水竜式乾燥機
ハーデスと共に再びカードゲームに興じていたリンが、ふっと顔を上げる。
「どうした」と問いかけたハーデスに苦々しい表情を浮かべ、「またアレだ!」と憤慨しながら手持ちのカードをベッドに投げ捨てた。
リンドブルムのオーウェン公爵邸に滞在していた時の事だ。晴れ渡った空の下、広々とした公爵邸の庭をあてどなく散策していたリンは、たくさんのメイド達が大量の洗濯物を干している所に遭遇した。
暇だったリンは、気まぐれに【
鍛錬をすれば汗をかく。汗をかいたら水を浴びる。とはいえまだまだ春の風は冷たく、ぐっしょりと濡れたままでは寒いなぁと思っていた十兵衛にとって、リンの魔法は渡りに船であった。
いそいそと「俺も服ごと乾かしてくれないか」とリンに頼み込み、彼女は二つ返事で応えたのだった。
「それに味をしめてな。あいつ、風呂に入るついでに洗濯もこなして、しょっちゅう乾燥をせびるんだ」
「ハハハハ!」
「笑いごとではない!」
「便利屋ではないのだぞ!」とプンプン怒りつつ、なんだかんだで面倒見のいい白竜は十兵衛の呼ぶ声に応じて風呂場に向かう。
リンの想像通り、洗濯し終えた服を濡れたままで着ている十兵衛とスピーがそこにはいた。脱衣所に出ることなく、風呂場のタイルの上でリンの到着を待っていた十兵衛は、「リンー! 今日も頼む!」と元気よく乾燥を願う。すでに換気用の窓まで開けている始末だ。
「お前な! 我を便利に使うなよ!」と怒りながらも、リンが魔法で蒸発を施す。その見事な水の操作に、スピーは目を丸くして感動に頬を染めていた。
リンの後ろから着いてきていたハーデスが脱衣所の壁に手をついて覗き込み、からっからに乾かしてもらった二人に苦笑する。
「十兵衛。リンが怒っているぞ」
「む、すまない。だがとても便利でつい……」
「コラ。厚意を便利にすげかえるな。お前だって、その打刀がなんでも切れるからと木材を切り出すために何度も呼び出されたら腹が立つだろう?」
ハーデスの柔らかな苦言に、はっと十兵衛が目を丸くする。
怒ったように頬を膨らませていたリンに申し訳なさそうに眉尻を下げ、「ごめん、リン」と深々と頭を下げた。
「うむ、分かればよいのだ」
「そうだよな、魔法だって魔力とやらを使うんだ。疲れるし、大変な作業だものな……」
「……む……」
猛省するように声を落として呟く十兵衛に、水竜としての自尊心が刺激される。
「便利だからと厚意に胡坐をかいて、気軽に頼んでしまってすまなかった。もう二度とやらないから」
「い、いや、そこまで言わずとも別に……」
「いや、大丈夫だ。こればかりはハーデスの言う通りだ」
「気づかせてくれてありがとうな、ハーデス」と笑いかけ、十兵衛がスピーを連れて風呂場を出ていく。
それを唖然と見送ったリンだったが、やおら唇を戦慄かせ、ハーデスをぎっと睨みつけた。
「オイ! なんかすごいむかつくんだが!」
「何がだ。まるく収まっただろうが」
「濡れた服を乾燥させる程度の魔法が、我にとって大変な作業だと!? 我は水竜だぞ!? ふざけるなオイ! 十兵衛!」
「何度だって乾燥させてやるわ!」と床を踏み鳴らしながらリンが追いかける。
部屋に戻っていた十兵衛はリンの申し出に「いや、申し訳ないからもう……」と遠慮するが、リンは侮られたと思って「これぐらいなんだ! 何度でも願え!」と憤慨するので収集がつかない。
それの最たる原因が、大騒ぎをする二人にきょとんと目を丸くし、不思議そうに首を傾げるのだった。
「俺は反省したんだ! だからもういいんだ、リン!」
「むぁーーーむかつく! 焼かせろ世話をーーーー!!」
「いやもうなんなんだ一体! おいハーデス! ハーデスーーー!!」
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