第8話 女王様もびっくり
「まさかこれ程の虐待を行なっていようとはな・・・」
それは凛とした女性の声だった。
「どれほど聖人君子みたいな面構えをしていたとしても、イザベルもまた女らしい女だったということか」
女性の声が鼻で笑うようにして言葉を発している。
「大切な駒を預けたらこの扱いか。フォルハス家も王家の血筋をくむとはいえ、名ばかりの名家だったという事か。最近、名ばかり名家ばかりが生き残っていくように思うのだが、あながち妾だけの意見というわけでもあるまい」
「女王様のおっしゃる事は十分に理解しておりますが、公爵家に任せておけば大丈夫だろうと考えた私どもにも非があるのでは?」
「仕方ない。とりあえずアルフォンソの婚約者にして、城に住まわせておけば体裁を損ねる事にはなるまい」
「第二王子の婚約者ですか?」
「これだけの虐待、いずれは何処かしらから話が漏れてブリタンニアに流れる事となるであろう。であれば先手を取って、我が王家に迎え入れると周知させれば機嫌の一つもましになろう」
ヴィトリアは目を覚ましてはいたものの、寝たふりを決め込む事にした。
王宮へとやって来ることとなったヴィトリアは、シラミを警戒した使用人によって、まずは厩で全身をザブザブと洗われる事となり、その後はお城の浴室で侍女に何度も丁寧に洗われる事となり、その後、宮廷に使える医師の診察を受けて、全身打撲と過度の栄養失調という診断を受け、お布団フカフカのベッドに寝かされることとなったのだった。
全身の打撲、擦過傷、切り傷みたいなものが至る所にあるため、ミイラ並みに全身を包帯でグルグル巻き状態となっている。
侍従と話しながら王妃様が部屋から出て行き、部屋に居た侍女も一旦外に出たところで、ようやくヴィトリアは部屋に一人きりとなったのだ。
「ふー~~――――――っ」
ようやっと思い出しました!
喉の奥に小骨が引っかかっているような感じがずーっと続いていたんですけど、ようやっとつかえていた骨が取れたような気分です。
「やっぱりゲームだったか、まさかあの、やり込み系ゲームだったとは・・・」
ヴィトリアはゲームの中の登場する人物に転生したようなのだ。
このゲーム、ヒロインが二人出てくるもので、どちらかのヒロインを選んでプレイしていく中で、もう一人のヒロインに出会ったり、共闘したり裏切ったりと、かなり評判が良かったように思う。
一人目のヒロインは、クルアム語の教師として王宮に採用される事となった男爵令嬢。
このヒロインのメイン攻略対象者は、この国の第二王子となるアルフォンソ王子。王子の側近となる公爵の嫡男、ペドロ・デル・カルバーリョと侯爵の次男となるディオゴ・デル・モルガドも攻略対象者となる。
南部大陸との貿易を行うボルボーン男爵家の令嬢であるヒロインはクルアム語が堪能であり、王城に通訳として来た際に第二王子に見染められ、語学の教師として城へ出仕する事となるのだった。
このゲームは攻略対象とくっついて終わりというゲームではなく、くっついてからひたすらやり込むゲームだった。
まず、メイン攻略者であるアルフォンソ王子とくっついたら、戦地に行ってナイチンゲール無双をする事になる。皇帝アレクサンドル・ボアルネと国土を賭けた戦いをすることになる為、王子を支えながら後方支援をし、みんなにランプの聖女と謳われ、アレクサンドル皇帝を打ち倒すか、仲間になるようになり、最後に二人はハッピーエンドという結末を迎えることとなるのだ。
侯爵家次男ディオゴとくっついた場合、船でコンドワナ大陸に移動して、植民地の宅地開発をする事になる。コンドワナ大陸で集まれ〇〇の森をする感じで、地元住民の好感度を上げ、ディオゴと共に自治区を増やしていくというわけだ。
公爵家嫡男ペドロとくっついた場合は国内の政治に関わっていく。外ではアルフォンソ王子が戦争をしているので、宰相補佐に就くペドロはお城で数々の難問を解いていく必要がある中で、途中で殺人事件が起きたり、犯人を見つけたりするのでサスペンスゲームという感じ。
ゲームの中でヴィトリアが王子の婚約者という立場からも分かる通り『悪役令嬢枠』となる。どの攻略対象者を選んでも悪役として登場し、数々の邪魔、嫌がらせ、虐めを行い、当て馬となって八面六臂の活躍をすることになる。
悪役となるヴィトリアはどこに行っても癒えることのない孤独感に悩まされ、便利な駒として使われる。そんなヴィトリアの自分を見て欲しい、愛して欲しい、という心の慟哭は伝わる事もなく、彼女の自己主張は周囲に嫌悪感を持たれるきっかけとなり、結果、婚約者とその側近にも嫌われ、最後に断罪される展開を迎える事になるのだ。
はい、ど定番中のド定番の流れですわ!
そしてもう一人登場人物、縁を頼ってフォルハス家へとやってきたという第二のヒロインは、平民出身という事から公爵家で下級メイドとして働く事になる。
メインの攻略対象者は公爵家の三兄弟となるリカルド、ルイス、クリスの三人で、恋の鞘当てを繰り返すこととなるのだろう。
ヴィトリアは第二ヒロインを使用してゲームをプレイした覚えがないので、どんな流れで進行する事になるのかわからない。基本的にど定番な流れでいくんじゃないかなあと彼女は思っていた。
つまりはメイドから侍女に繰り上がり、みんなに大事にされるヒロインに嫉妬して嫌悪した悪役令嬢が、様々な嫌がらせや虐めを行なって、結局最後には断罪されることになる。
このヒロインの場合、最終的に良く似たヒロインと悪役令嬢が入れ替わり、貴族としての地位を確立したヒロインはヒーロと結婚して、めでたし、めでたしとなるはずだった。
なんでやねん!どないやねん!ほんと、悪役令嬢の扱い、雑!雑のひとことに尽きる!
「ヴーー〜――」
ヴィトリアが怒りを滲ませながら唸り声をあげていると、ひんやりとした何かが彼女の額の上を覆ったのだった。目を開ければ、煌めくような碧い瞳が心配そうに瞬いている。
「大丈夫かい?痛みが酷いなら医者を呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です」
なんだ?このキラキラしい少年は?
「どれだけ痛めつけられても基本放置がデフォなんで、そんなに心配する必要ないです」
「基本放置がデフォ?デフォってなに?」
「デフォルトの略すかね、標準の状態っていうか、初期設定がそうなってマスみたいな」
「は?」
「引き取られてからこっち、心配された事がほぼない状況だったんで、この状態がノーマルスタンダードっていうか、あ、ミイラ姿がじゃないですよ?痛めつけられた状態がノーマルな状態っていうんですかね」
キラキラしい少年はくるりと後ろを振り返ると、
「ねえ!ちょっと!この娘、何を言っているのか全然わかんないけど大丈夫なわけ?」
と問いかけている。
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