第2話 なんだかなぁ…

あの出会いから僕はずっと、そして今日も、レオンハルト様の側仕えとして10歳から殿下の離宮に通い、12歳から初等武術院で3年を過ごし、高等武術院で2年目を過ごしている。

その間、可もなく不可もなく勉強も剣術も皇太子殿下の少し下の成績で、決して目立たずでしゃばらずに平凡に過ごしてきた。

はっきり言ってこの皇太子殿下、僕の顔と変わらないくらいの平凡さでびっくりする。僕は、王剣の称号を持つ父さんのせいで剣術の家庭教師からはスパルタで仕込まれてきたし、元日本の現役高校生だったお陰で勉強は何の問題もなく解ける。

ワザと実力を隠すのも実は相当にめんどくさい事なんだと、この世界で初めて知ったよ。

それに殿下は、興味のあることにしか注意が向かないのか剣術の授業は見学多めで、座学は居眠りか他の事で聞いてないのが通常運転。

まぁ剣術については、守られる立場だし?怪我でもしたら大変なことになるし?分からんじゃないんだけどさ。

家庭教師の居る帝王学以外は平均ギリギリで提出物については僕任せって、この国の未来が不安で仕方ない。

そんなだから僕は、父さんに『万が一のいざと言う時に拙い魔術だとしても、殿下を守れる力が欲しい』なんて嘘をついてまで兄さんのお下がりの魔術書を貰って独学で勉強してでも、いつか何とかしてこの国を出ていくってことを考えたりしちゃうんだよね。

まぁ、僕が側仕えになる前の前任者達は嫌気がさして全員半年も続けられなかったって事で、何年も殿下に嫌われずに嫌だとも言わずに続いてるってだけで一目置かれてるらしいからか、父さんは随分僕に寛大になってくれて最近は最新の魔導書とかも送ってくれたりするから有難い。

そりゃ僕だってこんな人の側仕えは勘弁して欲しいけど、まぁ学園側からの側仕え優遇的なものもあるし?貴族の子息子女からの賄賂的な臨時収入もたまにあるし?大人になって国を出る時のための下準備位には殿下を利用してないこともないからね。

殿下にしてみたら、余計な事は言わないし、とんでもなくアホな事をやったり言い出したりしなければ諌めることもないし、何だかんだ居ないよりは居る方が便利くらいの立場ではある様だから、ある意味持ちつ持たれつではあるんだけど。

ただ、最近は殿下の色欲が大輪の花を咲かせちゃって、まぁ大変。御相手は、平民から高位貴族の子女まで幅広く来る者拒まず状態だから、尻拭いが大変で大変で。そろそろ、いい加減にして貰わないと僕が倒れる。

この前は殿下が手を出して忘れてる下町の少女から殿下宛ての惚れ薬の処理に奔走して、その前は手を出して捨てた魔術学園の下位貴族の子女から殿下の代わりに罵倒されて、その他諸々駆け回ってる。

何とか色々な方法で納得して貰って事なきを得たけど、そろそろしんどくなってきた…


「殿下、次の相手はどんな方なんです?」

毎回結構自慢げに話してくれるけど、今回は先回りしてみようかと日常会話的にさり気なく聞いてみた。

「よく聞いたくれた、マルセル。今回は、本気だ。もぅ、彼女しか欲しくない。美しく可憐で良く気の付く優しい人だ」

「それほどの方、なんですね。そんなに素晴らしい方、学院に居ましたっけ?」

「最近、魔術学院から編入して来たそうだ。優秀で学ぶことが無くなったから、身を守れる程度に武術も学びたいと編入してきた向上心の持ち主でな、何と異世界からの召喚者らしい。頬を寄せて『秘密ですよ?』と囁いた時の可愛らしさは、丸で妖精の様だった…」顔と名前まで確認してなかったが、確かに最近編入して来た人居たな。

異世界からの召喚者ねぇ…この世界、魔王復活とかでバタついては無いはずだけど…?何のために誰が召喚なんて国家事業レベルの魔術を?

人1人召喚するのに高ランクの国家魔術師10人単位で魔力を3日以上かけて放出しなきゃいけないって、何かの魔術書に書いてあったような気がするんだけど?

まぁ、今の僕にそんな事を調べるツテも何も無いんだけど…今度家に帰ったら兄さんにでもそれとなく聞いてみよう。あれでも有望な国家魔術師様だし、何か知ってるかもしれないしね。

「本当に、本気なんですねぇ」

丸で恋に初心な少年のような様なお顔の殿下を横目に、僕はどうなる事やらと胃が痛くなってきた気がする。

頼むから、まともな御相手であってくれ。そして、このテキトー殿下をマトモな人間に作り替えてくれ。


僕の小さな願いはこの後直ぐに粉々に砕かれると知らぬまま、僕は相槌を打ちながら殿下の惚気話に付き合う羽目になったのであった。

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