6話 始動



「戻ったぞ」

「僕、記憶喪失だったみたいです」

「同じ事を実はシゲトも言ってたんだ」

「記憶喪失だと?」

「家族や友達の事が曖昧になっていると」

「僕と同じ……」

「でも少しずつ記憶が戻って来たらしい」


包丁が見当たらずナイフでジャガイモやニンジンを調理して

夢中でゲームをやるかのように作業へ没頭した

いざという時に動ける自分に優越感

実際は恐怖に打ち勝つ為に虚勢を張っただけでも

気分がまぎれるのには丁度よかった


何よりお腹がすいて早くカレーを食べたくて食べたくて。


「米の炊き方わかるか?」

「詳しくは分かりませんが一応は出来ますよ」

「なら任せる、芋と人参は俺が剣で切るから」


ヒロはラスボスの魔王を撃つ為に世界で最も強い剣を手に入れた。

それは『キングソード』よ呼ばれ王族しか持つ事を許されない代物。


「キングソードでなくてもナイフあるので」

「こっちのほうが切りやすいからな」

「そんな大きいもの狭いテントで振り回して本当に大丈夫ですか!?」

「振り回す必要はねぇな」


思ったよりも簡単に剣で野菜はサイコロステーキのように切れた。

そういう技があったような気がするが何せ随分昔にプレイしたゲーム

曖昧な所だって多くあるのだ。




―――――――――――





カレーを作り終えて皿によそって食べる

紙皿があって本当に助かった。


「いただきます……ん~~~~ッ!!」

「本当に美味いなこりゃ」

「思い切って沢山カレー作って良かったッ!!」

「悪かったな、食材は節約しろなんて要求飲んでもらって―――」

「同意したのは僕ですから」


カレーを食べて落ち着いて来たらまた少し頭が痛くなる


ザザッ


この音がやけに不快だった


「どうした?」

「頭痛がしただけです」

「しかしゲームね」

「え?」

「お前たちからすれば俺はゲームというものの存在なのだろう?」


もしやと『ある可能性』を考え付いた

VRという言葉がニュースで言われていたのを覚えている

とてもリアルで近い未来には現実と区別が付かなくなるほどのゲーム機が出るだろうと



「ここ、ゲーム世界かもしれない!?」

「俺の世界がそうなんじゃないのか?」

「ゲーム世界って別に一つだけではなく沢山あるんです」


魔法が現実で存在していていたりするよりVRが進化した方が辻褄が合う

記憶が曖昧なのはゲーム機が何か故障したかそういう設定?

現実的すぎるリュックやカレーだが『確信』と言えるだけの自信が沸いた。



「確かに物語の中に入ってしまった―――って事なら俺も納得いく」

「そういえば山を登ったら箱があると言ってましたね?」

「今まで4か所全部あった」

「何かをすれば『クリア』になるかも」

「クリア?」

「世界で為すべき目的を達成する事ですね」

「魔王を倒すとか?」

「魔王みたいなのがいる可能性もなくはない、かも」

「そういえばシゲトがスマホ?を見ながら『この山を登ればクリアか』って」

「えぇ!?」

「何のことか聞く前に死んじまったからな」


自分のスマホを立ち上げる『おかしい』事が山ほどある事に気付いた

後ろにあった林檎のマークが無く代わりにゲーム会社のロゴ

モンスタークエストを作った会社フェニックスのマーク


アプリの大半が消えているし『メール』と『SNS』というアプリ

いわゆるラインとか呟くものに加えてゲームも無い

もう少し色々を入れていた気がするのだが


『メール』

『SNS』

『カメラ』

『メモ』

『マップ』



まっぷ?


開いてみればしっかり機能している

ただし道が書かれてはいない

矢印と『ランク3』『ランク1』などの数字が

示された一番近い方角を見てみれば山頂がありそうなのが分かった。



「VRだとすれば彼女は?」

「ん?」


ゲームキャラで実在しないのだろうか?


ザザッ



また頭痛がして思い出した


オンラインゲームのオフ会だった。

自分はもう高校を卒業している筈

なぜならビールを飲んでいたから


「俺がヒロだよ」

『えー!?ヒロさん女の子だったの!?』

「女の子って年でもねーけどな」

「ヒロさーん僕です!!タロです!!」



ザザッ


音と頭痛がして目の前には勇者のヒロさん



「また頭痛がしたのか?」

「……ヒロ、さん?」

「そこまで痛いなら毒とか喰らったかもしれねぇな」

「大丈夫ですっ!!」


僕は高校生じゃない、大人だ

何があって『このゲーム』をしているか覚えていないが

彼女はオフ会で会ったヒロさんだ


「もし何かあればすぐに言ってくれよな」



ザザッ


「もし何かあれば俺が何とかしてやるよ」

「僕ら出会って5分ですけど」


ザザッ



「ヒロさん、僕の事に見覚えってありますか?」

「ある」

「えっ?」

「キスをした奴に似てる」


キス!?オンラインゲームのオフ会とかそういうのではなく

まさか自分と彼女はキスをする関係だった?

人生初のお酒をいっぱい飲んで、そのへん記憶が無い


やっちまった系ではないかと血の気が引いた

お酒で無理やりとか最低な事をしてないだろうか

本当にそうだとしたら思い出された瞬間に終了である


「えーと詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」

「俺はよく覚えてないんだが慰める為だったかな」


心の中でガッツポーズをした

自分が酒によるやらかしをしていなくて本当に良かった

けれど一緒にしていたオンラインゲームの事も多くを思い出せない


「ただあのっあなたも現実の人間でっ―――」

「偽物の記憶ではなく俺も『ゲーム』をしていたのかもな」


剣に触るヒロさんだがそれが偽りの記憶だって言うつもりは無かった



「でも!ゲームでも仲間だったのは本当だと思うんです!!」

「なら俺とお前もこれから旅の仲間だな」

「世界に目的やクリアがあるなら……一緒に冒険しましょうか」


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