第10話 天地長久
あの池は池じゃなくて本来ならば、幾度の大噴火でもたされた、地球の憤怒で生まれた火山湖。
地表から炎の津波が噴き出して現れた、難問を突破したがる探検隊も魅了する、地底湖。
噴き出た粘土や軽石で出来た巨岩は、遥か彼方まで吹き飛ばされ、灰塵も強風に乗って、どこまでも飛んでいった。
それは天地長久に渡る、未来永劫の歴史が始まる前の大地の人の伝説。
その揺るがぬ大地が動いてから数千年の歳月が流れた後日、一人の皇子がこの皇子港でご覧遊ばせられた、と伝承では謂われる。
私は時の常闇を抱えてしまうかもしれない。
あまりにも畏れ多く、深く絡み合う残酷な時流に逆らってはいけない。
とある皇子さまの言い伝えも、ただの片田舎に伝わる伝説じゃない、と高校生になった私は多少なりとも理解はできる。
先日、分厚い単行本で目に留まった。
ここで語り継がれた星月夜の伝説がかつて、国を滅ぼした事実を。
小さい頃の私は御池の岸辺や祓川に皇子さまが暮らされていて、その日々の営みを大切に過ごされていた、と冀っていた。
深山に狩猟に出向かれ、熟した野苺を摘まれたり、水を汲まれたり、水田を耕されたり、稲の苗植えを植えられたり、稲穂を刈られたり、夜ごと夜ごとの炉端物語を親兄弟に囲まれ、長老から聞き入れながら暮らされていたんだ、と想像を巡らしていた。
いや、あまりにも忌まわしい大戦の黄昏が隠されていたから、もう、長い間、語り継がれなかったと謂う。
私はその封印の扉をこじ開けるんだろうか?
そんな過ち犯しても罪に問われないだろうか?
私には分からない。
私は私の故郷に伝わる、伝説が好きなだけだ。
それ以外の何物でもない。
「真依さん、こっちよ」
目前には一人の古風な出で立ちの少女が呆然と立っていた。
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