21話 救急


思ったより早く登りきれたが状況は予想の中では悪い方に入るだろう


「う……」

「カイフ!!クソッMPが足りなくて低級呪文しか出来ねぇな!!!」



怪我した幼い女性(小学生に見える)が1人

まさかの子供な上に手を怪我していたのだ

近くには水とタオルにビニール紐とカップ麺だが

食べた形跡があるが異常

箸が無く麺がずいぶんと硬そうだった



「君!意識ある!?」

「……あるでぇ」


でぇ?関西人の子かな


「傷はひとまず手当したが何か欲しい者はあるか?」

「食べ物かお湯くれへん?」


違和感の正体が分かった

自分たちは火があったから食べられたが彼女は無くて食べられなかったのだ

食料は多めに持っているので渡す


「これ食べられるか?」

「ありがとーな」


食べだす彼女だが子供は全然考えて無かった

彦星に連絡をする

『見付けたけど子供だった』

返事が速攻で来た

『名前は?』


「君、名前言える?」

「ウチは水木久利巣(みずき・くりす)やでぇ」


勝手に見させて貰ったスマホで漢字も確認した

食事は食べられたし意識もあるが酷く汚れているし

腕の傷も完全には治らなかった

クリスとだけ返事をして状況の確認を急ぐ


「俺がこの子を抱えて元の拠点に急いで戻るのはどうだ?」

「久利巣ちゃんはスマホ以外に重要な物ある?」

「鍋とランタンがあるで」


鍋は置いていく(即決)

ランタンはリュックに入れた

トングや濡れたティッシュも現場にはあったが置いて行く事に


「身体が冷えてやがる」

「カイロ出しますね」


応急処置はしたが利巣の顔色は真っ青

急いで山を下りていく


「暗くなってきてるから急ぎ過ぎるなよ」

「はい」

「今はお前が崖に気付かなくて落ちそうになっても手が空いてねぇ」


久利巣には下山と登山をする体力が無く

ヒロが抱えているが暗さもあり進むのが大変だった

途中でランタンを出してスイッチを入れ


午後5時に元の山に戻ってきた。


「ここからは印(シルシ)があるから1人で登ってもいいか?」

「いえ二人で登りましょう」

「理由を教えてくれ」

「ランタン無しで暗闇の中を登山するのは止めてください」

「了解だ」


昼であればタロウもヒロが1人で登る事を止めはしなかった。

しかし今まで山は午後5時を過ぎたら真っ暗になるのは時間の問題

印(シルシ)を付けたと言っても見えなければ意味が無い

ランタンには持つ為の場所が無く子供を抱えながらでは厳しい



「ここで休憩しましょう」

「分かった」

「……食べ物あるんか?」

「残り何本だっけ」

「8本あります」

「これしか無いけど食べれるなら喰え」


久利巣は2本渡されすぐ二つ食べ水も飲んだ

だが腕の傷は血こそ止まってはいるが本来であれば救急車を呼ぶレベル

自分たちもすぐ登る為に3本ずつ腹に入れる



「行きましょう」

「テントと寝るための奴があるからな!」

「寝袋です」




道中で何時頃になりそうかの連絡をしたり

暗くて印が見えづらかったりして

時間をかけて登り切る頃にはもう午後10時を過ぎていた。



「着いたぞ」

「ほらスープよ」


粉末の残っていたスープでとりあえず久利巣を内側から温める

カイロも貼ったのだがそれだけでは足りない

飲ませたあとは寝袋に入って貰う


「ウチどーしても生き残らないとアカンねん」

「何か覚えている事は?」

「……好きな人を助けるためにここへ来た事や」


疲れていたらしくスープとカップ麺を食べてからすぐ久利巣は眠った。

3人でようやく一息ついて余りのスープと余っていたどんぐりを食べ

まずは残っていた彦星に状況を報告してもらう事に


「アタシの方は箱から上下のジャージとパンツが出たわ」

「あの子には大きいですね」

「デカいだけなら別に寝ている事に不便はねーな」

「他には?」

「ランタンとタオルね、同じ物だったわ」

「食べ物は無しか」


その日はとりあえず皆が疲れていたので適当に寝る事に

今まで3つしか無い寝袋を使っていたのを一つ渡した

つまり1人は寝袋が無い


「二人とも疲れているでしょうしアタシでいいわ」

「マジ?」

「とにかく寝て明日に備えましょう」


テントの中はギリギリ寝られるぐらいの広さで

寝袋に入り身体はほぼ動かせない中で就寝する事に

あまりにも疲れていたので今日もかなりぐっすり



朝になり目が覚めてテントから出る

誰もまだ起きていないが箱があった

触れて確認してみればパンに変化したのだ。


「よしっ!!」


歓喜の声に3人とも起きて動き始め

久利巣も寝袋どころかテントから出て

頭をかきながら状況を飲みこんで行った


「この水て使うてええんか?」

「飲むかによるわね」

「頭だけ痒くてしゃーないから洗いたくて仕方ないねん」

「お湯沸かしてあげるから待っててね」


慣れた手つきでテキパキと鍋に水をいれて炊き始める彦星

水のろ過装置は土などが少し崩れていたがかき出して使えるようにしつつ

箱がパンに変わった事を言い皆に配った


「むっちゃ美味しいわぁ」

「最初はそんなに美味くねーって思ってたけど恋しくなるもんだな」

「熱湯だけど水で薄めて使うからこれくらいね」


ろ過装置の貯め水に沸騰したお湯を入れる

そして出来たぬるま湯を鍋にくんで彦星が言った


「裸になる方が早いわよ」

「……」

「水くんで来ますね僕」


いくら小学生くらいとはいえ女の子

いやちょっとまて


「彦星さんも男ですよね!?」

「そうよ、でも『この子』だから」

「え?」


気が付いたら裸になっている久利巣に上からぬるま湯をかける彦星

やけに信頼しているというか親子?は流石に無い

従弟や姪などで面倒を見ていた可能性


身体も含めて洗い終わった様子


「ほら着替えだぜ」

「ありがとやで」

「アンタってアタシの事は覚えているのかしら?」

「記憶にないんやけども妙に信頼はしとるよ」


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