17話 3人目
少なくとも敵意は無さそうなのでランタンの元で落ち着いて話すことに
「俺の事はヒロって呼べ」
「田中太郎です」
「……あなただって人の事いえない名前してるじゃない」
なんだかモヤモヤする
女々しい人が苦手だから?
自分は『こういう』の差別しない人間だったと思う
このモヤモヤは何か友達に冷たくされたような、違和感
頭痛がする
ザザッ
妹の部屋にはこの男
そして自分は手にケーキを持っている
そして運んできた
「これ良かったらどうぞ」
「アタシにもくれるの?」
「妹が決めた事だから応援するけどやっぱり僕さみしいっていうか」
ザザッ
「思い出したッ!!」
「また頭が痛いのか?」
「お前は妹に何かしたのか!?」
彦星は固まった
喋らないという方が正しいかもしれない
しばらく待っていたら一言
「全部を忘れた訳じゃ、無いの?」
「答えろ!!家族は!?」
「落ち着けタロウ」
一度冷静に考えてみれば
もし妹に何かしていたとしても今の自分は正しくない
さぐりを入れるべきだった
「アタシ契約上言えないのよね?」
「それは誰に聞いているんだ」
彦星は壁に向かって話しかけている
動きは自然な人間のソレ
いわゆるNPCには見えず
「なら言えることをおしえてほしい」
「アタシはあなたたち二人の事を知っているわ」
「俺も!?」
「あなたでしょヒロコちゃん」
「ヒロコ?」
「あなた自分の本名すら差し出したの!?」
何か重要な事を彼(?)は知っている
あることを聞こうとする前に事件は起きた
彦星の腕が何もないのに切れたのだ
まるでカッターで誰かが傷つけたかのように
「おい!?」
「ペナルティッ―――こんなもんでもなるのねッ!?」
すぐに傷の具合を確認した
彦星の腕に出来た傷は幸いにも流血はしているが浅い
回復魔法ならばすぐに治療可能だろう
「回復魔法は出来る!?」
「おまえさっきまで」
「やれるかやれないかなら!?」
「カイフ」
魔法で彦星の傷は治っていく
一般人ならここで驚くだろうが
彼(?)は感心しただけの様子
「こういう風になるのね」
「何か話せばペナルティになるのは分かった」
「そのようね」
「持ち物を確認させてほしい」
残り2つしか無いパンと水筒
そして裁縫セットに『寝袋』が
最初の拠点のキャンプ場にあったのと同じ
「盗んだけどアナタもよね?」
「お互い様だからいいです」
「よかったわ」
「これ先に聞きますが性別ってどちらです?」
「男ヨ」
「え、普通に?」
「ペナルティーにひっかからない範囲でいうとアタシは女の子が好き」
「そ、そうなの!?」
ヒロの方を見る
そうなると自分はともかく彼女である
襲われたら―――
「俺を元から知ってるらしいな」
「ペナルティになるからこれ以上は言えないわ」
「なら俺を抱くことってできるのか?」
えっ
「何いってんのよヒロちゃん!?」
「へーそう呼んでたのか」
「だってアンタには―――――」
ヒロが彦星の口をふさいだ
そしてゆっくりと放し
荷物を確認しだす
「何か言えば傷が出来ちまうなら黙ってろ」
「そうね」
ザザッ
また記憶の扉が開く音が聞こえた
病院だが妹では無い
「ごめんなさい心配かけて」
「命は一個しかないんだぞ!?」
「そうねアタシが助かったの奇跡かも」
「信号無視とか―――あの野郎!!」
そうだ信号無視
車に彼が跳ねられたって聞いて
何かとても心配していた
「うふふ」
「死にかけて笑う!?」
「身内の事みたいに怒ってくれたのすっごく嬉しくて」
「だって―――」
ザザッ
この異世界にまた戻ってきた
「アタシ山を登ってきたから眠くて」
「まだ聞きたい事はあるんだが」
「今は寝てもいいかしら?」
「飯なら余裕があるから喰えよ」
「いいの?」
「タロウ次第だがな」
自分の決断は決まっていた。
「食べて」
「だ、そうだ」
「ありがとねタロウちゃん」
彼に裏切られたとかそういう記憶は無い
何より命の危機に自分は誰より早くかけつけた
それだけは思い出せたのだ
「僕らはクリアするべき何かがある?」
「言いたいけれどペナルティをうけるわ」
「首を縦に振るだけでいいから」
縦に振ったが特に怪我などが発生する様子は無い
今まで一緒のテントで寝ていたのだが
男二人と同じ場所でいいのか気に―――
「……」
「……」
二人とももう寝ていた
気にしてるのは自分だけなようなのでふて寝のように寝袋へ
3人もいれば狭いが日中の労働と先ほどまで緊張していたので
気が付けばもう朝
「箱ッ」
「あらおはよ」
「彦星さん何しているんですか?」
「アナタたちの服穴だらけだったから縫っているのよ」
家庭科の成績5を感じる
ヒロがパジャマに着ていたジャージはもう穴があったかも分からないのだ
化粧品らしきものを塗っていて驚愕する
「お、おしろい的な?」
「今時それ塗る人って特殊な仕事をしていそうね」
「それって何?」
「クリームならただの日焼け止めよ」
確かに外は随分日差しが強い
何故そんなものを持っているか聞けば
箱から出て来たらしいのだ
「日焼けすると動けなくなるかもしれないわ」
「確かに今日は暑いですね」
「野生の人参や山菜があったから鍋で料理してあるの」
作って貰った料理を食べる
最初は味が心配だったがそれなりの物
緑色の植物も入っていたが
「シソが生えてる所があったから入れたのよ」
「美味しいですよ」
近頃こういう野菜系を食べられて無かったので
薬膳料理のような甘味があった
味はそうとう薄かったのだが身体には効いているような気がしたのだ
「あら嬉しい」
「野草に詳しかったりします?」
「流石にキノコとかは分からないけど多少はね」
「ヒロさんはどこへ?」
「リュック背負ってどんぐりを探しに行ったわ」
「分かりました」
確かにかなり晴れているし今が絶好のチャンスだろう
箱を見にいくと無くなっていて
疑うようで悪いが聞いた
「それなら紐になったわ」
「どれぐらいの長さでした?」
「よく売っているビニールヒモと言えば分かるかしらね」
「どこに?」
「ヒロちゃんが目印にするために持って行ったわ」
縫物が終わったようで服が畳まれていた
3人になれば食品の足りなさが急務
どんぐりならば確かに食べられはするが時間と手間がかかる
「何か食料の対策を考えないと」
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