23話 雨の記憶
ザザッ
雨の日にスーパーへ行った帰りだった
我が家の窓に張り付く見覚えがある不審者
濡れながら妹の部屋を覗いている
「危ないから止めて下さいッ!!」
仕方なく不審者の久利巣を家に入れると妹とその『彼氏』が
玄関で待ち構えていてタオルを既に持っていた
二人で彼女をごしごしとふく
「もーストーカーはしていいって言ったけど濡れて風邪ひいちゃうよ!!」
「ウチは二人の時間を邪魔したらアカンのや」
「邪魔していいから2階の窓にはりつく真似を止めなさい」
「推しは推しだけの空間がええのに」
「お兄ちゃんドライヤー持ってきて」
ザザッ
現実に引き戻された。
「やだ雨が降ってきたわ」
「なら洗濯物だけさっさ取り込んじまうか」
「そうですね」
洗濯物を生乾きでも全てテントの中に入れて
やがて5分もしないうちに降り出した雨は大粒に変わる
急いで皆がテントの中に入る
意図せず彦星と同じ場所に来ていた
「洗濯したの失敗だったかしら」
「彦星さんって僕の妹が彼女ですか?」
「ペナルティ避ける為にこう言うけどアタシから情報は出ない」
「確かにその情報よりもペナルティが怖いですね」
「思い出すペースは意外と早いのね」
複雑な感情の正体が分かった
妹が選んだ恋人に対するモヤモヤ
自分はシスコンだった気がしてきた
妹に手をあげる最悪な兄では無いのでもう良しとする
今はペナルティをかいくぐって聞きたい事がある
なぜこの世界に妹はいないのか?
「仮説としてこの世界がゲームなら新しく参加する人っているかな?」
「分からないっていう正確な答えをするわね」
「妹が今どうなってるか『知っていますか?』」
「―――本当にに酷いクソッたれなリスクだわ」
ザシュ
「えっ?」
ゲームで敵を攻撃したエフェクトが光った気がして
「ア゛ァッッッ!!」
彦星の足から血が流れていた
急に太ももをまるでナイフで切られたかのように
ズボンに穴が開いて血が噴き出している
寝袋の他に何も無いテントから飛び出す
ずぶ濡れの身体を気にする余裕は無かった
「ヒロさん」
「どうした?」
「回復呪文は使えますか?」
「無理だ」
「彦星さんが大怪我しました」
足の怪我は少し見ただけでも酷く深かった
包帯はもう無かったので清潔なタオルを持ち
彦星待つのテントに戻って来た
「手当てします」
「ふー……ッ」
言葉を発する事も出来ないほど深い傷
痛むだろうが包帯を巻いて縛らせて貰った
こうしなければ出血多量で死んでしまう
「気付いて、るんでしょ?」
「僕が悪かったですから黙ってて下さい!!」
「殺して頂戴」
「何言ってるんですか!?」
「役に立たない味方を養っている余裕は無いはずよ」
この世界がゲームだとは仮説で思ってる
けれど今までの痛みや感覚と苦しみからして死ぬのは
現実世界でどうなるんだ?
今この状況で『死』を迎えたらどんな目に遭う?
ザザッ
暗い部屋で顔も思い出せない誰かが言った
「実際には死なないがペナルティとして現実の記憶を全て失う」
ザザッ
「タロウッ」
「すみません少し気絶してたかもしれないです」
「彦星の体温がどんどん低くなってやがるんだよ!!」
なりふり構っていられずコンロを持ってきてテントの中を温め
いざという時に備えて貯めて来た薪をかまどに入れて
風が無いので水も焚き火に当たる事は無かった
ブルーシートの屋根は非常にザーザーと五月蠅いが
今は火が起こせればよかった
石を焼いて温めたものを火ばさみでタオルに入れ
彦星の所へ持ってきた
「……」
「おい死ぬな!!」
息も脈もまだあるので下手に動かさず寝袋の上に寝かせる
本来寝袋は自力で中に潜り込む設計であり
足を少しも動かせない状態では乗せるのが限界だったが
「俺の寝袋だ」
部屋には温めた石もあり寝袋をさらにかけた訳だが
夜の冷えはどんどんテントの中に入り込む
温かい物を食べさせたくても気絶した今は無理だ
「そうだカイロがまだあった筈!!」
カイロも貼って服などもテントに入れ面積を狭め熱を逃がさないように
『出来る処置』の全てをしたあと
自分たちがこれからどうするべきか話し合う事に
「なんも出来へんかった」
「お前の怪我は数日で完治すっから無理するほうが止めてほしい」
「少しの回復呪文を唱えられるまでどれほど?」
「最低でも明日の朝までだし遅ければ3日かかる」
箱が出現したので触れたらカロリーバーで
食べ物が出た事に対して落胆したのは世界に来てから初めてだった
今は食べ物よりもMP回復かせめて痛み止めが欲しい
彦星のテントに入り様子を見ると
「うぅ」
「起きてる!?」
「……お腹がすいたわ」
起きた事を叫びスープの粉をお湯に溶かして飲ませた
両手は自由なので自分で飲めた
これで少しはマシになるだろう
「箱から出て来たので食べ物には余裕があります」
「けれどこの足よ」
「ヒロさんの回復呪文まで痛むでしょうけど耐えて下さい」
再び寝かせて身体に触れる
体温は上がっているのでひとまず山場を越えたような気がした
再び眠る彦星を起こさないように静かに自分も美味しくないパンをかじる
流しそうになる涙をこらえて食べ終わったあとは
寝袋を持ってきて彦星と眠る事に
朝になり彦星は逆に発熱していた。
「水を持ってきますからね」
外はまだ雨続きで水はすぐ手に入る
しかし穴に貯まったものも降っている方も綺麗とは言えなかった
そこでとっておいた水を持ち彦星のテントに戻ってきた
「カイフ」
「凄いわね」
「魔法が使えるようになったんですね!?」
ヒロが回復魔法で彦星を治療していた
完全には治らないしまだ傷はふかいままだが
命の危機がある状況はとりあえず脱したとの事だった
「歩いたりは無理だろうが出血で死ぬことはもう無い筈だ」
「ごめんなさい、アタシもっとペナルティに気を付けるべきだったわ」
自分の方がはるかに悪い気がしている
「ごめん!!」
「え?」
「僕が探ろうとしたのが悪かったんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます