第13話 銀河流離譚


前髪から後ろ髪までびっしょりだったし、脹脛も痛かった。



その瀟洒な洋館の門扉は半永久的に閉ざされている。


軒下の釣鐘草型の外灯は消灯されておらず、私は全身の力を振り絞って、ネモフィラやアネモネ、勿忘草や長春



花が咲き乱れる庭園に踏み入れ、チョコレートのような断面の門扉を大きくノックした。



「真君、そこにいるんでしょう、開けて、私よ、真依よ、お願い、開けて」


心中を察するような乱れた問いかけも聞こえない。



あの湖へ泳いだとき、湖底に得体のしれない魑魅魍魎を私は感じた。



呻き声も殺す憎しみ、やるせない憤り、ふらつくような怒り、心の扉を溶かしたガーネットで閉めてしまうまでの哀しみ、その想いの欠片が浮かんでは浮かび、浮かんでは岸辺へとさよなら、と言伝を残すように沈んでいった。


沈んでしまった腐敗した桜花のような感情は、どこへ爪弾きのように持ち去っていけばいいのだろう。


私はそれでも、声を肺腑の奥底から振り絞る。



「私よ! 真依よ、お願い、真君、開けて、開けて!」


 これがダメならこれから先もまた、ずっと運命は暗転したままだ。



「開けて!」


真鍮色の硬いドアノブが壊れたのか、鉛筆が階段の上から転がり落ちるように開いた。


こけそうになり、身体を思わず崩したものの、私はすぐに粉塵まみれの、灰神楽が降り注ぐ入室した。



「真君? どこにいるの? 私よ、真依よ」


中は晦冥のように暗い、と感づいたのもそこまで、いや、室内は普通の家ではなかった。



その箱の中身は星雲を宿した幻影の村だった。



たくさんの銀河系が悠久の歳月を連れ添いながら天地無用、惨禍を知りもしないでこの小宇宙の軸である自転を回っている。



母なる太陽系の外れには、不透明なビー玉のように描く、デジタル絵画のような砂の惑星、小糠雨を散らつかす、星の運河が幾度もなく追い詰められた戦火の二人の誓い合うように流れ、君のローズピンクは堕落していく。


 

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