2-3
*****
それから数日後の放課後。
コーデリア様につかまって教室を出るのが遅れたジル様は、アリーシャと一緒に帰る約束を取りつけるべく、教員室に向かった彼女の後を追いかけていた。
廊下の角を曲がったところで、ジル様がピタリと足を止めた。どうしたのかしら? と思ったのも
『ええええ!?』
思わず驚きの声をあげてしまって、その口をジル様に
だって、だって……アリーシャと金髪の青年がキスしていたんだもの。
いや、正確には少し
声を殺してよくよく観察して見てみると、相手はくせのある
(ええ!? どういうことですの!? こんなことありましたっけ!?)
半ばパニックになって、ぐるぐると思考をめぐらせ、過去の記憶を急いで
(何でもいい。どんな
この日のことを
一つだけ思い当たることがあった。
そういえば先生から
少しして、アリーシャとライアン様が何事もなかったかのように歩き出す。
「…………」
ジル様はふらりと廊下の壁にもたれかかると、ずるずると座り込んでしまった。どうやらジル様は完全にアリーシャとライアン様がキスしたと誤解してしまったようだ。
そういえば、生前ある時からやけにジル様の態度がよそよそしくなったような気がする。もしかして、これが原因だったりするのかしら? それでコーデリア様に気持ちが傾いたとか?
そんなことを考えていると、ジル様が絶望の
「…………そんな……アリーシャがライアンと浮気していたなんて……」
(浮気!?)
確かにジル様から見たら二人がキスしたように見えたのかもしれない。けれど、わたくしはそれが絶対にありえないことだと知っている。
(このままではアリーシャに
それは困る。浮気を疑われたままだなんて
『断じて違いますわ! ぜったい、ぜーったい、ありえません!』
「どこが違うっていうんですか……今のはどう見たって……!」
みなまで言えずにジル様が拳を握りしめる。
だめですわ……わたくしが何を言ったところで
『でしたら、直接確かめてみたらよろしいでしょう!』
「…………無理言わないでください。あんなの見た後で直接聞くなんて、僕には……」
『あんなの、ただの
ジル様ははっと顔を上げた。ジル様の目は遠ざかっていくアリーシャとライアン様の背中を捉え、すくりと立ち上がった。
「違います。アリーシャは……僕のアリーシャは絶対にそんなことはしません!」
そうして力強く一歩を
「アリーシャ! ライアン!」
ジル様の呼びかけに二人が振り返った。ジル様を見たアリーシャの顔が
その表情からはどう見ても浮気現場を見られてしまったというような後ろめたさは
いつも通りのアリーシャの様子に、ジル様の体から少し力が抜けるのがわかった。そうしてジル様が本題を切りだそうと口を開きかけた時、ライアン様がしめた! という顔でアリーシャとジル様の間に割り込んできた。
「なぁ、ジルベルト。運ぶの代わってもらっていいか? さっきから目が痛くて……医務室に診てもらいに行きたいんだ」
ジル様が
足早にその場を去っていくライアン様の背中を見送ってから、アリーシャと顔を見合わせる。
「目が、痛くて……?」
「そうなんです。ノートを運ぶのを手伝ってくださっていたのですが、急に目が痛くなってしまったみたいで……先ほど目に何か入っていないか見てみたのですけど、特に何か入っているようには見えなくて……」
「そう……でしたか……」
ジル様はぎこちなく
ノートを提出し終えて教員室を出ると、アリーシャが丁寧にお
「ありがとうございました」
「いえ。そういえば、ライアンとは途中で?」
「はい。うっかりノートを廊下にばら
「…………なんだ、そういうことだったんですね」
「え?」
「いえ、何でもありません。今度から荷物を運ぶときは呼んでください。僕がいつでも手伝いますから」
きょとんと首を
「そういえば、ジル様は
「あ! そうでした。あなたを誘いに来たんです──今日、一緒に帰りませんか?」
当初の目的を思い出して、ジル様がアリーシャに一緒に帰らないかと誘うと、彼女は嬉しそうな顔をして二つ返事で頷いた。
アリーシャをお屋敷に送り届けた後、二人きりになったタイミングでジル様から声をかけられた。
「先ほどはありがとうございました。あなたのおかげで変な誤解をせずにすみました」
言われてから、自分が意図せず二人の仲を取り持つ手助けをしてしまったことに気づいた。
浮気されたと思われたままなのは
「先日もアリーシャとのことで助けてくださいましたし、実はあなたは天が遣わしてくれた守護霊なのではないかと思えてきました」
都合のいい
むしろ
それと同時にジル様が好きなのはやっぱりアリーシャなのだと確信した。
ここ数日のすれ
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