第8話

「良い写真、撮れるようになったじゃん!」


 彼女からおだてられ、あれこれと構図についてリクエストを受けながら、俺は青空そらを撮りまくった。

 その中から厳選した写真をTwitterへと毎週アップしていた。


「まあな」


 アップした写真にはどんどんとイイネが付くようになり、全くかかわりの無かった人からリツイートされることすらあった。

 それに伴い、フォロワー数も増加し、今や俺のフォロワー数は四桁を越えている。

 いつの間にか彼女のためだけの写真ではなくなっていたのである。


「あの……、ちょっと大事な話があるから、聞いてもらえるか?」

「?? 改まっちゃって、急にどうしたの?」


 改まっての話は、確かに珍しいかもしれない。


「いや、ちゃんと伝えようと思ってな」

「何? 何? もしかして、愛の告白!?」

「ちげーし!! ただ、最近バイトを始めたってだけだ!!」


 先走る彼女の言葉を必死に打ち消し、強引に本題へと入る。


「お、バイト良いじゃん。お金でも貯めるの?」

「まあな」


 予想通り、彼女は俺の話に食いついた。


「何か欲しいものでもあるの?」

「欲しいものというか……。以前、ペンギンの写真、送ってくれただろ?」


 ペンギン大好きな彼女は、もちろん引っ越し先のオーストラリアでもペンギンに会いに行っていた。

 しかも、野生のペンギンである。


「そうだね。私が撮ったやつだよね? それがどうかしたの?」


 彼女は自身で撮ったペンギンの写真を俺に送ってくれていたのだ。

 その中の一枚には、俺が作ったTシャツを着た彼女とペンギンのツーショットもあった。


「…………俺も野生のペンギンを撮りたいと思ってさ」

「ん??」


 彼女は気付いていないようだ。


「だから、多分半年後とかになると思うんだけど……、そっちに写真撮りに行っても良いか?」


 努めて冷静に、俺はしっかりと言葉を絞り出した。


「!? もちろんだよ!! 私、ペンギン撮るための良い場所知ってるよ!! いやいや、もっと、更に良い場所探しておくから!! 誰も知らない場所を探しておくから!!」


 一気にテンションが上がり、いつも以上に饒舌となる彼女。

 彼女につられ、嬉しくなった俺はついポロっと言ってしまった。


「ああ、任せたよ。シズク」


「ええ、私に任せておけば間違いないから!! ……って!? 今、私の名m――」

「……あーーー!! ちょっと電波が悪いみたい!!」

「えっ!? 嘘っ……!?」


 …………彼女の声はそこで途切れた。


「さてと……」


 通話停止を押したスマホをジーンズのポケットへと突っ込み、俺は空を見上げた。


 今日の天気は見事な快晴だった。

 雲ひとつない青空が広がっている。

 青空そらのお腹の色と同じだ。


 つまり、青空そらの撮影をすべき、絶好のペンギン日和というわけだ。


「だから! またあとでな!」


 ポケットから伝わる振動に声を掛け、バタバタと手を上下させる青空そらへと俺はカメラを構えた。


(終)

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ペンギン日和 小鳥鳥子 @kotoritoriko

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