第11話  王命だから仕方ない

 突然、後妻に入らないか、なんて話が来てびっくりしたわよ。しかも相手はフォルハス将軍だっていうんでしょう?確かあの方、敬虔なコリント信者の奥様がいらっしゃったと思うんだけど?


なんでも信仰心が想像以上に熱い方だったそうで、夫も家族も全て捨て去って、布教と信者獲得のために植民地化したばかりだというマデルナ島に行ってしまったのですって。


 周りの奥様たちは、

「きっとマデルナ島に布教に向かう聖人の中に好みのあの方がいらっしゃったからよ」

とか、

「教会ばっかりに行っているとは思っていたけれど、何をしているか分かったものじゃなかったじゃない?将軍も忙しくてなかなかお相手も出来ないでしょうし、他で発散っていうの?それで夢中になっちゃって、今度移動する事になったあの方についてマデルナ島まで行っちゃったみたいな?」

なんてことを言っている。


つまりはあれですかね、教会関係者と不倫の末に遥か海の向こうへ逃避行したって事なんですかねえ?


 公爵家に長い間伴侶がいないっていうのも問題らしく、そこで白羽の矢が当たったのがイーリャ・デル・シルヴァ、子供が出来なくて侯爵家から離縁されたこの出戻りに、なんと『王命』が下ることとなり、この度、ミゲル・デル・フォルハス公爵と再婚する運びとなったのだ。


 それで、将軍との初顔合わせの一言がこれ。

「私が貴方を愛する事はない」

 来たーーー!これ来ましたー〜―!こんなん冒頭部分から言い出す奴って小説以外でもいるのねーー〜―!


「いや、愛さなくてもいいですよ」

イーリャは思わず素で答えていた。


「とりあえず家政を任されるって感じですでよね?一応、これでも侯爵家で5年やってましたんできっと大丈夫!子供出来ずに離婚を食らってマジでジリ貧だったんで、実家抜け出せてマジラッキーって感じですから、愛とかなんとか?そんなもんいらない!いらない!」


 フォルハス将軍は背がものすごく高く、逞しい体つきをしていて、顔の造形は整っているけれど、ライオンみたいな貫禄の人であり、蒼い瞳をパチパチさせて、

「じ・・ジリ?・・・ジリ?」

と、ジリ貧の部分にひっかかりを感じているもよう。


「ジリ貧っていうのはもう後がないっていう意味の言葉です。ほら、離婚歴がある女ってなかなか再婚できないじゃないですか」

穴があくほど妻の顔をマジマジと見つめた将軍は、自分の顔を両手で擦りながら、

「ヴィトリアの話し方にそっくりな人間が居るなんて・・」

と、言葉を漏らした後に、はー〜〜っと大きなため息をついたのだった。 



 公爵夫人となったイーリャには前世の記憶がある。物心ついた時には以前の記憶があったので、

「こいつ、マジで天才じゃないの?」

みたいな感じで周囲を騒つかせていた時期も確かにあったのだ。



 とにかくこの世界、魔物はいないし、魔石はないし、スタンピードもないし、魔法もないし、魔法学校もない。つまんねえ世界に生まれ変わっちまったなあとイーリャは思っていたのだった。


 貴族なので王立学園に入学したのだが、婚約者に男爵令嬢がつきまとい始めたところから、これぞあれか?虐められただの、殺されかけただの、なんだかんだ難癖つけられた上での婚約破棄、からの、実家からの追放、からの、平民落ちか?と覚悟する。


 婚約者の実家である侯爵家に国外追放させるだけの権力はないので、もしかして、修道院にでも送られる事になるのかしらん。修道院に行くよりは平民落ちの方がいいかなあ、などと考えている間に、婚約者は男爵令嬢と別れ、学園を卒業と共に結婚。


私って一体どれのなんに転生したわけえ?とイーリャは思ったものだ。


 前世、経理部で働いていた関係で、侯爵家でも色々重宝されたイーリャだったけれど、子供も出来ず、そのうち夫の浮気した相手が妊娠したと大騒ぎとなって離婚。


 実家に帰って、ああ、私、これから肩身の狭い思いをするのかしら?それとも金持ちの豚みたいな老人の所に後妻に出されるのかしら?兄嫁にいびられちゃったらどうしよう!などと考えている間、イーリャの経理の腕を知っている家族は離婚、出戻り、ウェルカム状態。それもそれでどうなのよ、と思っていた所で『王命』が下された。


 公爵家は息子3人、養女にした娘一人が居るそうで、娘の方は王子の婚約者という事でお城でお世話になっているらしい。


 ここに来ての王子の婚約者、公爵令嬢が王子の婚約者、何かプンプンするよねえ、遂に来たかしらこれ?

 新しい夫曰く、

「君の奇天烈な話し方はヴィトリアにそっくりすぎる」

だそうなので、これマジで来たでしょう。


義理の娘に会うのは再婚して間もなくの事だったけれど、綺麗なドレスに身を包んだ公爵令嬢は可愛らしく首を傾げて、

「リーニャママ、もしかして『生まれ変わり(転生)の物語』とかお好きだったりします?」

と、可愛らしい声で問いかけてきたのだ。

「これやっぱりキタでしょーーー!」

と、イーリャは心の中で叫びまくったのは言うまでもないことだ。



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