22話 安静


タロウはもっと早く助けにいくべきだったと後悔した。


「まだ痛いですか?」

「むちゃくそ痛いし動かせへんねん」

「寝袋で大人しく出来ますか?」

「ずっと気にしとったねんけどウチ妙に子供扱いされてへん?」

「え」

「高校生やったはずねんけど」

「あら覚えてるのね」

「ウチあんた(彦星)と同級生やったんとちゃう?」

「そうね」


とてもいくつか謎が謎だがまずは安静にしてもらう事に

湯を沸かして自分たちも身体をある程度で洗う

状況が状況とはいえ自分は少し離れた場所でやった



「なぁタロウ」

「離れた意味!!」

「俺はキャンプ場に行って寝袋とテントを取ってくるべきだと思ってる」

「確かに狭いですけど降りるとなれば結構な一苦労ですよ」

「けど急いで降りる訳でもないし戻ってくるのは印(シルシ)も灯りもあるからな」

「こちらからの条件として写真をとっておいたので」


スマホのカメラ機能で撮っておいたテントの写真を見せる

中でも小さく軸になるポールが無く紐で吊るされた物

現在地の周りは森林なので紐をひっかればどこかしらに建てる事は出来そうだ


「この青いテントか?」

「寝袋はこちらをもって来て欲しいです」

「え」

「これはベルトで留められていますが寝袋でして」


冬用寝袋は空気を抜いて小さくまとめて袋に入れるのが主流

ある程度テクニックがいるが既にまとまっているなら話は変わってくる

キャンプ場が雨で流れてなければの話だ


「なんにせよ様子はみないといけないだろ?」

「スマホをもっていって下さい」

「ふむ?」

「これでマップを開けば最低限迷子だけはさけられます」

「通信機能はないのか?」

「まず今からいう説明を聞いて下さいね?」


文字の簡単な打ち方を説明した

すぐ使いこなすのはむずかしそうなので『あ』『か』『さ』の文字だけ

いきなり何も分からないお年よりにフリック入力をマスターしろとは言えない



「ウチのスマホ持って行ったらええで」

「いいのかよ?」

「どうせ腕が痛くてほぼ触れへんからな」


と言う訳でヒロだけキャンプ場に向かった

合図として『あ』無事 『か』到着 『さ』トラブル

これだけ決めてメールの確認方法を教えてからの出発


パンと水を余裕があるぐらい持っているしヒロの身体能力なら

今までの経験からして2時間もあれば到着しそうな計算が出た

そうこうしているうちに箱が現れ確認


ペットボトル一本で最初は何か分からなかったが


『あぶら』の文字


「ドングリをナイフで砕いて小麦粉や塩に油や砂糖でクッキーには成りそうね」

「なら僕はドングリを集めてきますから久利巣さんの事を頼みます」

「アタシは洗濯でもしながら様子をみてるわ」


久利巣の服は泥まみれだったし今は天気が晴れている

他にも汚れた洗濯物は多かった

そうなると水も綺麗なものを持って来た方が良さそうで


カラのペットボトル(2Lお茶用)とリュックを持って出発した


モンスターに出会った時の最悪を考えてナイフ一本を護身用にして




昼ぐらいに連絡が来て『あか』の文字

大きなトラブルは起きていない事が分かる

こちらもモンスターには遭遇せずに水とドングリを運ぶことが出来た


戻ってきたら彦星がハンマーを握りしめていて



「箱から出て来たのよ」

「そうですよね」

「これで焼いたドングリを砕いたら粉に出来そうね」

「粉ですか?」

「けっこういけると思うわ」


やいたドングリを砕くのを手伝って

少量の砂糖と小麦粉にドングリ砕いた物とに油を混ぜた物を作り

それをフライパンで焼いて食べる事に



「ちょっと手をかしてーな」

「はい」

「トイレ行きたいんや」

「アタシが付き添うわよ」


ちょっと思う所はあるがお願いしてクッキーを焼く

フライ返しが無いのでトングで挟んでひっくり返して

思ったよりも形になったので1つ食べれば香ばしくて美味しい


「美味しい」

「なーに食べとるん?」

「ドングリのクッキー」


二人にも渡せば好評のようだ

砂糖と油の残りが気になるが美味しいので今は良しとする

メールにて連絡『あ』


「問題は起きて無さそうですね」


久利巣の様子がおかしい気がして傍に

熱でも出たのかと聞く前に気が付いた

明らかに息が荒いのだ


「だ、大丈夫ですか?」

「彦星きゅん……はぁッ……本当に素敵ッ……!!」


思ってたのと大分ちがうセリフが聞こえて来た

いろいろ考えたが元気そうでなによりと思い

水を運ぶ作業に戻った



「……さっきの何だったんだろう」


拠点に戻る頃には既にヒロが帰って来ていた

余りの速さに何かあったのか聞くが

急いで登ってきただけの様子



「休憩ほとんど挟まずに来たから流石の俺でも疲れたぜ!!」

「お疲れ様」

「クッキーみたいな香りがするな?」

「作ってみたのだけど美味しいわよ」


ヒロがクッキーで休憩している間に持ってきたテントを見る

自立しないが軽くて運びやすい代物

今まで洗濯などに使っていた木にビニール紐を結ぶ

少し手間取る事もあったがテントは無事に作れた。


「寝袋の方もベルト外してしきますね」

「うわっ!?」


寝袋は種類にもよるのだが冬用はコンパクトにまとめられる

だから面積が突然大きくなりヒロが思わず剣に手をかけた

モンスターが出る世界なのは分かっているが妙に出ないしもういいかも


「何も無かったかしら」

「道中でモンスターに出会ったくらい?」

「怪我とかして無いでしょうね」

「あんなザコは剣が一本あれば俺なら余裕だな」

「頼もしいわね」

「んでモンスターが箱を落としてな」

「そうなの?」


箱から出てきたとヒロが出したものは

誰がどう見ても『糸』としか言えない

かなり細く縫物以外に使い道は無く


「アタシが裁縫の時にでも使う程度ね」

「着替えが全部大人サイズだけど裁縫でどうにかできねーかな」

「確かに大きな物から久利巣ちゃんが不便なく使えるように作りかえるのは有りね」


手に水が落ちた感覚があった、雨がふりだしたのだ。

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