第二十六話 宣戦布告
「ふむ。思ったよりはやるようじゃの。じゃが、今日はあくまで顔を見せにすぎぬぞよ」
ヘラがすかした口調で言った。
「どういうこと?」
シネが首を傾げる。
「私たちも極会議のステージに参加するってことよ。そこのライブの観客動員数で白黒はっきりさせましょう」
「然り。負けた方は潔くグループを解散するのだ」
ディーテとアテナが同時に答える。
「ほう。まだオレたちとやろうっていうのか。いい度胸だ」
【成増さん、どういうことですか?】
俺は一回相槌を打ってから、音声を切り、成増さんに問いかける。
【私が聞きたいくらいよ! こっちは何も聞いてないわ! ドワ〇ゴおおおおおお! そりゃうちとガイアを競わせたらイベントは盛り上がるでしょうけどおおおおおおお】
成増さんがスーパーサイヤ人に変身しそうな怒声で言う。
【はあ、結局これもガイアのブッコみですか】
「はわわ。どうしましょうー、ルルたちがあのすごい方たちと……」
ルルがあわあわして口を手で押さえる。
「なんで? それならもう一回ゲーム大会で勝負すればよくない?」
セツが我田引水気味に言う。
「えー、それはないでしょ。だって、私たちは偶然にも同じ日に音楽業界に足を踏み入れたんだから。当然、ここは音楽でバトるべきじゃなーい?」
ディーテが高慢に言い放つ。
「ガオは負けないもん! おばさんたちがどれだけ偉いか知らないけど、みんなガブガブのガブって食べちゃうんだから!」
シネが拳を半端に握って腕をあげ、「捕食」のポーズをする。
「音程正確率が一番低い貴様が息巻くか」
アテナがシネに冷たい視線を向けた。
「違うもん! わかってないなー。ガオの歌は『アジがある』って言うの!」
「ふん。壁の落書きが芸術と認められる時代だ。これ以上は何も言うまい」
『さあ、おもしろくなってまいりました ¥300』
『もっとだ。もっと争え……』
『音楽バトル?』
『ええ、この条件だとアンタゴニスト不利すぎだろ』
『林檎は三人中二人が人気アーティストだろ。チートすぎね?』
『レナち最強!』
『せっちゃん、全くアイドル活動に興味なくて草』
『うーん、でも、対戦拒否っても、どちみちことある事に比較されることは確定だしなあ』
『流星箱推しの俺の信者力が試されている…… ¥500』
『ぶっちゃけ、ライトユーザーからすると普通に地神と流星の対決は見たい』
『プロレスにマジになる必要ある? 熱くなりすぎずに普通に楽しもうぜ』
『うーん、流星のトップクラスのⅤに地神が寄生したいようにしか見えなくて不快』
『黄金の林檎の前世のファンを考えたらトントン』
『戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え!』
【それで、どうします? 断り辛い雰囲気ですけど】
コメントを流し見して尋ねる。
【ここまできたら毒を喰らわば皿までよ。受けなさい】
成増さんがノータイムで答えてくる。
【いいんですか? どう考えても音楽ではこちらに勝ち目はないですけど】
【別に負けてもいいのよ。黄金の林檎とプロレスすれば、上手くやればガイアのユーザーと三人の前世のファンも引っ張ってこれる。それで、もし負けてもⅤを引退ではなく、あくまで『アイドルとして』の解散でしょ? 最悪、負けたら改名だけして再デビューしちゃえばいいわ。うちの芸風ならそういうネタも許されるでしょ。芸人が罰ゲームとしてコンビ名変える程度のノリよ。むしろ、それを配信ネタにすらできるじゃない。そこまでデメリットはないわ】
淀みなく言う。
商魂たくましいというか、転んでもただでは起きないところが腐っても名プロデューサーだなと思った。
【了解です。そういうことなら受けますね】
「さあ、いかにする、アンタゴニストよ。黄金の林檎からの挑戦を受けるか。それとも尻尾を巻いて逃げ出すか」
ヘラが扇子を開いて横に大きく振った。
「はっ。誰が逃げるか。受けてやるよこの野郎! 後悔するなよ、巻くのはあんたらの舌の方だ ――なあ、みんな!」
俺は笑い、画面上の吠がチャームポイントの犬歯を剥き出しにする。
「ガオに任せて!」
「ルルは争いごとは苦手です。でも、相手がどんなに強くても、ルルたちを観に来てくれる人たちのために、全力で頑張ります!」
「……多数決の暴力」
威嚇するシネ、ガッツポーズするルル、嫌々頷くセツ。
「確かに聞いたぞよ。一度神に吐いた言葉は取り消せぬ。もし破ったら死刑じゃ」
「けってーい。私たちが下界に降臨する日を楽しみにしててねー」
「黄金の林檎に栄光あれ」
黄金の林檎はそう言い残して通信を切る。
「――だそうだ。みんな、デビュー初日からいきなりヤベー展開になっちまったが、これからもオレたちを応援してくれよな」
俺はそこまで言って、メンバーに目くばせする。
現時点で結構予定の枠をオーバー気味だ。これ以上は伸ばせない。
「「「「以上、アンタゴニスト、デビュー配信でした。ご視聴ありがとうございましたー」」」」
声を合わせてそう挨拶すると、全員で手を振って、すっぱり配信を終了する。
『おもしろかった ¥300』
『なにげに神回じゃね?』
『っていうか、前世がどんだけすごいか知らんけど、林檎さんたちはまだ配信者の域に達してないわ』
『ガイアはこのクソみたいな凸を見られる出来にしたアンタゴニストたちの神対応に感謝して欲しい』
『音楽云々は知らんけど、リーダー対決なら間違えなくホエるんの圧勝だったな』
『これからどうなるんだろ……』
『とりあえずデビュー曲聞き直してくる』
『プロレス展開も嫌いじゃないけど、対立煽りが増えそうなのは嫌だなあ』
『ファン同士が暗闘するよりは分かりやすくて良き』
コメントの感触は、どうやら期待と不安が入り混じる感じだ。
ともあれ、ただ荒れて盛り下がって終わるよりは全然良い決着だろう。
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