第二十五話 落とし所
「ディーテがやられたか。だが、奴は三貴神でも最弱。我――アテナは戦の神だ。奴のように簡単にはいかんぞ」
アテナが鞘から剣を抜き放って言う。
(おっ、こっちはちゃんと設定を守ってそうだな。話が出来そうなタイプか)
雰囲気と言葉選びで分かる。
「あ、あの、もしよければ、ルルと遊んでくれませんかっ!」
ルルが意を決したように口を開いた。
いつものほほんとしている彼女が緊張しているのは珍しい。
「貴様は?」
「はい! 花森ルルルですー! えっと、アテナさんの――た、魂のファンですー」
「ほう。それは真実か?」
「え?」
「我は戦の神でもあるが、芸術の神でもある。故に、確かにこれまで数多の吟遊詩人の芸術の魂を授けてきた。だが、本質を見誤り、我を崇めずに吟遊詩人を称える愚か者が多くてな。そのような輩ではないのだな?」
アテナがジト目で言う。
「はい。本当にアテナさんの魂の方のファンですー。あ、もちろん、吟遊詩人さんの歌も好きですけどー。ルルとしてはー、『じゃあかしいわ』とかはよく流れているやつよりも、オリジナルの歌詞の方がより好きです。どうして変えたんですかー?」
ルルが間髪入れずに答えた。
「……あれは呪言だ。人の子にはまだ早すぎた」
アテナが瞑目して呟く。
「そうなんですねー。残念ですー」
ルルが肩を落とした。
『前世貞子Pなんだろ? じゃあかしいわってあのじゃあかしいわだよな? Kabachiの』
『じゃあかしいわの作曲者自身が歌ってるインディーズバージョンの歌詞は放送禁止用語に引っかかる内容を多く含んでいて、メジャー化するにあたって直したんだよ。あまり知られてないけど』
『ルルママのお歌配信、流行に乗ってるだけかと思ったけど、ガチ勢だったのか』
「どうやら貴様は我が戦うに足る存在のようだ。征くぞ」
アテナが剣を掲げる。
「わーい、ありがとうございますー」
ルルが嬉しそうに手を叩いた。
アテナとルルが対決を始める。
(普通に上手い……)
俺なら九割勝てる。明璃なら勝率七割五分くらいだろうか。
籾慈と咲良では勝ち越すのはかなり厳しい。
案の定、ルルはアテナに惨敗した。
「負けましたー」
ルルが目を><の形にして万歳のポーズを取る。
「当然の結果だ。戦の神に挑むには修練が足りぬ」
アテナはそう言って剣を鞘に納めた。
「あうー、ごめんなさいー」
ルルがシュンとして肩を落とす。
「……だが、貴様は四人の中では一番歌に
ぽつりと呟く。
「はい!」
『デレてて草』
『ルルママに浄化されてるやん』
『やっぱり姫騎士ってチョロいんだね』
『やはり母性、母性は全てを解決する ¥1500』
『喧嘩凸のはずがグダグダやん』
(ルルのおかげでだいぶ雰囲気が丸くなったな。そろそろ締めに入るか)
「ルル、よくやったぞ。
「よかろう」
さっさとヘラとの戦闘に突入する。
もちろん、俺が勝った。
いつもは接待するんだが、今日はムカついてたんで完膚なきまでに勝利した。
流星内のコラボなら接待もするけど、事前にアポ取りもせずノープランで突っ込んでくるライバル企業のⅤに慈悲はない。
『ホエるん無慈悲な王神モード』
『そりゃ群れ(流星)を攻撃してくる外敵には容赦できないっしょ』
『狼さんは流星の看板しょってるからな ¥500』
「俺の勝ちだな。感想は?」
「神は児戯には構わぬ」
ヘラは肩をすくめる。
「え! もう終わり? っていうかガオは!? ガオまだ一回もゲームしてないんだけど!」
シネがキョロキョロと周囲を見回して言う。
『しねちゃんさあ、空気読も?』
『もっと喜ぼうや。流星が勝ったんだよ?』
「おい、シネ、話をややこしくするなよ」
「いやああああ、ガオだけゲームナシなんてつまんない! ガオだけ仲間外れにしないでえええええ!」
籾慈が俺に目くばせしてきた。
まあ、彼女の言わんとすることも分かる。
(うーん、勝利で視聴者をすっきりさせるつもりだったけど、確かにここで勝って変に今後の因縁ができるのもよくないか)
『これでこそしねちゃん』
『勝ち確を覆していくスタイル』
『しねちゃん、今日大人しかったから安心した』
「はあ。誰でもでいいから、こいつと遊んでやってくれるか」
俺はグッジョブの手の形を作り、親指で籾慈を示す。
「我が受けよう」
アテナが名乗り出る。
「ふふふ、いっくよー! ガオが、エッチなサイト見て架空請求されてそうなガバガバセキュリティお姉さんに負ける訳ないもん!」
シネが頬を膨らませて挑発する。
『確かにアテナはむっつりスケベっぽい』
『いや、ウイルスのトロイの木馬とひっかけてるだけでしょ』
『トロイア戦争で有名なトロイの木馬は、アテナへの捧げ物の名目で持ち込まれた』
『シネちゃんってば、意外と博識?』
『多分、ギリシャ神話ネタはトロイの木馬くらいしか知らなくて、ノリで言ってるだけだと思われる』
『しねちゃんはそういうことする』
二人がバトルに突入した。
結果は見るまでもない。
「ふん。敗北を知りたいものだ」
アテナが再び剣を振い、鞘にしまう仕草をした。
「やああああああああああ! 負けたああああああ! しねえええええええええええ!」
しねちゃんが地団駄を踏んで悔しがる。
『しねちゃん……』
『即オチ二コマ』
『知ってた』
『でもこれがないと物足りないんだよね ¥2000』
『クセになる雑魚さ』
「――これで二勝二敗、引分けだな。中々やるじゃないか」
俺は拳を突き出す仕草で相手を称えた。
(はい。引分けでちゃんと遺恨が残らない落としどころも作ったぞ。文句ないだろ。ガイアさんよ)
自分で言うのもなんだが、無礼に凸ってきた相手にしては、かなり穏便な対応をしたんじゃなかろうか。
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