第3話

「そのTシャツ、青空そらちゃんよね?」


 今週の彼女の目線は、俺のお腹を捕えていた。


「ああ、青空そらの写真をプリントした自作のTシャツだ。この世にひとつしかない一点物でもある」


 俺は着ていたシャツを少し引っ張り、写っている青空そらを彼女へと見せつけた。


「最近の青空そらちゃんかな? 水中から陸へと飛び上がっているところよね?」

「まあ、そうだけど…………、お前にはあげないぞ?」


 興味津々といった様子でシャツとこちらの顔を交互に見る彼女に、俺は釘を刺した。


「べ、別にいいもん! 来週、見てなさいよ!!」

「……??」


 意味が分からず、俺は首をかしげた。

 意気込む彼女にどういう意味かと尋ねたのだが――。

 結局、口を尖らせるだけで何も教えてはくれなかった。



 そして、翌週。


「ジャーン!! どうよ、これ!?」


 効果音と共に両手を大きく広げる彼女。

 そんな彼女が着ているTシャツには、彼女が描いたと思われる青空そらのイラストがプリントされていた。


「おおー、なかなかやるじゃん!」


 青空そらが左右の手をバタバタさせ、羽ばたいて空を飛んでいるとても可愛らしいイラストだった。

 俺の言葉に大きく胸を張る彼女は、得意げな表情をしながら言った。


「でもね!! ショウにはあげないよ!?」

「いや……、別に欲しいとは言ってないだろう……」


 もしかして……。

 この一言を言い返したいがために、お手製Tシャツをわざわざ用意したんじゃないだろうな?


 ――行動力が半端ない彼女である。

 そうとしか思えない俺は、得意げな表情を崩さない彼女に苦笑するしかなかった。

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