コノセカイハ、この世界は。この世界は魔物もいる。神もいる。魔法もある。あ、でもみんな使えるわけじゃなくて。やり直せすこともできて、冒険ギルドもあって。世界は世一のためにある。世一大好き。世一しか勝たんー…。

 神の説明は下手だった。自分で解読をしてみるが合ってるかどうかも怪しい。特に最後はどうも怪しく、妄想でないことを願う。

 餌を求める鯉みたいに、薄いピンク色の唇を動かす姿は少し可愛らしいが、声は……どうした?


「待って待って、何で口パク?」


 声を出さないのなら予想するしかない。しかし、正しい情報かはわからない。

 結論、俺から気になることを質問したほうがいいかもしれない。


「何から説明をすればいいのでしょう……?」


 知りませんよ。目星つけてたんだから考えていてくれても良かったのではないでしょうか。というか、もうこれ誘拐みたいなもんだよね。異世界に閉じ込められて拉致られてると言っても過言ではないのでは。口から全て出そうになるのをなんとか飲み込む世一。

 だが、あの壊れているロボットを無理に喋らせたような残酷な説明には納得できた。

 くっ……流石は神。みんなから愛される為の顔面と身体だからか、純粋なキョトンとした首を傾げる姿は何もかも許してしまいそうになる。


「じゃあ、気になることを質問するからそれに答えてくれたら良いよ。どう?」


 神の了承を得て、世一は腕を組み唸りながら質問内容を考える。そして、ずっと気になってたことからすることにした。


「あのさぁ、さっき『何不自由ない体にも生まれ変わること出来る』って言ってたよな?」


「はい。世一さんの生まれ変わりたい者になっていただいて構いません。こちらはどんな人がいるかの一覧です」


 神が右から左に空中で手を動かすと、目の前にライブ配信みたいに様々な人物が画面に映っている。

 スライムらしいものと戦闘している人や、いちゃこらチュッチュッしてる奴ら、斧で木を切っている人、まるで俺に向かって手を振りながら「待ってるからねー…」と言ってる人。

 見本一覧だからか同じ職業柄の映像が流れることはなかった。

 目を輝かせおすすめを話題にする神とそれにつられてしゃべる魔法陣が盛り上がる。


「世一さんには勇者と闘う魔王か、ドラゴンがお似合いだと思いますよ」


「プギャハハハ。世一が魔王?! 世一がドラゴン?! 貴族の坊っちゃん剣士になって勇者と闘う方が我はまともだと思うぞ?」


 何か話が勝手に進んでいるみたいで、困りながら頭を掻く。


「悪いけど俺、この身体ままでいいわ」


 職業は別に生きていけるんだったら冒険者でもなんでも悪魔でも何でもいい。

 神たちが驚くと共に流れていた映像が途絶え消えた。

 最初はなんのために生きてるのかわからなくて、何もしたくなくて、骨と皮だらけの身体だったけど。そんな自分が嫌で嫌で。努力でつけた筋肉。自分を好きに、誇れるようになったし。


――この筋肉にも身体にも愛着が湧きすぎてるんだよな。


 今更転生したとして、魔物のいる世界で慣れない身体で速バッドエンドなんてそれこそ本末転倒だ。


「出来ないー…とは言わせないからな?」


 神たちが驚くと共に流れていた映像が途絶え消えた。


「ほ、本当にそれで良いんですかッ?」


 神が両手を掴んできて心配そうに顔を覗き込んでくる。


「プギャハハハ。良いのではないか? 世一がそれで良いと言うておろう。その方が我らも面白いではないか」


 浮かない顔をして「そうだけどー…それじゃあ、あまりにも……」神にも罪悪感があるのだろう。

 理不尽に連れてこられた挙げ句。住む世界も違い、帰る家もない、未知の魔物もいるんだ。危険でないとは言い切れない。

 女の子の声が唸り声をあげ、やがて魔法陣が揺れる。


「わかった。そこまで言うのなら、我がお主が望むものを何でも3つだけ叶えてやろう。これは勝手に転移させてしまった我らの償いとこれからこの世界で生きるため、お主のハンデを無くすためじゃ」


