2月10日・あとっち用2

※序盤の導入と説明を会話文でやらせてみました。これで《ソード・デュエル》のルールが伝わるかのチェックをお願いします。ルール説明は地の文で書いたけどくどくなるので、会話形式にしました。


 ◆一:プロローグ(十月・第十三シーズン)


「くそっ……」

「はっ! ここはテメェみてーな初心者が来るような場所じゃねーんだよ!」

《フルトラッキングシステム》を採用した対戦型VRゲーム《ソード・デュエル》。

 その第十三シーズンの予選。

 俺は圧倒的な《力》の前になすすべもなく倒れていた。

 鍛えたつもりでいたロングソードは《奴》の大剣に軽々とへし折られ、揃えた防具も粉々に砕かれ、破片がそこら中に散らばっている。

《カジュアルモード》とは全然違う。これが毎プレイ《本当のお金と同等のランクポイント》が動く世界で戦っている《PVPプレイヤー》の強さなのか。

 大剣をギラつかせ、ダウンした俺を見下ろす巨体のアバター名は《グリード》。

この《PVPモード》は《カジュアルモード》での剣技や立ち回りと大きく違う訳じゃない。ただ《賭かっているもの》が《本当のお金》となれば、必然的にプレイヤーの緊張感は高まり、必死さへと変わっていく。

 一度なら負けてもいいか、という気持ちが一瞬でも生まれたら敗北が決定してしまうこの《PVPモード》の恐ろしさと、それにすべてを賭けている人間の強さを俺は改めて思い知った。

「そんな中途半端な装備じゃこのPVPは生き残れねぇぞ! オレ様はなぁ! この《ソード・デュエル》で優勝し続ける! そしたら金も名誉も好きなものが手に入るからなぁ!!!」

 俺だってこの《PVPモード》を選択したのには理由と覚悟があった。絶対に守りたいもの、失いたくないもののために、優勝して賞金を手に入れる。

 そんな想いで《PVPモード》に臨んだ。俺の目的は絶対に正しいし、その気持ちがあれば絶対に優勝まで届く。そう思っていた半月前の自分を殴りたくなる。

 悔しい。

 何よりこんなやつに……自分の欲望ばかりの奴にすら勝てない自分の弱さが許せなかった。

「残念だったな。きさまのランクポイントはいただくぜ!」

 立ち上がる力がない俺に、容赦なく大剣が振り下ろされる。

 俺の防具は粉々に砕かれ、ライフポイントが根こそぎ奪われる。

 システムウィンドウが表示され所持ランクポイントの半数が《グリード》へと移動すると、俺の眼前には《YOU DIDE》の文字が表示され、始まりの《中心街》へと戻されたのだ。



 ◆二:《ソードデュエル》



 VRゴーグル等を使い仮想空間を楽しむことが普及し、今では手足など身体数カ所にセンサーを着ければ仮想空間で思い通りにアバターの操作を可能になった。それがフルトラッキング技術だ。

 年々改良され、昨今ではVRゴーグルが脳波を感知し前進、後退、ジャンプなどの三次元的移動も可能になりあらゆる分野で期待される技術になった。

 VRFPSゲームである《ソード・デュエル》はVRフルトラッキングゲームのタイトルとして王者に君臨する大人気ゲームだ。

 未曾有の大戦が終結し、法と秩序と重火器が衰退した世界で≪己≫と≪剣≫だけを頼りにこの世界を生き抜いていく――その世界では生き残るためなら何をしてもかまわない。

 高層ビルは崩壊し、家屋は蔦にまみれ、汚水が溢れる荒廃した都市。それらを囲む砂漠、草原、森林、火山の厳しい自然。

 大戦で舞い上がった粉塵は今なお成層圏を漂い、砂嵐が我が物顔で世界を荒らす。

 そんな殺伐とした世界観と、生き残るための略奪、殺し、下剋上の横行。人の欲望を刺激するその設定により、その人気は留まるところを知らない。

 プレイヤーはフルトラッキング技術で、本当に剣を持ったような感覚を体験でき、実際の動きに合わせてアバターで戦いを繰り広げ頂点を目指す。

 そして何よりも優勝者に《賞金》が出る《PVPモード》がさらに人気に火をつけ、今では参戦するプレイヤーも相当な数になった。

 単純にゲームを楽しむ《カジュアルモード》。

 そして《ランクポイント》を取り合い、賞金獲得を目指す《PVPモード》。

 この二つのモードでライト勢とガチ勢を獲得し、今や《フルトラッキングゲーム》の代表格になったのがこの《ソード・デュエル》だ。

 その《PVPモード》に参加するようになってから三ヶ月目の十二月。

 俺はついに決勝進出の可能性を手にし、とある配信を見つめていた。



◆三:予選(十二月・第十五シーズン)



