18話 名称


「これがゼンマイよ」

「食べられるんですね」

「茹でて一晩放置するぐらいしないとアク抜きできないけれども」


よく生き残ってこれたと思ったがなるほど確かに生き残れるのも分かる

食べられる草を見極めて摂取していたら最小限で済む

山菜とやらはそこまで生えている訳でもなく


「腹いっぱいって訳にはいかないわね」

「あとはヒロさんがどれほど持って帰れるか」


拠点に戻ればかなりのどんぐりが鍋に

入りきらない程の量である

困り果てているヒロさん


「沢山どんぐり拾って来たら入りきらねぇ」

「そのようで」

「鍋でどうするのかしら?」

「なんか虫が喰われてる奴は水に浮くってさ」

「だったら少しずつやればいいじゃないの」

「それもそうか」

「けっこう浮いてくるわねー」

「俺はもう一度とりに行ってくる」

「気をつけてね」

「シルシをつけているから今回は大丈夫」

「なら僕は水を運びますね」


いくらろ過装置があるとはいえ

水溜め場の水は汚れていてのめるものではなくなっていた

太陽の影響もあってすぐ干上がりそうだ


「待ってこのどんぐり餞別したあとは何するの?」

「フライパンで焼けばカラが割れます」

「なら焼いておくわね」

「火は扱えますか?」


彦星は複雑そうな顔をしていた

黙ってうなずいたが何か『やってしまった』雰囲気だけ感じる

うっかり家庭の事情を知らずにお袋の味?って聞いたらお母さんいない人だった時

幼いころながらに感じたソレのような何か


「ライターと杉の葉があれば薪はもやせるわ」

「雨が降ったら消えてしまうのでかまどで」

「かまど?」

「ビニールですけど屋根になっているのでここの下で」

「んー……せめて石があれば雨もだけど鍋も置きやすくなるんだけど」

「石ならけっこう転がっていますよ」

「食料に余裕が無いならそのままでも作れはするだろうけど」

「いえ確かに今までも鍋を支えて無いと怖い所がありましたから」


そこらへんの石を小さくても大きくてもひとまず集めて

かまどにも様々な形がある

彦星の提案は鍋の壁を作ってバランスを取る事


「あとは穴を掘るのも手ね」

「というと?」

「スコップがあればの話だから」

「ありますよ」


テントから出してきた

地元ではスコップと言えばどちらかと言えば子供などが砂場で持つ小さいあれ

彦星がどちらを差しているか分からないが穴は掘れるだろう


「なら穴を掘ってそこに作れば多少は楽に作れるわね」

「詳しいんですね」

「キャンプにはよく行くから思いついただけよ」

「お年を聞いても?」

「んー高校2年生って所よ」

「実年齢です?」

「ペナルティを喰らいたくないから詳しくは言えない」


彦星も大人で見た目が若いだけという可能性もある

本人がそこそこ覚えていそうだが『ペナルティ』では聞けない

また怪我をされるしクリアに必要な情報ではないことだ

それに高校2年生だと本人が主張しているならいいだろう


「では『かまど』を作りましょう」

「賛成よ」

「パワーってある方です?」

「手先の器用さぐらいは自信あるけど力は無いわね」


まずはざっくりと穴を掘って

次に石を集めて来て試しに周りにおいていく

形がバラバラなので小さいのを並べて

泥を被せて焚き火を開始

乾いてくると割れたりするが割れた箇所に泥を塗り補強


「思ったより時間かかりましたね」

「でもこれで安定して使えるわ」


簡易ではあるが『かまど』の完成である

これなら鍋が焚き火から落ちる事も無いだろう

コンロでやった時に安定感がいかに重要なのか身にしみてわかった


「まずはフライパンでどんぐりを炒(い)りましょう」

「ならアタシがやるわ」

「箱が出たようですから見てきます」

「箱?あーもしかしてアレを箱って呼んでるのね?」


指差した場所には『箱』があった


「はい」

「正しい名称は知ってるけど箱でいいわ」


ゲームにおいて実は正式名称で呼ばれないものは数多くある

例えば公式があとから発表した名称など

元々たとえばアカリと呼ばれているキャラがいて

電球型をしているから皆が暫定的に呼ぶ

そしてやがて公式が『ピカピカ』などという名称を出して来ても

定着せずに皆がアカリと呼ぶ事は珍しくない


つまり何を聞いても多分ここから先は『箱』って呼ぶ自信がある


「触れるとアイテムに変わるって事は知っていますか?」

「おおよその認識ぐらいね」


箱は手袋に変わる

見覚えがあるが持っていた記憶は無い

彦星も首を傾げていて


「手袋かしら」

「知らないのか?」

「アタシ高校生だしブランドとかなら分からなくて当然でしょ」


ロゴがある訳でもないし防寒具としては優秀だろうか

今までは軍手で鍋をもったりしていた

あっという間に汚れてしまうので手袋は食材ではないが良かった



「俺が戻ったぞ」

「お帰りなさい」

「これって『かまど』か?」

「鍋のぐらつきを防ぐ為に作りました」

「確かに鍋を吊るす為のもんが無いからなー」


ヒロの記憶はモンスタークエスト世界だが

旅の道でキャンプをするときは鍋を頑丈な紐で吊るしていた

ヤカンのような形状をしていたので可能だったが

自分たちが持っている鍋は持ち手が二つある現代の物

IHとやらには多分対応していない


「どんぐりは沢山あるから料理すんの大変だろうけど」

「そうだ先ほど箱が手袋になりまして」


ヒロに見せたら驚いていた

装備したと言えるのか己の手にはめ

グーパーと握り開きを繰り返して


「これ火炎耐性の手袋じゃね?」

「あっ」


そうだモンスタークエストでは主に耐性があって

眠ってしまうとか毒になるとか最悪の場合は即死もある

防ぐには『耐性』がついた防具がいるのだ

しかし鎧などには滅多に耐性が無くピアスや手袋で何とかしていくのだ


「どういう事かしら?」

「よーするに鍋とかつかめる」

「鍋つかみ(ミトン)?」


言い方がアレだが間違ってはいない

本来はモンスターが炎とか吐いて来た時に活躍する防具なのだが

炎に耐性があるなら出来はするだろう


「だいたい合ってイるかと」

「なら丁度いいわね」




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