5話 ゲームの知識


「ここまでくると楽園だぜ」

「着替えられて良かったですね」


名前も思い出せない部活仲間の服をヒロさんが着ている。

3週間も2着はかなり大変だったろうし今は有難く『借りて』おこう。

本人が生きているかも同じ世界にいるかも分からずで

この服が返せるならむしろ謎がいくつか解けてくれそうだ。



「そういやタロウは俺の相棒、ルナを知ってる雰囲気だったな?」

「一応ですが知ってますよ」

「出来事は何を言える?」

「ロイさんが『俺が食い止めるからいけ』って離れるところとか?」


驚きのラスボス前で仲間から抜けるキャラクターは皆困惑した

そこで離脱!?と誰もが思ったのだが

シナリオでは彼が追って来ていたモンスターの大群を橋を落として止めたのだ

冷静に考えれば最も魔王討伐で役に立ったのは彼かもしれない。



「ならかなりの事を把握しているんだな」

「こっちからすれば見ていただけ……詳しい事までは厳しいかもですね」

「それだけ知っててくれるなら話が出来て助かるさ」


だんだんと日が昇って温度があがり火がなくても普通に過ごせるようになった

そこで借りて来たリュックをもう一度よく確認する事に

着替えの他に飴(フルーツミックス味)、ミニタオル、ナイフ、割り箸

地味に嬉しかったのがメモ帳とボールペン

メモ帳は1枚目に『トイレットペーパー』と『マヨネーズ』とだけ書かれている

残りは白紙だった。



「分かった事をメモしていこうかな」

「俺も何時までも生きてられるとはかぎらねぇし書くものあるってのはいいな」

「笑えない冗談ですね」

「死ぬつもりは確かにねーけどさぁ」

「けど?」

「急にこの世界に来たんだから急に帰っても不思議はねーだろ」


それは言えている

自分だって急に訳が分からない状態にされてしまったのだ

これが元に戻るのはもしかしたら突然なのかもしれない


「あ、ボディソープ!!」

「何だぁ?」

「身体を洗える液体の石鹸です」

「マジ!?」


清潔と言う意味では洗った方が確かにいいし気温も高くなってきた

ただ普通の水が貴重品なのが最大のネックだ

ジュースならまだ500CCが一本残っている


「外にはどれぐらい出ない方がいいと思いますか?」

「明日までが最低限だ」

「仮に出会った場合は戦えますか?」

「俺だけ一人だけなら何とかする」

「僕が戦ったら」

「ナイフがあるみたいだけど野良犬ですら負けそうだから止めてほしい」


確かに一般的な野良犬に正面から戦えたりはしない

子犬ならともかく一般的な犬に噛まれるなら実はかなり危険なのだ

狂犬病というどんな病気か詳しくは知らないが致命傷な感染にさらされるかもしれない


「そう、ですね」

「闘いは俺がやるからお前は後ろに下がってろ」

「僕も男なのに」

「男でも弱い奴はいていいだろ別に、現場にいるとかえって邪魔」


こんなハッキリ言われるとは


「何でそんな」

「タロウガおれの世界を知ってるならポークル王子について覚えてるだろ」

「あー」


氷の国の王子で自分は何でも出来ると勘違いして面倒な事をするキャラ

ボス戦でHP10しかないなポークルが固定メンバーに入ってくる

あれ本当に邪魔でしかなかった


「おなじ存在になりたいか?」

「下がってます」

「だろ?」


面倒な敵より面倒な味方の方が大変なのはゲームでよく知っている

何もおかしな事はないなと自分のスマホやらを色々と確認した

奇妙な事にSNSのやりとりがほぼ消えていて


『カレーにチョコ入れるとうまいらしい』


顔も覚えていないが部活仲間から来たメッセージだ。


「あっ」

「どうした?」

「他のテントに野菜が……あるかも」

「じゃあ全部が見てくるから中で待っていてくれよ?」

「分かった」


出て行った後は5分もかからず戻ってきた

リュックを大量に抱えている

なかにはレジ袋らしきものもありソレには野菜が



「ジャガイモと人参だな」

「カレー作ろうとしてたからね」

「この世界にもあるのか」

「砂漠の国で出て来ましたね確かに」


荷物を躊躇なくRPGのように漁る

流石に人の家から泥棒したりしないが今は状況がおかし過ぎるので一旦忘れる

鍋や1.5Lのジュースが数本出て来た。



「これ酒か?」

「サイダーです」

「知らないな」

「甘いですが少しビールのようにシュワシュワするので苦手な人もいますがどうぞ」


出来心もあって薦めてみる

どんな反応するのか見てみたい

水が貴重なのは分かるからこそ断り辛いだろう


「まぁ甘いなら……んっ!?」

「どうです?」

「これなら俺も好きだな」


笑うヒロに邪悪な心で差し出した罪悪感

美味しいならいいやと自分も飲み野菜を確認する

野菜の袋からザラザラと奇妙な音が聞こえてきた

中身を全部出してみると生米が5袋入っている


「一袋で1ごうかな?」

「ごう?」

「お米を炊く時の……何て言えばいいやら、単位?」

「でも米なんて高価なもの盗んで大丈夫か?」

「緊急事態だから」


我ながら適応力が凄いし空腹になってきた

カレーのルゥも出て来たしカレーを食べたい

昨日から食材を節約してたからお腹が減って仕方ない


「俺が鍋に水を汲んでくればカレー作れるか?」

「作れるよ」

「なら俺は水を確保してくる」


ヒロがテント外へ行くのを見た途端だ。


ザザッ!!


スピーカーからノイズの音がするような雑音が急に聞こえ

何か記憶の切れ端が蘇ってきた


『タロウはお兄ちゃんになるのよ』


この人は確か母さん?


『いつも我慢させてすまない』


父さんだ、でも二人とも思い出すのは泣き顔ばかり

仲のいい家族だった筈なのに

自分が貧乏な境遇にあったような気がして来た


『お兄ちゃん』


妙な事に思い浮かべた妹は自分と同じほどに背が高かった。





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