8話 出発


「全部運ぶ!?」

「正しくは拠点の引っ越しですね」

「やりたいのは分かったがそもそも1度に沢山運ぶのは無理だ」


テントは全部で6つもある

そのすべてが今は貴重品で簡単に手放す訳にいかないのだ

かと言っていつまでもここにいてはジリ貧である


「だから往復して運び出すのがいいかと」

「近くに川があるここを捨てるのか」


確かにそれはそうだが重要な事がある

山に流れる川というのは『どこ』から『どこ』へ流れていくのか

本来自然の流れのままであるならば必ず


「川は上にもある筈なんです」

「確かにそうだな」


大きな川はどこまで続いているか不明だが少なくともまだ上流がある

元々の山があるならば頂上付近まで続いている可能性は高い

そこで多く荷物を持って登り頂上の様子を見て決める事に



「どうでしょうか?」

「食べ物が手に入る可能性が高い方が良いし賛成だが様子にもよるな」

「僕も登らなければ何も分からないと思ってます」







翌朝の7:05分

硬いパンと他にテントから出て来た菓子などを食べて出発する事に

いざ持ってみたら重くて動きが鈍る


「重量オーバーって奴だな」

「少し置いて行くしか無いですね」

「『足りない』」

「え?」

「少し程度じゃ数分で動けなくなる」


ヒロは鍋、服、ナイフをリュックから出して

さらには貴重な水までもを取り除いた

ここまで話し合いをして食料と水がいかに大事かお互い分かっている

だからリュックから水を出したのは流石に驚いたのだ



「何で!?」

「川が山頂付近にも流れているなら上で補給する」

「でも保証はないですよ」

「その時は『戻る』選択肢をとればいいし引っ越し事体は川がある前提がいる」


確かに水は重くて抜けばかなりの軽さに

頂上付近で補給する事も考え2Lのペットボトルをカラにして荷物に入れた

先ほどに比べてこれならば登山をする事も可能だろう

あとは何かあったら途中で置いて行く事も考えて出発した


モンスターが周りにいる気配もなくトイレを早く済まして向かう



「よしっ」

「具合が悪く成ったり体力が低下したらすぐに言えよ」

「HPならともかく体力はすぐ減ると思うんですが」

「休むにしても動けなくて休憩している場合と体力を温存している場合は意味合いが大きく異なるんだよ、前者はモンスターが現れても逃げも隠れも出来ないからな」


川の流れにそって上へと登り出した

天気は曇りで少し寒いが動けば多少熱くなってくるだろう

雨が降って無いのが何より有難かった



「まだいけるか?」

「はい」

「目的の山頂に近づいてはいるのか?」

「地図を見た所すこしだけそれてはいますが」

「まずは山頂を目指すぞ」

「はいっ!!」


1時間は登ってきた所で休憩になった

荷物を持ち道になってない山を歩くのがここまでキツイ何てと考えの甘さを痛感する

レモンの飴で栄養を補給するが足りてる感じがしない

彼女一人に登って貰った方が良かった可能性も

だがここまで来たのだし


「頂上まで何も無ければあと何時間とか分かるか?」

「3時間はかかるでしょうね」

「今の速度でそのぐらいなら十分だ」

「食料も節約している余裕はなさそうですね」

「俺も『動く』のであれば食料を節約するのは悪手(あくしゅ)だと思ってる」


15分の休憩をを終えて出発した

山なので食べられそうなものがないかも確認して登る

もしかしたら魚をとることが出来るかもしれない事などが川を見ていて分かった


「釣り具とかは無いですけど」

「竿も釣り用の針も無くて捕まえるってなると厳しいな」

「その時は罠で捕まえましょう」

「罠って魔法罠の事か?」

「この世界では魔法が無いので道具を使って魚を取るんです」

「それが釣竿だろ?」

「いいえ網など他にもあるんです」

「確かにそれがあれば魚はとれるかもしれないが……あるのか?」

「ペットボトルで罠を作る動画をみた事があるだけですけど」

「水入れとして重要だから使いたくはないが魚がとれるかも―――ってのはいいな」


また1時間ほど登ってきたら思ったより早いペースで山頂にたどり着きそうだった

何より良かったのは池と湖の中間程度の『水のたまり場』が見つかった事

アプリで確認すれば現在地は頂上まで近かった

頂上を拠点にするなら必須だった条件が整う


「はーはーッ!!」

「休憩するぞ、お前の息の切れ方は動けなくなる可能性が高い」

「でもっ、もう近いですし」

「俺の冒険を知っているなら全滅を防ぐために回復するのがいかに重要か分かるだろ?」


時刻は10時を周り曇り空が晴れてきていたので今のうちに登りたい

しかしヒロは反対している様子

自分の体力の無さが原因なだけに申し訳ない


「少し休憩したらすぐ行きましょう」

「頂上まで時間がかからないって話だったな?」

「ここからまっすぐ登れば多分30分ぐらいでしょうか」

「なら休憩を多めにとって山頂で何か起きても大丈夫にしておけ」

「早くいった方が」

「今更だが敵はモンスター以外にもいるかもしれねぇ」

「え?」

「俺とお前はこうして『仲間』になれたが他の人間が占領してる可能性もある」


今までシゲトと一緒にいたという彼女の言葉

仲が悪かったわけでは無さそうだが片方が悪人なら食事を奪うこともあっただろう

ヒロさんと自分に面識があった事を思い出した今は彼女が自分に剣を向けはしないと思えるが突然こんな世界で出会うなど何が起きるか想像できない



「悪人で占領してたらどうします?」

「……様子にもよるが最悪の場合は俺が首を落とすかもしれない」

「僕も命は惜しいので強く反対出来ませんが」

「相手が人間なら本当に最終手段として覚悟しておいてくれ」


誰もいないのが理想だろうか

モンスターがいる可能性もなくはない

頂上に何も無いのが最も最悪なパターンで絶望以外に何も出来ない


けれど


「冒険って感じがして少しワクワクしてますよ」

「大した奴だな」

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