第20話 花の迷宮、恋螢


玄関から百鬼夜行のような不吉な物音が聞こえる。


その不気味な音源はだんだん大きくなる。



私は目を頑なに閉じ続けた。


京都の四条河原町で焚かれる香木のようなに吐息を感じるし、野暮ったい目頭が火照り、じりじりと上昇するように微熱を帯びていく。


そこにいる人の正体は殊更ながら分かっていた。



彼だ。


私はこの逢引きを春宵が過ぎ去るまで待ち望んでいる、酷く恋情に拙い私がいた。


もう、いいんだ。


この先の赤い展開図は分かっている。



彼は荒々しく息を散らしながら、私に近づき、不敵な苦笑交じりの嘆声を漏らすと、私は胸奥から熱くなり、私は目を閉じ続ける。


太腿や下腹部も恋慕が発火し、ビーカーに内奥された酸性の溶液から世紀の発見が生まれるように化学式を超え、



私の恋水は流れ落ちていく。


私のカサカサに乾いた唇は見る見るうちに塞がれ、息も意中できない。



その夜半の悟りから他の誰でもない手が花の迷宮へと侵入していく。



「この卯の花の簪で鍵穴を開けるように」


 彼の声が誰もいない、細雪を散らすようなまっさらな臨場の小部屋の中で響いた。


「君の秘密の扉を開けてしまうんだ」


 

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