『さあ大注目の《PVPモード》第十五シーズン予選も、決勝まで残すところ今日を含めて残り三日となりました! 本日は二連続優勝中のグリードさんにインタビューをしてその様子を配信していきます! 三連覇がかかっていますが決勝まで行く自信の程は?』

 マイクを向ける進行役の女性アバター。

 毎シーズン、予選の後半では、優勝候補プレイヤーからコメントをもらい、イベントを盛り上げる企画が行われるのだ。

 グリードと呼ばれた大柄で筋肉質な男性アバターは、木製の大ジョッキに入っている酒を一気に飲み干すと、

『自信だぁ? 誰に向かって言ってんだよ! 今回もオレ様に決まってんだろ! 貯まりにたまったジャックポットの賞金は今回もいただくぜぇ!』

 と大きく笑い、さっそく進行役の女性を困らせていた。

 配信は現実世界の端末からも見ることができるが、ゲーム内に仮想設置されているパブリックビューイングで見ることも可能だ。

 俺はウエスタン・サルーンを思わせるゲーム内の酒場の隅で、画面越しにグリードを睨むように見つめていた。他にも数十人のプレイヤーが酒を飲んだりポーカーに興じながら思い思いに映像を眺めている。

 やつは調子に乗って、空っぽになった木製ジョッキを床に叩きつけると己の強さをアピールする。ジョッキは茶色いポリゴン片となって消滅した。

 進行役の女性は、グリードの乱暴な振る舞いに困り顔を見せつつも、

『グリードさんは警戒されているプレイヤーはいたりするんですか?』

『なんだぁ? オレ様に敵がいるってのかぁ!?』

『い、いえ、そういうわけでは……ですが今シーズンの予選では短剣の《マインゴーシュ》を駆使した女性プレイヤーが急激にランクポイントを伸ばしてきていますよね。なんでも暗殺者みたいに忍び寄って相手を後ろから一撃! 《血の暗殺剣》って異名までついてるとかなんとか』

