33話 目的



ごしごし、ごしごし(タオルでウサギ定石をふく音)


「僕は効率主義者であって合理的主義者ではないと思うんだよね」

『俺をタオルで拭く意味は?』

「毛を梳かす櫛(くし)がなくて!!」

『見た目を清潔にしていればいいのだろうか?』

「そうそう、こう……抱っこして寝るから」

『了解した』


おひるごはんの準備が出来たそうなので皆で食べる

その間に彼は自分で毛づくろい

癒される筈なのに頭痛がしてきて


ザザッ



玄関で帰りを待つがかかってきたのは義理の弟から


「空美ちゃんだけど今はXX病院よ」

「なんで病院!?」

「倒れていたの、とにかく急いで来て頂戴」


ザザッ


病院で言われたのは衝撃の一言だった


「この人工心臓は予備がなくて、僕たちではどうしようもないです」

「何で!?他の心臓じゃダメなんですか!?」

「他のものでは彼女の身体が耐えられません」

「予備―――そうだ予備はどうすれば手に入りますか!?」

「それが、このメーカーは倒産していまして」

「えっ」


本当にしばらく困り果てていた

出来かけていた彼女と遊ぶ事すら

けれどオフ会をしようと励ますような形で


「すっげーブサイクな顔してんな!!」

「帰るよこの野郎」

「今すげぇ大変なのは分かったからこそ俺にも相談しろよ」

「でも、僕らは」

「俺にとってあいつは義理の妹にあたるんだ」

「……そうですか」


居酒屋では金がかかるので家で話し合いをする事に

自分だけの力ではどうしもうも無く親友と義理の弟を頼った

そして妹のストーカーという中々不可思議な面子

倒産したメーカーについてなど様々な話をして



「ん?俺そのメーカー知ってるな」

「何でヒロ子さんがそのメーカーについて知っているのかしら?」

「俺たちが出会うきっかけになったオンラインゲームなんだけど」

「すごく話が脱線してないかな」

「最後まで聞けって、そのゲームを作っている会社の偉い奴が人工心臓を作っているメーカーの社長と親戚だって話を聞いた事があってな」

「ことがことだからメールなんてしてられないわね」


親友が言った


「なら会社に乗り込んでみるか」

「え!?」

「いくらなんでもこの人数で『会わせてくれ』って言えば多少は何か出来るさ」

「アンタ行動力さすがねぇ」

「妹ちゃんの彼氏は顔が火傷もあって迫力あるし最悪ゴリ押しで」

「彦星くんのソレをそんな風に使うのは……」

「いいわ、あの子が帰ってくるなら顔ぐらいさらして」


こうして乗り込み応接室へ

社長は5分もたたないうちにすんなり出て来て

予想外の言葉を言うのだ


「ゲームに参加してください」

「……デスゲームやギャンブル?」

「いいえモンスタークエストですよ」

「はい?」


皆その言葉に首を傾げた

違法ギャンブルをしろとか

金持ちの道楽で殺し合いに参加しろ、とか


「ただしゲームオーバーになった人は記憶を全て失います」

「え?」

「確かにその人工心臓は私が最後の一つを保有しています」

「金で譲れないのか?」

「そもそも100億出すから譲れという者がいるのです」

「100億!?」


その額を超えるとなればどのような無理をしても届かない

どのような詐欺ですら100億円もしぼりとった話を聞いた事が無く

金では勝ち目がない


「私はモンスタークエストUVR(ウルトラブイアール)のデバッカーが欲しい、全ての記憶が消えてしまうのでスタッフは消費出来ないし困っている中君たちが現れた」

「僕がそのゲームをプレイすればいいんですか?」

「詳しい事はのちほど、こちらにも準備がありますから」


ザザッ





「おーい、またどうした?」

「UVR(ウルトラブイアール)」

「なんだよそれ?」

「ウチらにも分かるように説明してくれへん?」

「感覚をすべて現実にする最先端ゲーム機―――で伝わりますかね」

「なんとなーく?」

「俺はわかんねぇけど」


彦星は黙ってもくもくと昼飯を食べていた

完全に状況を思い出した訳では無いが

『クリア』さえすれば妹は助かる

急ぎたい気持ちよりも絶対にゲームオーバーを増やさない事


ザザッ


1人の部屋に連れて行かれた

この時代にアナログな紙を渡してくる社長

『モンスタークエスト マウンテン』

山を登るゲームでサバイバル系らしい

ゲームでは最初に見た目を決めたりすることがあるが―――


「代償と特典?」


① 勇者コース

代償:MQ5の主人公をリアルな体験でクリアする必要あり

代償;現実世界の記憶は一生戻らないよ

特典:強い剣や回復魔法が最初から使える


② 賢者コース

代償:人に色んな事を教えようとするとペナルティで身体が傷つく

特典:記憶を失わない事、もちろんゲームオーバーになれば全て忘れる


③ 耐久コース

代償:クリアしなければならない事と理由の他を忘れる

代償:子供の姿に変わる

特典:スタミナが多く移動力が高い


④ 思い出の山コース

代償:その『時』より後の記憶

特典:思い出が一番強い山を『再現』します



ザザッ



現時点で全ての記憶が戻ってきた

小学生のころから一緒だった親友との思い出

妹の彼氏がキャンプで『妹を庇って顔にやけどを負った』事も


広子さんの


―――――――――――――――――――


「ここで妹を諦めるような奴を好きになった記憶はねぇ」


――――――――――――――――――


って台詞も



「おーい大丈夫か?」

「記憶が戻った」

「あらそうなの」

「彦星くん僕の事にーさんって呼んでたよね!?」

「……アタシからは言えないわよペナルティだもの」

「飯が冷めるしはよ食べた方がええんやない?」


急いで食べて改めて彦星に『にーさん』と呼んで欲しいという

呼んで欲しいなのでペナルティにはならなない

すこし考えた後で承諾されて


「ヒロさん」

「おう?」

「……ええと世界をクリアしないと僕の妹が死にます」

「え」

「中央の山を登りを手伝って下さい!!」

「いいよ」


即答なのがヒロさんらしい

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