第2話

 おしゃべり好きな彼女の話には脈絡みゃくらくがなかった。


「あのさ、青空そらちゃんのあの色は生まれつきなのよね?」


 今週も『ペンギンを北極へ連れていったらどうなるか』という話から、突然別の話題に飛んだ。

 俺は話題が飛んだことには触れず、彼女の中から湧き出る疑問に淡々と答えていく。


「多分そうだな。こげ茶色の羽毛が抜けつつあるときから、あの色は見えていたし」

「へ~~~」


 青空そらは通常のペンギンとは、お腹の色が異なっていた。

 通常は白いお腹が淡い水色、つまり空色をしているのである。


「お腹が空色だったから、青空そらと名付けられたってことよね?」

「そうだと思うけどな」


 青空そらと名付けられたから、お腹が空色になったというわけではないと思うが――。


「もしも名前が先だったら面白いわね。さすがペンギンってとこね」


 何故か誇らしげにしている彼女。


「そういえば、羽毛があるときから、青空そらちゃんのことは知ってるのよね?」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、もしかして、そのときの写真もある!?」

「ああ。もちろん、あるぞ」


 青空そらのことは公開前から知っていて、公開直後から写真を撮り続けていたのだ。

 もちろん、焦げ茶色の羽毛に包まれたモコモコ時代の写真も撮ってある。


「見せようか??」

「見せて! 見せて!!」


 俺の提案に物凄い勢いで食いついてくる彼女。

 その勢いに気圧されながらも、俺は持っていたカメラのプレビュー画面にモコモコな青空そらを映し出した。


「かっわいいーーー!!! ……良いなぁ、、私もこのときの青空そらちゃん、生で見たかったなぁ~~~」


 写真を見せた瞬間、青空そらの可愛さに感動、そして、悔しさをにじませる彼女。

 だが、その一方で俺は疑問を感じていた。


「……ちょっと待て」

「え? 何?」

「……お前には、これが青空そらって分かるんだな?」


 写真では青空そらのお腹は焦げ茶色の羽毛で完全に隠れてしまっている。

 彼女は青空そらをお腹の色で判断しているわけではない。

 とすると――。


「分かるに決まってるじゃん! このくちばしの形、青空そらちゃんだもん!!」


 ……さすがはペンギンマニア。

 くちばしの形でペンギンの個体識別をやってのけるとは――。

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