第4話 ドラゴン退治 その1

 ノエルが、俺の言ってることを理解してくれず、困っていると…


「シオン様のせいで話が脱線したけど、私はシオン様にある依頼をするために、ここに来たの」


(うん。絶対俺のせいじゃないが、ここはスルーしておこう)


 ようやく本題へ入る。


「この国にある『ラタ村』という小さな村にドラゴンが現れたわ」


「なっ!ドラゴンが人里に降りて来ただと!?なんでその村にドラゴンが降りて来たんだ!?」


 ドラゴンは普段、山奥に住んでいるため、余程のことがない限り、人里に降りてこない。


「おそらく、誰かがドラゴンの寝床を荒らしたわ」


「なるほど」


(そういえば以前、ドラゴンの寝床を荒らした盗賊のせいで、ドラゴンが怒り、壊滅した村があったな)


「今のところ、村に被害はないわ。ただ、低空飛行して、周辺の木々を焼き払ったらしいの」


(そりゃ、一刻も早く討伐が必要だな)


「よって、討伐依頼が出たわ。でも、実力のある冒険者を集めることができず、冒険者だけでは討伐は難しいため、シオン様に討伐を依頼することになったの」


(確かに何かあってからでは遅いからな)


「わかった。すぐに討伐しに行こう。俺の淫らな隠居生活を邪魔した罰だ。苦しまずに倒してやろう」


「あ、苦しまずに倒すんだ……」


 ルナからツッコミが入る。


「引き受けてくれると思ったわ。じゃあ、ドラゴンの討伐をお願いね」


「あぁ!パパッと片付けて、明日から淫らな隠居生活を送ってやるぜ!」


「ちなみにラタ村までは馬車で片道1週間ほどかかるから、そのつもりでよろしくね」


「…………は?」


「あ、そうそう。最近、ラタ村に降りてくることはなくなったらしく、山奥の寝床にいるとの報告を受けてるわ」


「…………へ?」


「じゃあ、長旅頑張ってね。ドラゴンを討伐したという嬉しい報告を待ってるわ」


 ノエルはそう言って、護衛を連れて屋敷から出て行く。


「…………………」


(お、俺の淫らな隠居生活が全然始まらねぇ……)


 俺はその場で崩れ落ちる。


 そのため…


「よろしいのですか?ノエル様。今回の件、実力ある冒険者が多数いらっしゃったので、シオン様のお力を借りるほどではないと思いますが……」


「いいのよ。私というものがありながら、美少女ハーレムを作って淫らな隠居生活を送るとか、アホなこと言ってる人には丁度いい罰よ」


 ノエルが護衛の方としていた会話は、俺の耳に届かなかった。




 俺は現在、ラタ村に向け、馬車に乗らず、ものすごいスピードで走っている。


(馬車で1週間もかかるだと!?1週間かけてラタ村に向かってたら、一向に童貞を卒業できねぇじゃねぇか!あ、あと、ついでにラタ村に被害が出てしまうかもしれない!)


 急いでラタ村に理由がみっともない俺。


(まさかこの国の端っこの方に位置する村だったとは……。まぁ、遠いとわかってても討伐には行ったが)


 俺は本気でラタ村へと走り、一日でラタ村にたどり着く。


(ふぅ、久々に本気で走った。勇者パーティー時代、ルナの着替えを間違って覗いてしまった時以来じゃないか?いや、即死級の魔術が俺を追尾して来た時は、本気で死ぬと思ったから、今よりもさらに早く走って逃げた気がする)


 そんなことを思いながら、村を訪れると…


「おぉ!勇者様ではありませんか!」


 一人のお爺さんが声をかけてくる。


 その声を聞いて、家の中にいた人たちが一斉に俺の下へと駆けつけてくる。


「国王様は私たちを見捨ててなかったのですね!」


「これでドラゴンに怯える日々からようやく解放されるぞ!」


 村人たちは歓喜に沸く。


 俺は、顔色の悪い村人たちを見て、ホントに怯えて生活していたことを理解する。


(まだドラゴンを倒したわけではないが……まぁ、ここは村人を安心させるのも勇者の仕事だな)


「俺が来たからにはもう安心だ!必ず、この村を救ってみせる!」


 俺が堂々と宣言すると、さらに歓声が沸く。


(さて、ドラゴンはどこにいるんだ?)


 俺は村の人に聞く。


「ドラゴンならあの山だよ」


 教えられた山を見てみると、そこにはものすごく高い山があった。


「あの山は標高8000mはあると言われている。その頂上が奴の住処だ。そこに飛んでいくところを確認している」


(標高8000mの山の頂上まで登れってこと!?無理よ!そんな時間俺にはないよ!?)


「でも、まさか勇者様が助けに来て下さるなんて……。勇者様、移動だけで数日はかかるこの依頼を、快く受けてくださり感謝します」


「しかも、俺たちが依頼を出してから3日しか経ってない。きっと俺たちのことが心配で、ものすごいスピードでこの村に来てくれたんだろう!」


 村人たちが頭を下げる。


 俺はその様子を見て…


(やべぇ。一刻も早く屋敷に帰って淫らな隠居生活を送りたいからダッシュで来ただけなのに、めっちゃ良い方に捉えられとる。しかも、山を登ることに躊躇してる自分がいるのに)


 しかし、そんなことを言えるはずもないので…


「いえいえ!俺は勇者です!困っている方のところなら、どこへでも駆けつけますよ!」


 その言葉に、さらに歓声が沸く。


(くそっ!こうなったらサクッと倒して、とっとと屋敷に帰るぞ!)


 俺はそう決意しつつ、村人たちの歓声を聞いた。





『サクッと倒して、とっとと屋敷に帰るぞ!』


 そう思ってた時期が俺にもありました。


「ドラゴンめ!俺の淫らな隠居生活を邪魔しやがって!サイコロステーキにしてやる!」


 俺は山登りに飽きて、ドラゴンに八つ当たりをしていた。


(もう登り始めて4時間経ったけど、マジでここどこ!?全然頂上が見えないんだけど!)


 常人ではあり得ないスピードで山を登ったが、全く頂上が見えてこない。


(寒さは俺の魔法でなんとかなってるが……そろそろドラゴン現れないかなー)


 そんなことを思いながら山を猛スピードで駆け上がる。


(それにしても今回はおかしな点がある)


 俺は山を登りながら不可解な点を分析する。


(普通、ドラゴンは寝床を荒らされたりしない限り、人里に降りない。降りて来たということは誰かに荒らされたということだが、標高8000mの山の山頂に住んでいるドラゴンの寝床を誰が荒らしたんだ?勇者の俺でさえ、8000mを登るのは楽ではないのに)


 俺は山登りのスピードを緩めずに分析をする。


(それに、村の周りだけが焼け野原となっており、村自体に被害はなかった。まるで、村の人たちには生きてもらわないと困るかのようだったが、俺の考えすぎか?まぁ、山頂に着けばわかるか)


 俺はそんなことを思いながら山頂に向けて山を登った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る