ペンギン日和

小鳥鳥子

第1話

 いつもの週末。

 いつものように地元の小さな水族館で、青空へとカメラを構えた。


 ――と言っても頭上にある空ではない。

 対象は『青空そら』という名のキングペンギンである。


 辺りをキョロキョロ見回していた青空そらが、よちよち歩きで水際まで移動し、華麗なジャンプで水中へと飛び込む。

 その瞬間を逃すまいと、俺は連続でシャッターを切る。

 ゆっくりと息を吐きながら、顔を上げたときだった。


「君、ペンギン好きなの?」


 彼女は呼ばわりしてきた。

 しかし、どう見ても俺と同じくらいの年齢である。


「まあね」


 いぶかしげに彼女を見ながら返事する俺だったが……。


「そうなんだ!! 私と一緒ね!!」


 笑顔の彼女が飛び跳ね、つられて彼女のポニーテールも飛び跳ねた。



 * * *



「ずっと一人で写真撮ってたの?」

「まあな」


 毎週末、俺は一人で水族館へと通うのが日課だった。


「……友達いないのね」

「お前っ!? うるさいなっ!?」


 そんな俺に水族館で出会った彼女は遠慮がなかった。

 思ったことを素直に口にするタイプで、俺とは異なるタイプだというのはすぐに分かった。


「そういうお前はどうなんだよ!?」

「だって、私は引っ越してきたばっかりだもん~」


 余裕の笑みで俺の言葉をかわす彼女。


 この水族館で俺はいつも一人だったのだが――。

 彼女と出会って、一人ではなくなった。

 妙に馴れ馴れしい彼女が俺といつも一緒にいたからだ。

 ペンギン好きと言う共通点は、タイプの違いをも凌駕りょうがするものなのだろうか?


「しかし、引っ越した先にこんな素敵な水族館があるなんて……。きっと、日頃の行いのおかげね」


 青空そらへと手を振る彼女は、かなりのペンギン好きだった。

 水族館にはペンギン以外にも様々な動物たちが暮らしている。

 しかし、ペンギンたちに一番近いこの場所にいる時間がもっとも長く、笑顔でいることも多かった。


「日頃の行いって……、何か良いことでもしてるのかよ?」


 彼女のことは週末だけしか俺は知らない。

 しかし、いつもペンギンを眺めて、俺とだべっているだけに見える。


「してるわよー。いつも世界中のペンギンに平和が訪れることを祈ってるのよ」

「…………」

「……何よ、その目は!?」


 無言の俺に何かを感じ取ったらしい彼女は、ほっぺたを膨らませながら俺への愚痴を並べ始める。

 その愚痴を聞き流しつつ、平和を感じた俺はよちよち歩きをする青空そらへとカメラのレンズを向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る