――何でも3つ叶える、か。


 そう言われても特に叶えてほしいものはコレと言ってなかった。唯一の願いであった元の世界に戻りたいは無理だと言われてしまったし。

 世一は目を瞑りながら思い出したかのように声を出した。

 いや、待てよ。あったぞ。これ、結構重要だったわ。叶えてほしいものNo.1と言っても過言ではない。それはー…


「う○こだぁああ」


 突如発せられたお下品な言葉に目を黒豆にしながらポカンとする神たちだったが、俺は気にせず続ける。


「そうだそうだ。何でストーマの存在を忘れてたんだろ。いつもパウチの処理交換するとき臭くてしょうがなかったんだよな隙間から臭いの漏れてさぁー…」


 俺の腹にはストーマ (人工肛門・人工膀胱) が埋め込まれている。パウチ (排泄物を入れる袋)がストーマと繋がっていて、大体3日かから5日でパウチを交換処理しなくてはならない。

 処理交換するときのあのボットン便所回収や、検便の時みたいなう○こたちの臭いを吸い込まずに済むかもと思うと、自然と笑顔になりながら話していた。

 出来るかどうか聞いたとき、やっと神の黒豆が元通りになり、魔法陣も吹き出す。


「プギャハハハ。やっぱりコヤツおもしろすぎじゃ」


「出来るか?」


 唾を飛ばしてズボンをビショビショにさせられるが、それすらも忘れ喜々として真下の魔法陣に問いかける。


「ふむ。ストーマとやらを無くせばよいのか?」


「ああ。無くせなくても、パウチを無限召喚する魔法とか、ストーマの先をパウチじゃなくてトイレの中に直接自動転移とか、そういうこと出来ないか?」


「出来なくともないがー…」


 しゃべる魔法陣が懸念するのも無理はない。

 人間というのは栄養などを取るために摂取し、必然的に排泄物を出すものだ。

 排泄物を作る所を無くすということは、体の中に行き場のないモノが溜まっていく。

 その結末はどうなるんだろう……死なのか?


「じゃあ、2つ目は腹がすかない体か、食べなくても生きていける体にしてくれ」


 神が驚きながら「2つ目もそんな願いで良いのですか?」と言う顔をする。

 どちらも世一にとってはこれからの異世界ライフ重要に関わってるというのに。

 食べなかったら出るものも出ないのだから、1つ目の願いも決まる。


「ふむ、わかった。では1つ目の願いはトイレの中に直接転移。2つ目の願いは食べなくても生きていける体でいく。ほれ、3つ目はどうする?」


「いや、1つ目はパウチ無限召喚で充分だ。交換が嫌だったら食べなければいいだけだしな3つ目はー…」


 物資の召喚を無条件でゲットってことだし。何かに役立つことがあるかもしれない。

 世一は次の3つ目の願いを考える。考えて考えて考えて考えた結果。


「ー…特にないかなぁ」


 頰を掻きながら苦笑いをする。

 人間とはもっと欲深いものだと思っていたのだろう。神が嘘嘘の変な舞を踊りだした。正確にはスケーターみたいに回転しているだけだが。

 突然に地面が光りだしたかと思うと魔法陣が紫色に無数の線を放っていた。ちっこい魔法陣を中心にさらにちっこい2つの魔法陣が追加。そして、世一の体が宙に浮く。


「今から地上へ降ろすぞ。ギャハッ」


「いつも急すぎるんだって」


 と言いながらも困難なときほど口角があがってしまう。

まだこの世界の説明という説明はされていないと思うが仕方ない。


「3つ目の願い叶えたくなったら我らのところに来るが良い」


 神の嘘嘘の舞効果抜群だ。舞に必死すぎて世一の状況すら気づいていない。

 俺も人間で欲深いほうだと思い知る。


――保険ってことで、残しておきたかったんだよなぁ。

 

結構重要だったことを思い出したのか、魔法陣が安心した声で。

 

「そうじゃそうじゃ。世一よ。お主、冒険者ランキング1位を目指せよ」


「ごめん、ランキングには興味ない」


 しゃべる魔法陣の「なぬ?! これは絶対じゃ!  何故ー…」この声を最後に俺の視界は白い世界から緑の世界に変わった。

 世一の服は半分以上色も変わって濡れきっていてくしゃみを出させた。

 笑いすぎだ。しゃべる魔法陣め、唾で風引いたら覚えてろよ。

 未知の世界に来た興奮と、先の見えない未来に心は踊っていた。






 

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