第二話 ママエルフと姉妹百合営業

【ルルと流星のベース作り part7】


 その日、俺は花森はなもりルルルとコラボし、クラフトゲームをプレイしていた。


 事務所のⅤが共同で作っているキャンプを強化するのである。


「じゃあオレは適当に敵を倒しつつ、スポナーにトラップ作ってくるわ」


 敵モブを排除しながら洞窟に向かう。


 終わりのないゲームなのであまり攻略している気はしない。


(こういうコツコツ系のゲームは個人的には好みじゃないんだよなー)


 なぜって、プレイスキルを見せる機会が少ないから俺の強みが生かせないから。


 でも、ルルはグロい系やバトル系のゲームを好まないので、コラボするとなると必然的にこの手のヌルいゲームにならざるを得ない。


「はーい。ルルはその間に綺麗な花壇を作りますねー。お帰りをお待ちしてますー」


 ルルは甘ったるい舌足らずの声で言う。


『ルルママの人妻感 ¥600』


『ということは、ホエるんはパパ?』


『年下のパパに叱られたい』


『二人の子供に転生してえなぁ。俺もなぁ……』


『そもそも狼とエルフって子供できるの?』


『ホエるんはモツガキみたいにヘコヘコしてそうw』


『ホエるんはそんなことしない』


『ホエるんはガブっと噛みつきで増えるタイプの狼。二度と間違えるな ¥1750』


 ホエるんガチ勢の皆様がお怒りでいらっしゃる。


(下系の方向に話題が流れたか。こういうゲームだと実質雑談配信になりがちで、流れのコントロールがむずいんだよなー)


「っしゃ、ここだな。おっ、アプデのニュー敵いるじゃん」


 俺は視聴者の反応を見ていないフリをして、ゲームを続けた。


 ひとまずスルーして様子を見る。


 一応、俺的には、吠はショタキャラということで、この手の性知識には無知である設定で押し通している。


 あんまりひどくなるようなら適当にトラブルを起こして流れを変えるかな。


 最悪、下ネタユーザーをBANする手もなくはないけど、逆恨みされて反転アンチになられても困るからなー。


『じゃあエルフはどうやって増えるの?』


『エルフじゃんけん』


『エルフはオークに弱い』


『エルフは森を侵略してくる兵士に弱い』


『ルルママは妖精寄りのエルフなんだからお花畑から生まれたに決まってるだろ。お前らいい加減にしろ』


 ちなみに花森ルルルの設定としては、エルフの森で妖精さんたちと楽しく暮らしていたが、ある日人間の街に森のフルーツを売りに行ったところ、お花屋さんで品種改良された園芸品種を見かけ、人間の作るお花があまりにも綺麗なので人間界に定住した――という設定である。


 いわゆるネット小説にありがちな亜人種系のエルフなのか、オリジナルに近い精霊系のエルフなのかは特に明言されてない。


『でも、花にも雄蕊と雌蕊はあるんだよなあ……』


「皆さん何のお話しをしているんですかー?」


『ちょっと生物のお勉強を……』


『百合の増やし方についてです』


「百合ですかー。いいですよねー。百合は種でも増やせますし、鱗片でも増やせますよー。あっ、ちなみにこのセイヨウタンポポは単為生殖できるんですよー」


 ルルはタンポポのブロックを配置しながら言う。


『つまり、エルフは処女受胎が可能?』


『ルルマリア爆誕』


『神の母に献金しなきゃ(使命感) ¥1300』


『申し訳ないがマリア崇拝はNG』


『おは新教』


『いや、そもそもクローン生殖だし、ルルママからルルママが生まれてくる無限ループだろ』


『最高かな?』


『一体ください ¥398』


(うーむ、キャラも損なわず、事も荒立てず、見事な答えだ)


『すみませーん! ホエるんせんせー! しねちゃんがズルしてまーす』


『助けてママぁ』


 俺が感心していると空気を読まないコメントが乱入してきた。


 やっぱり、Vのキャラとファンの傾向って相関関係あると思う。


 まあ、今は間延びした配信になっているから乱入イベントは歓迎だ。


「あ? ああ、そういや、シネのやつは今罰ゲーム配信中か。なにかあったのか?」


 さりげなく事情を知らないユーザーへの状況説明を挟みつつ水を向ける。


『現在三十分間攻略停止中』


『BGMオフにして怖さを減らそうとしてる』


『虎党に攻略法をググらせるのは反則だと思う』


「なんだよそれ。どうしようもねえな」


 俺は大げさに溜息をついた。


「実はルルもちょっと心配でー。先ほどより隣の部屋からちょくちょく『もうやだあああああああ』とか、『ふにゃああああああああ』とか、猫科の断末魔の叫び声が聞こえてくるのでー」


