2章 浮気調査とすれ違っていた過去

2-1


 翌朝。

 目が覚めると、ジル様がベッドにくくりつけたひもをほどこうとふんとうしているところだった。

 きつくしばった結び目は右手だけではほどくことができず四苦八苦しているところに、ジル様を起こしにチャーリーさんがやってきた。

 チャーリーさんはジル様が紐で縛られているのを見るや、「あくりょうの仕業ですか!?」とってきた。真っ先に疑われるなんて心外ですわと思いつつも、よくよく考えてみれば発案者はわたくしだったと思い出して返答に困っていると、ジル様が自分でやったことだとチャーリーさんをなだめてくれた。

 とはいえ、ジル様にとっては大変めいな目覚めだったらしく、そのあと大急ぎでいっしょに暮らす上でのルールを決めることになった。

 人前で勝手にしゃべらないことだけは昨日決めていたけれど、それに加えてジル様からは彼の意識がない時に勝手に動き回らないでほしいこと、わたくしからはおトイレとおの時は可能な限り目を閉じて入ってほしいことが挙げられた。


 わたくしの要望を聞いたジル様が、「お風呂は無理じゃありませんか?」と苦言をていした。

 やっぱりお風呂はぼうだったかと思いつつ、うっかり昨日のことを思い出してしまってせきばらいをしてした。代わりに、わたくしがている間に入ることを提案してみる。

 数学か経済学の教科書を読んでもらえればすぐにねむれますと自信満々に伝えれば、ジル様から鏡しに何ともいえない視線を向けられた。


『今あきれましたわね! 苦手なんですもの、仕方ないでしょう!?』


 ぷうっとほおふくらませていじけてみせれば、彼はしょうして口元を押さえた。


「いえ、なんとも人間くさいゆうれいだと思いまして」

『それ馬鹿にしてません!?』

「別に馬鹿にしているつもりはありませんよ―― それより、しきの外に出たら人前では絶対にしゃべらないでください。いいですね?」


 制服にえたジル様に念を押される。


『わかっていますわ。昨日のような失態はもうしませんからご安心ください』


 何より今のわたくしには、うわしょうをこっそり集めるという目標ができたのです。

 目立つような行動はつつしまなければ。

 わたくしは鏡の中に映る制服姿のジル様を見つめて、すました顔をしていられるのも今のうちですわよとくちはしを上げてみせた。


 浮気調査一日目。

 ジル様とコーデリア様はあいさつわしたものの、二人の間にしんな動きはない。

 ジル様の中で午後の授業を受けながら、あせってはダメだと自分自身に言い聞かせる。 焦ってはだめよ、わたくし。まだ一日目じゃない。浮気調査は根気が大事って、小説にも書いてありましたもの。体を共有している限り、ジル様にかくしごとなんてできるはずが

ない。今は事をあらてずにボロが出るのを待たなければ。

 いつか読んだ小説の内容を思い出しながら内心うんうんとうなずいていると、ふとジル様の視界がまどぎわに向いた。


(あ……また……今日何度目かしら?)


 今日一日体を共有してわかったのは、ジル様がいかに真面目に授業を受けていないかということだった。

 教室の後方にあるジル様の席からは教室全体がわたせるのだけど、ジル様は日に何度も窓のほうに目を向けていた。授業中でも休み時間中でも、ふとしたひょうに窓の、とりわけ前のほうに目を向ける。そのひんぱんさと言ったら、もっと真面目に授業をお受けになったほうがよろしいのでは? と口を出したくなるほどだった。

 最初こそ窓の外に何か気になるものでもあるのかと思っていたのだけれど、すぐにその視界の中央にアリーシャがいることに気づいた。


( ―― もしかして、わたくしを見ていますの?)


 自意識じょうかしら? と思いつつ、視界に入るアリーシャを観察してみる。

 窓際の前のほうに座るアリーシャがジル様の視線に気づいた様子はない。彼女はノートにペン先を押しつけたまま、うとうとと船をいでいた。

 午後のぽかぽかした陽気に苦手な経済学の時間だ。眠くなるのもいたし方ない。

 生前もよく授業中にうとうとしていたのを思い出してなつかしい気持ちにひたっていると、アリーシャの頭がカクンと大きくれた。はっとしたアリーシャがこそこそと周囲に目を配る。ジル様はその時だけ見てませんと言いたげにアリーシャから目をそらした。そうしてだれにも見られていないことをかくにんしたアリーシャがほっとする様子を見て、ジル様は口元をゆるませた。


(ああああ、後ろ! ジル様に思いっきり見られてますわよ!)


