景色を登っていく


「うさちゃんは大丈夫か?」

『俺は問題ない』

「うさちゃん?」

「いやいつまでもウサギ定石って呼んでるけどニックネームで呼ぶもんじゃねーの?」


確かに猫を猫と呼んでいるような物だが


「僕はこの呼び方がしっくりくるから」

『ならばそれこそが俺の名前だ』


次の山に入れば寒く防寒対策が少し甘かったと反省した

しかも世界が驚くほど暗いので進むのも危ない

ウサギ定石の話では偵察では今よりも明るかったらしい


「この付近にテントを立てて明日の朝に出発でどうかな?」

「俺も賛成だがうさぎちゃんは?」

『主人の意見に従う』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る