 ルルがしねちゃんの声真似をしていった。


「しゃあねえ。ちょっと顔出してやるか」


「賛成ですー。ボス優しいー」


 ルルが拍手で賛意を示す。


 なお、ルルが吠のことをボスと呼んでいるのは、子分になることを認めたためである。


 クラフトゲームを終了した俺たちは、早速シネの配信に凸をする。


「おーっす、ちゃんと罰ってるかー?」


「しねちゃーん。来ましたよー」


「あっー! 誰かチクった!? みんな! 虎党の中に裏切者がいるよ! 見つけ次第殺せ!」


 しねちゃんがイキリ声で叫んだ。


『殺されてるのはしねちゃんの方なんだよなあ』


『クリーチャーのお腹はもうパンパン』


「もおおおおおおお! みんな優しくない! しねえええええええええ!」


 そしてすぐにヘタレる。


「シネさあ。オマエ、恐れ知らずの虎なんじゃねえのかよ。幽霊なんかにビビんなよ」


 俺は呆れ声で告げる。


「関係ないもん! お化けには物理攻撃効かないんだもん!」


「じゃあやめるか? その場合は敗北が清算されないから、俺の子分で確定だけどな」


 俺はふふんと鼻を鳴らして言う。


「やだあああああ! やめない! ガオは絶対にライオンキングになるの!」


『でもしねちゃんは虎じゃん』


『タイガーマスク?』


『しねちゃんは虎の穴で修行した方がいい』


「じゃあどうすんだよ」


「うーん、うーん、うーん、あっ、そうだ! じゃあ、ホエるんとルルでしねちゃんがプレイするところ見てて!」


 しねちゃんがこめかみに両手の人差し指を当てる一休さんポーズで叫ぶ。


「は?」


 半分くらい本気で絶句する俺。


「だから、ガオがゲームするところ見てて! それで励まして!」


「……はあー。虎党、マジでこんなののどこがいいんだ? 絶対オレについてきた方が最強だぞ?」


 俺は流し目で誘うように言う。


『誘惑するホエるんエッッッ ¥ 300』


『艶い……ありがとうございます! ¥1500』


『ウチの駄猫がすみません』


『しねちゃん係よろしくお願いします ¥1000』


『迷惑料 ¥500』


「ルルも励ましましょうかー?」


 朗らかにそう切り出すルル。


「うん! ルルはガオの近くに来て! ギュッとしてて!」


 しねちゃんが高速で頷いた。


「はーい。一回配信切りますねー」


 ルルの接続が切れる。


『自分の配信よりも躊躇なくしねちゃんを選ぶルルママ最高!』


『身体はホエるんに調教されても心までは……』


『それ寝取られの前振りやん』


『百合三角関係はもっとやれ ¥3000』


(出たな姉妹百合営業)


 クソ。これじゃあしねちゃんがメインで俺が脇役じゃねえか。


 まあ、二人の百合営業に食い込めると考えれば損じゃないのか?


 まだまだ俺は新参者ではあるし、キャラ以上に生意気に見えるのも良くないか。


「来ましたよー。しねちゃんー、がんばれー」


 しねちゃんの配信越しにくぐもったルルの声が聞こえる。


「あっ。きたきたああああああ! ルルの温もりを背中に感じてる! ルル成分が充填されてみなぎってきたああああああ! プレイ再開するよおおおお!」


 しねちゃんがポーズ画面を解除する。


 敵を殺すタイプのホラーではなく、逃げながら脱出を目指すタイプのゲームだ。


『これが百合ニウムの力か……』


『ダークマターの正体らしいな』


「いや、始めるのはいいけど、音切ってたら敵の気配が――あっ」


 匿名掲示板の釣りのグロ画像みたいな白塗りの子供が跳び出してきてお歯黒を剥き出しで噛みついてくる。


「や、やあああああああああああ!」


 ダメージを負いつつもなんとか振り払うも、今度は眼孔の空いた赤子の化け物の沼に踏み込んだ。


 このゲームは足音の強弱で敵の位置を知ることができるのだが、自らそれを遮断しているのでかえってハードモードと化している。


『逝きましたー』


『目を瞑ってさらに暗闇で唯一の頼りの音を消したらそりゃ死ぬよ』


 っていうか、確かに不気味なBGM が聞こえないメリットがあるとはいえ、不意打ち度が増して逆に怖いだろこれ。


「にゃああああああああああ! また死んだああああああああああ。ルル助けてええええ」


 しねちゃんが絶叫する。


「ううー! ルルもお化けが出てくるのは苦手ですー!」


 ルルが震えた声で言った。


「はー、しゃーねな。音を戻してマルチプレイモードにしろ。俺が指示出してやるよ。闇は狼の狩場だからな」


 俺はかっこつけた声で言った。


 VRゲームの装置を引っ張り出し、セッティングする。


『やばい。耳が孕んだ ¥800』


『イケメン過ぎて心のおまん――じゅうがホクホクするんじゃー』


『これは夜の王』


「え!? 助けてくれるの!?」


 しねちゃんが瞳を輝かせる。


「ああ。そうでもしねえといつまでたっても終わらねーだろうが」


 目を閉じて頷く。


「本当に、ガオ、目を瞑ったままでいいんだよね?」


 しねちゃんがびくびくと念押ししてくる。


「好きにしろ。ただし、シネを先行させるし、指示を出すからそれには従えよ」


 俺は不遜に顎をしゃくる。


 二人プレイにすると敵の数も増える。それをお荷物を抱えながら実質一人で捌くので、難易度は当然上がる。つまり、俺のゲームの技術も少しは見せられるという訳だ。


 全く俺の見せ場がないと、配信を見に来てくれたファンに申し訳ないしな。


『マジ? これ結構マルチむずいやつなのに』


『黒子系ホラーゲーム実況とは新しい……』


『王神の時間だあああああああああああああ!』


 その後、しばらくは息が合わずに死にまくったが、後半は慣れてきて、何とか枠の中でクリアする。


 普通にやったらヌルいホラーゲーだったが、ある意味の縛りプレイのおかげで結構楽しめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る