第4話 もう無理だろ…

あの衝撃の発表から数日。正式にリーンバルト家からの苦情が陛下の耳に入り、ちょっとした?騒ぎになっていた。

結果、キャスレイ嬢は婚約者のまま現状維持、殿下は暫くの期間自室軟禁、のぞみ嬢は休学して召喚された理由のために王城に一室を貰い実質隔離。

キャスレイ嬢の進退は兎も角として、僕は日に何時間かのご機嫌伺いの他は殿下のそばを離れての自由時間となった。

「父さん、僕はこのまま殿下の側仕えを続けることになりますか?」

「まだ何とも言えんがな…出来れば、私としては辞したいところだ。政治に巻き込まれたくはないが立場が許さんだろうし、火の粉は殿下に近い程降りかかるだろう。お前だけでは済まんだろうからな。まぁ、リーンバルト家とキャスレイ嬢の出方次第であろうよ」

「そうですか…。そう言えば、のぞみ嬢は、どのような理由で召喚されたのですか?」

僕の進退はまだ保留と言われたので、気になっていたことを聞いてみた。

教えてもらえるとは思わなかったけど、召喚の指示は国王陛下自ら下したそうだ。理由は、「数千年に一度起こる、この世界の魔力枯渇に対応するため」との事。

女神より神託を享け、魔力供給のために異世界との境界に穴を開けるためだけに異世界から人を召喚し、元の世界に帰れぬその身柄を保護しなければならなかったらしい。

ホントかよ~!と思って笑えたが、どうやらいたって真面目な事らしく、王国よりも古い歴史のある古文書にも書かれていたそうだ。その為に、召喚して保護する国が消えてしまいそうだとは、きっと女神さまも夢にも思わなかったことだろう。

のぞみ嬢に特別な力があるとかではなく、たまたま選ばれただけの存在であると言うことで、増長しまくっていたのぞみ嬢は何となくしょんぼりしていると聞いて、スカッとしたのは内緒です。


そんなこんなで久々の自由を満喫しつつ、将来に不安と希望を抱え数日が過ぎたころ騒動は起こった。

キャスレイ嬢が投身自殺を図り一命は取り留めたものの、殿下のせいだと書き残したことで殿下が「自分勝手すぎる高慢ちきな反逆行為だ」と謎の激高の末、陛下の採択を待たずに投獄の後に絞首刑としてしまったのだ。この殿下の勝手には、リーンバルト家以下の派閥貴族が猛反発で、他貴族まで巻き込んで一触即発の内戦と言う王国の危機に陥った。

殿下の育て方を間違ったと認識しても後の祭りな陛下は、何とか貴族たちを宥めようとするも今までの事が累積している殿下に貴族は辛辣で、話し合いすら拒否する始末となっていた。僕的には、そりゃそーだ…と思うけども。


父さんは、国王の親友として親王派筆頭となっているが内戦は免れないと家族会議を緊急招集していた。

「すまんな、もう抑えきれん。俺は、陛下と共に逝く」

父さんが開口一番に頭を下げた。僕も母さんも兄さんも、目をまん丸にして声が出なかった。

「家の者たちは、暇を出して国外に逃がす。お前たちも逃げるんだ。遠くまで」

父さんの言葉に僕は、前から考えていた出奔計画を話すことにした。

ついでにはっきりと殿下の困った行動も、僕のやってきた苦労も全てぶちまけたら皆目が点になるほど驚いてくれて、僕の行動に賛辞を送ってくれたから、一瞬空気が和んでしまったけど。

計画は、僕のニセの無能ぶりを見せて殿下自ら僕を解任するように仕向け、家から勘当された体で国を出ると言う事。

その際、父さんは王の剣として残らざるを得ない、兄さんは軍属で離反したら投獄・爵位剥奪・一家まとめて絞首刑で残らざるを得ない、連れて行くことが盛り込めるのは母さんだけ、と。

まぁ、国家転覆となれば軍務違反も貴族社会のアレコレも、どうでもいいことかもしれないが、転覆後の立て直しを軍が統括することになるだろうと考えるとどうしたものかと思ってしまう。

「俺は完全に無理だが、レイオルは隙を見て逃がすことが出来るだろう。のちに合流して母さんを頼む」

「いやですよ?レイオルとマルセルが無事に生き延びられるならば、私は私の事よりも貴方を優先します。あの日貴方が、あの小さな部屋から私を連れ出してくれた時から、生涯を供にすると誓ったのですから!」

あんまり仲良し家族だったとは言えない我が家でも、やはりちゃんとそれぞれが愛情を持っていたらしい。兄さんにしても、父さんと母さんが亡くなろうとも中枢で生き残って、違う国となっても立て直して、いつか僕を呼び寄せると意気込んでくれていた。そして、その間はゆっくり見聞を広めて来いと言う。

僕は、愛情が希薄だと思っていた家族の深い愛情に涙を流していた。

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