第11話 湖


「あなたは誰なの?」


 少女は腰まである長い髪の毛を揺らしながら暗闇でも照り映えるように微笑んだ。



「小夜里。私の名前は血捨之木小夜里」


私と同じ苗字の少女か。


何か、因縁のように感じたのは私だけだろうか。



「あなたをあなたの大事な人がいるところまで連れて行くの。その人は魂がさ迷っていからここに攫われてしまったのね。私はあなたみたいに心の底から助けたいと思う人や誰かの幸福を祈りたい人を案内するの」


「小夜里さんは前に案内したことがあるの?」


厳格な掟を遵守する、うら若い巫女さんなのだろうか。


水浅葱色の袴を纏い、黒髪は卯の花の花簪で律義に結ばれている。



「あるわ。その人もまたあなたが大事に思う方と同じように人の幸せを心の底から願っていた」


君は今すぐにでも死者と対話したいくらい、一刻も冥界の旅路へと急ぐくらい、死にそうなんだ。


あの御池に潜って、水泡の精霊にでもなろうとしたくらいなんだ。


他の人の人生を構っている余裕なんかないはずだ。



「あなたの大事な方は御池の底にいます」


 小夜里さんは初めて会ったばかりなのにこれまで、何度も会ったような気がした。



「私がご案内します」


相槌ともに仄かに暗いトンネルと抜けると、そこは広大な紺碧色の湖だった。


碧い水面が綺羅星のように煌めき、北斗七星、剣星を抱く山々は白妙に照らされ、湖の真ん中に浮き島が気恥ずかしさを待ち構えるように湛えていた。


その小島には小さなタイル張りの洋館が建立され、その人々の営みを感じさせるような、洋館の湖畔の右側には、大きな真珠色に発光した、万朶の桜の木がその家の主を守るように天空に向かって生えていた。


「あそこにいるのね。私はどこか入ってはいけない、禁則地に足を踏み入れてしまったのね」


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