第3話 やらかしやがった…

少女の名は、高坂のぞみと言うそうだ。のぞみ穣は、確かに日本人らしい長い黒髪と大きめの黒い瞳の可愛らしい少女だった。学年に1人くらい居そうな感じの人気のある子、が僕の彼女への第一印象。

だがしかし!その実態は…「私可愛いでしょ?そこそこ勉強もできるし。私ってモテるのよ?王子様から惚れられてるし、しょうが無いから付き合ってあげてるの。私の事、凄いって思ってもいいわよ?だって、救世主だもん」感が殿下の前以外だと凄く表に出てきちゃってる残念な子だった。


「殿下ぁ、待って下さい。少し早いわ。ドレスがもつれてコケちゃいます。綺麗なドレスもこんなに綺麗な靴も慣れてないから、怖いんです。だから、ゆっくり、ね?そばにいて下さい」

上目遣いで殿下に困った様に甘えるサマは、確かに可愛らしく見える。殿下もデレっと締まりのない顔で手を取りゆっくりと歩き出している。傍から見たら、初々しい感じに見える。

だがしかし!彼女の狙いは王国一の玉の輿で、殿下の目には幼い顔立ちに似つかわしくない大きなお胸が映っている。どっちもどっちで、金と権力と色の欲にまみれている。

はぁ…と、後ろから見ていてため息をついたのはコレで何回目だろうか?高価な贈り物を選ぶのも僕、授業中に乳くりあう2人を先生からフォローするのも僕、殿下の提出物に加えて彼女の提出物の面倒も見るのは僕、2人の仲を見た他の子女から嫌味を言われるのも僕。

側仕えって、こういう仕事ばっかりするものだったっけ?

何とかこれまでは騙し騙しやってこれたけど、そろそろ限界じゃない?僕。頑張ってきたと思わない?僕。

因みに言えば、僕以外にもう一人実際に被害を受けている人は居る。この国の公爵家の一つ、リーンバルト家の長女キャスレイ・リーンバルト嬢だ。

釣り合う家柄の釣り合う年齢の女性は彼女しかいないと言うことで、幼少期から婚約者として治政を学び、王宮作法を厳しく躾けられた才女で美人。

厳しく育てられたせいなのか少し感情表現は苦手そうだけど、優しい方で僕も何度か殿下をよろしくと声を掛けて頂いている。

その彼女をエスコートだけしてほったらかして、召喚されたのぞみ嬢にうつつを抜かし、あまつさえ妻の座までたった今約束してしまった。今日、キャスレイ嬢の誕生日で婚約の正式発表の日に彼女の目の前で。

アカンやろ…これは、どう考えても、アカンやろ…

キャスレイ嬢の顔が、僕にもわかるほどに青ざめてしまったじゃないかぁ!バカ皇太子ぃ!

若気の至り云々でごまかしごまかし、キャスレイ嬢にも貴族の方々にも大目に見て欲しいとこっそり裏から手を回していた僕の苦労は今、完全に水の泡と消えた。

「殿下、流石にこの場でのその発言は、いかがなものかと…」

「みんな冗談だと思ってるさ。別に妻が一人という決まりは昔の物で、正妻と愛妾が居たって男の子供さえ生まれたらどっちでもいいんだろう?誰も私には構わないさ」

小さくささやいた僕の声に、バカ皇太子は小さいけれどのぞみ嬢には聞こえない様に、でも近くの人には聞こえる声で言い放ちやがった。

あ~あ、リーンバルト家以下の派閥貴族も敵に回したな、こりゃ。王家の血の尊さも、尊厳や何やかんやを全部、どっかに捨ててきちまったな。

流石の父さんも面食らって、怖い顔のまま固まっちゃったよ。母さんのひきつった顔が怖いんですけど…?

殿下の父である国王陛下は、この発言を聞いてないけど、殿下の発言で貴族たちの離反は目に見えてきた。どれだけ持ちこたえるか分からないけれど、子供が生まれたら早々に皇太子が消されるか、反旗を翻されて王家の血が途絶えるかどっちかの未来しか見えなくなってきたな…

「殿下、流石に今の発言は看過できませんわ。ご自分のお立場をもう少し、お考え下さいませ。どうか、お願い致しますわ」

キャスレイ嬢が小さな声で殿下に抗議の意を唱えてみたが、殿下は小さなため息を落としただけで、何もわかっていない風ののぞみ嬢とダンスに行ってしまった。

ちゃんとキャスレイ嬢の顔を見ても居なかったな、あのバカ皇太子。ダメな男見本市に、出れるんじゃないだろうか?流石の僕でも、あれがクズの対応だと分かると言うのに。

小さく震えているキャスレイ嬢に、気分転換にこの場を辞すように促して母さんにそのフォローを頼んでみた。母さんは、ハッとして彼女を追いかけてくれたから、大丈夫だろうと信じたい。

「父上、なるべく早い時期に今後の対応をご相談したく思います。お願い致します」

「あぁ、そうだな。そうしよう…」


こうして、明るく優雅な皇太子とのぞみ嬢とは正反対の顔をした貴族たちと言う、何とも微妙な婚約発表パーティーは、感情を失くしたキャスレイ嬢の他には何の滞りも無く終わっていった。

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