 進行役の女性アバターが短剣で突く動きを真似て見せると、張り詰めた空気が少しだけ緩くなる。

『短剣!? そんなクソザコに負けるわけねーだろっ!』

 リーチも短く攻撃力も低い短剣は、アイテムスロットに余裕があったら護身用に入れておく、その程度の物でしかない。

 剣で戦い頂点を目指す。それがコンセプトのこのゲームにおいて短剣は最弱だ。

 それはマインゴーシュも例外ではない。柄にガードが付いていて、利き手と逆の手に装備して攻撃をいなすように扱う程度。ゆえに主力の剣にはなり得ない。

 もしそれを自在に操るのなら、自身の存在を悟られれずに近づいて必殺級の一撃――それこそ無防備な人間を背後から仕留めるプレイヤースキルが必要になる。

 ましてやランクポイントがリアルマネーに還元できる《PVPモード》において、わざわざ勝率を下げる短剣という選択は通常ならありえないのだ。

 既に短剣使いのことなど忘れてしまったのか、今度は自慢気にその大きな拳で自らの防具をガンガンと叩く。

『それにこっちもガッチガチに鍛えたからよぉ! 前回より硬いぜぇ!』

 進行役の女性アバターは、コンコンと防具を叩く。

『これは相当な防御力。並の剣じゃあ刃が立ちませんね!』

 気分を良くしたのか、グリードは大きく笑いながら、

『ったりめーだろ! どんなレア剣の攻撃も通さねえぜ!』

『……それはすごいですね』

 グリードを持ち上げながら進行していた女性もそれには心底驚いたようだった。

 それからグリードは三杯目の酒をあおり、自分語りを加速させる。

 チラチラと時間を気にしていた進行役の女性は、話が途切れた瞬間に、

『それでは最後に。この《ソード・デュエル》の魅力を改めて視聴者にお伝えください!』

『そりゃ《PVPモード》に決まってんだろ! 勝てば金が手に入って、優勝したらデカい賞金! オレ様はずっと勝ち続けて大金持ちだぁ!!!』

 その後、進行役のテンプレート的なあいさつでインタビューは終了した。

 前回優勝者のさらなる装備強化に、絶望する者、真剣に対策を練る者、誰が優勝するかの博打を始める者が現れ、あっという間に酒場はいつもの喧騒を取り戻した。


「いやー、今回もグリード一強って感じだな」

 細身のサングラスをかけたアバターがやれやれ、という仕草をした。それを合図に酒場にいた連中が思いおもいに配信の感想を口にする。

「誰かあいつ止めてくんねーかな。強すぎ」

「だな。大剣強すぎだし、その上防御も硬いとか反則っしょ。ってか対面したら怖すぎるわ」

「わかる。俺、睨まれただけでHPバー全損した」

「いや、ねーだろ。まぁ、気持ちはわかるけどよ」

 確かにグリードの存在はそのぐらいのレベルだ。……俺も過去に一度予選で負けたことがあるが、あれは戦いを――いや、プレイヤーからあらゆるものを奪うことを楽しんでいる目だった。

「アニキ! 俺、来月から《PVPモード》に参加したいって思ってたんだけど、あんなやついたら優勝とか無理な気がしてきた……」

 グラサン男をアニキ、と呼んだのは彼の横にいた小柄で小太りな男アバターだ。

「お前はそれ以前にもっと強くならねーと。《カジュアルモード》でも勝率半々ぐらいだろ?」

「う、うん……」

「それじゃあ《PVPモード》だと話になんねーぞ? このモードは《ランクポイント》を毎日集計して、下位の三分の一は足切りで《決勝への権利》を失うんだよ」

「足切り? ランクポイント?」

 小太りの男は首をかしげる。

 確かに《足切り》も《ランクポイント》も《カジュアルモード》にはない概念だ。グラサン男はまた一つため息をつくと、

「まず《PVPモード》に参加したら《ランクポイント》ってのが配られるんだ」

「そうなんすね」

「で、《PVPモード》では負けると勝ったプレイヤーに手持ちの《ランクポイント》の半分が移動する。シーズンが終わったら全プレイヤーは所持ポイントに応じて現金の還元がある」

「え? みんなお金貰えるんですか?」

「つっても参加費の一万円を回収できるのは、三割ぐらいのプレイヤーだ。だから日々ランクポイントを稼いで、上位三分の二に残り続けないといけねーんだ」

「参加費一万円でその回収率か……みんなよくやってますね」

「まぁ、足切りされても《決勝への権利》を失うだけで《PVPモード》では遊べるからな。それにランキングや決勝に絡まなければ、自作の剣やレアドロップアイテムの売却も現金還元できるから、そういうのと合わせて毎月トントンぐらいにして遊んでいるやつも結構いるみたいだぞ」

「ってことは、賞金、ランクポイントの還元、アイテム売却やドロップ……と結構、現金還元の方法はあるんすね」

「ああ。だけどガッツリ稼ぐとなると、優勝以外はありえねぇ。他はおまけみたいなもんさ」

「そっかぁ……もうちょっと《カジュアルモード》で練習しようかなぁ」

「無理はすんなよ。どのみち誰かがグリードをぶっ倒してこの流れ変えてくれねーと《PVPモード》に来ても優勝なんて狙えねーよ」

 この酒場は《カジュアルモード》のプレイヤーと《PVPモード》のプレイヤーが両方入れるオープンスペースで、初心者やガチ勢じゃないプレイヤーもこの配信を見ているから、時々こういう会話を耳にする。

 俺ももともとは賞金なんて目指してなかった《カジュアルモード》の出身だったから、最初このルールを聞いた時は中々一筋縄じゃいかないと思っていた。

 事実、毎日権利プレイヤーとして残る連中はレベルが違う。その中でも毎日三分の一が脱落していくので、日を負うごとにレベルは上がっていく。

 十月から《PVPモード》でプレイして三ヶ月目の十二月。

 今月、ようやく俺はその決勝へと手をかけようとしていた。

 俺も今シーズンは《ランカー》としてそこそこ名前が知れるようにはなったが、以前グリードがダントツの強さを誇り、配信でも言っていたように突如今シーズンから現れた《短剣使い》の存在もある。

 楽に勝てればこしたことはないのだが、相手が《賞金》となるとそうもいかない。――わかってはいたが厳しい道のりだ。

 いつのまにかグラサン男たちは再びポーカーに興じて一喜一憂している。

 あれぐらいの気持ちで遊べたらな。

 俺は一瞬だけそう思うと、酒場を後にした。

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