28話 動く


朝になり朝食の準備をするが

食料はともかく寒さの対策に使う薪が本当に足りない

木をなぎ倒して燃やすかという話もあったのだが


「たとえ冬だったとしても生きた木では燃えにくいですよ」

「向こうの山に拠点を移すとか?」

「確かに温かいので暖房は必要が無かったのですが」


ヒロとタロウが話をしている横で大きめの薪をブルーナイフで切る彦星

唐突に洗え荒れるマスコットキャラクター

皆が現場に居合わせたので


『おいオマエ』

「アタシね?」

『この缶コーヒーを売りに来てやったぜ』

「値段はいくらかしら?」

『10個まで買えて一個500円な』

「個数制限があるのね」

『どうする?』

「全部売って頂戴」


観光地の珈琲屋の値段である

缶コーヒーというのでプルタブ式を想像したが

実際はペットボトルのような『フタ』がついたもの


『まいどー』


売りつけに来たボッタ君は消え缶コーヒーが10個手に入る

温めてお飲み下さいという文言

ちょうど朝ごはんの準備をしていたので焚き火で温めようかと話し合う


ザザッ


キャンプでの出来事だ


「焚き火の中に缶コーヒー入れたら缶が溶けた」

「すごくいい香りがしてる」


ザザッ


「お湯を作って温める方がいいです!!」

「ならそうしましょうか」

「この入れ物って火に弱いのに温めろって書いてあんの?」

「温めたら味を確認してみましょうか」


焚き火が一つしかないし鍋が足りない

しかたなくフライパンで温めて飲む

よく見て見れば『ミルク珈琲』であり


「あっこれならヒロさんも美味しいかもです」

「えっ?苦い香りしかしないんだが」

「どうぞ」


一口渡せばふわーっとまるでギャグ漫画のようにゆるい顔

デフォルメでもしたような『ふにゃっと』した表情に変わる

ここまで美味しいと思えたなら良かった。


「さてアタシが動けるようになったからここから作戦を考えなきゃね」

「彦星さんモンスターが出たら戦えますか?」

「んー勇気はあるけど最下層のモンスターぽいイノシシ一匹なら」

「圧倒的に僕たちには薪も食料も足りません」


さきほど箱から出てきたのはビニール紐

便利ではあるが食べられない

いい加減移動すべきなのだが



「問題は久利巣ちゃんよねぇ」

「ウチの姿やと体力が不安やねんな」

「向こうの5LVの山をまずは登って状況次第では移りましょう」

「俺達が今いる山が4で5って事は難易度があがらねぇか?」

「だからこそ登ってみて山頂の様子を確かめたいんです」

「確かめるだけならいっそ俺だけとか」

「情報の詳しい伝達が出来ませんので」



様々な話し合いをした結果は彦星とタロウで様子を見てくる事に

理由は力加減のバランスが最も大きい

仮にタロウと久利巣でペアにすればモンスターに対応する力が弱い

たとえ拠点から離れなくてもモンスターは出て来るのだ

最も問題になったのが久利巣で先発にこれ以上ない程向かない

しかしスマホのメールは完璧に使いこなしていたので

ヒロと久利巣の二人を残して登りに行く事に


「缶コーヒーは重いわね」

「水分は2Lのペットボトルを」

「テントはこれじゃ無理そうね」

「向こうに気があるとも限りませんから」


出来れば朝のうちに出発したかったが

話し合いや持ち物チェックが長引き昼間に

しかし結果的に功を奏したと言っていい


箱から大きなレジ袋が5袋出現した。


「これ絶対に必要よね」

「軽いですし食料をまとめるのも使えますから」

「1枚使って着替えを入れておくのはどう?」


こうして昼食を食べてからの出発となった

体力が付いて来たのか自分はやけに元気

というより彦星の方が先に限界を迎え


「痛みはないけれど休まないと無理ね」

「分かりました」


登山で実は気を付けなければならない事の一つ

『登りよりも降りる時』の方が足への負担が実は大きいのだ

魔法で回復したとはいえリハビリとしてはハードすぎた



「ごめんなさいね」

「大丈夫だよ、それより早めに言ってくれて助かったな」

「あら敬語がとれたわね」

「え?」

「タロウさんその方がいいわ」


ザザッ


「あらやだ雨が降ってきた」

「泊っていくか僕の傘で帰るか選んで?」

「タロウさんもうアタシはもう病人でもないんだから過保護にしなくても」

「え・ら・ん・で?カッパもあるよ」

「なら傘を借りるわ」

「暗く無い?懐中電灯は?外は寒くない?」

「じゃあまた今度ねー」


ザザッ



「彦星ッくん?」

「え」


ザザザッ



「私の彼氏になるか一生をかけておとされるか選んで」

「お兄様いる中で言うことじゃないし一生逃がさない気迫がすごいわ」

「妹が選んだ相手だから応援する―――けど」

「手は出すなっていうんでしょ?」

「いや何かあった時の為の保険に何がいるかなって」

「帰っていいかしら?」

「手を出して万が一ってこともあるしこれだけの仲ならゴールするんだろうけど」

「おーい?」

「そうだ検査とかちゃんと行ってる!?病気が再発する可能性あるんでしょ!?」

「分かった、分かったから落ち着て頂戴」


「そーだぞ!!病気は怖いからな」


「お父さん新聞さかさまだよ」



そこから記憶が飛び



「ソラミちゃん家にに帰ってないかしら!?」

「え?」

「一緒に帰る約束してたのにいつまでも来なくて!!」





ザザザッ



「タロウさん大丈夫!?」

「え」

「呼びかけてもぜんぜん返事してくれなくて」

「記憶がかなり戻ったみたい」


心配性だった自分

妹が選んだ人は昔から弟のように可愛がってきた

病気を二人で乗り越えココまで来たのだ

やがて高校生になって、ある日



「そうだあの日はソラミが家に帰ってこなかった」

「かなりの量を思い出したみたいね」

「僕、ソラミを助けるためにこの世界に自分で来てたりするのかな」

「ペナルティになるから言えないけど推理は出来るでしょうね」

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