 自分のことながらずかしい。もう見ないでほしいのに、ジル様がずっと見続けるものだから、再びうとうとし始めた自分の姿を見続ける羽目になってしまった。

 結局この日は浮気の証拠は得られず、浮気調査一日目はジル様が授業中によそ見ばかりしているということしかわからなかった。



*****



 浮気調査二日目。

 この日もしゅうかくのないまま一日が終わった。

 今日は放課後ブライト様のお屋敷におじゃすることになっていたので、学園を出たその足でブライト様の家の馬車に乗りこむ。

 王都こうがいにあるレイ家のタウンハウスは、へいにびっしりとつたしげっていてどこかいんうつで近寄りがたいふんただよっていた。

 そんな空気をものともせずに、ブライト様が「ただいまー」と誰もいないエントランスに声をかければ、しつさんやメイドさんがむかえてくれるわけではなく、赤いバラがけられたごうせいびんが出迎えてくれた。どういうわけか、誰もいないのに花瓶が宙にいている。はっきり言ってホラーすぎる。


『ヒィッ! ななな、なんですの、これ!?』


 短く上げた悲鳴に、ブライト様が苦笑する。


「びっくりさせちゃってごめん。うち、ご先祖様の幽霊と同居しててさ」


 ブライト様がなんてことないようにものすごいことを言ってのけた。

 ブライト様自身は幽霊を見る能力はないそうですが、花瓶が宙に浮いたりする現象はにちじょうはんのため見慣れているらしい。いつもちょっとやそっとのことではおどろかないブライト様のメンタルの強さはこのあたりから来ているのかとみょうなっとくしてしまった。

 ブライト様に案内されるまま彼の私室に招かれたわたくしとジル様は、入ってすぐにそこかしこに積み上げられた本に目がうばわれた。

「散らかっててごめんね」と言ったブライト様は、わたくしたちをソファーに座るようにうながすと、本を数冊ときんぱつのビスクドールを持ってわたくしたちの向かいにこしを下ろした。


「とりあえず、調子はどう? 体がおかしいとかつかれやすいとかいったしょうじょうはないかい?」

「今のところ肉体的にはおかしいところはありませんが、精神的に疲れますね」

「まぁ、他人と四六時中一緒にいるっていうのは気をつかうよね。ジルベルトの中の彼女は?」

『わたくしもそんな感じですわ。おえの時とかごっそりと気力を持っていかれるといいますか……』


 一番気力を持っていかれるのはおトイレの時だけど、恥ずかしいのでそれはだまっておく。


「なるほどね……いくつか確認したいんだけど、ジルベルトの体って今どうなってるの? 二人とも自由に動かせるの?」


 ブライト様は今のジル様のじょうきょうが知りたいらしく、立て続けに質問を重ねた。ジル様は右手をにぎったり開いたりしながら聞かれたことに答えた。


「いえ、今のところは僕だけのようですね」

『わたくしが今動かせるのは口だけですわね。ジル……ベルト様が寝ている間は自由に動き回れるのですが、起きると急に体の自由が失われる感じです』

「なるほど……体の所有権はジルベルトにあるみたいだね」


 ブライト様は聞いたことを書き記していく。

 ジル様には取りかれた日の朝の様子や最近何か変わったことはなかったかということ、取り憑かれる原因に心当たりはないかどうか。わたくしにはジル様に取り憑いた原因に心当たりはないかどうか。

 そんなことを聞いてどうするのかとジル様が聞けば、ブライト様は手にしていたペンをクルクル回しながら幽霊について説明してくれた。


いっぱん的に幽霊が現世に留まっているっていうのは、何かしらの未練があることがほとんどなんだ」

『未練、ですか?』

「うん。で、幽霊が人に取り憑く場合っていうのは、その未練に関係していることが多いんだよ。だから君たちにも何か思い当たることはないか聞いてるってわけ」


『…………』


【未練】と聞いて最初に頭に浮かんだのは、こんやくされた未来を変えたいという思いだった。けれど自分の正体を明かしていない以上、それをここで話すわけにはいかない。

 わたくしは無言をつらぬくことで思い当たることはないと誤魔化した。

 ブライト様はわたくしたちの話を聞いた後で、テーブルの上に積み上げられた本を一冊手に取った。


「あれから僕のほうでも調べてみたんだけど、れいを体から引きはがすようなじゅつは世界各地にいろいろあるみたいなんだよね。どれが君たちに効果があるかわからないけど、これから一つずつためしてみようと思うんだ。ちなみに今日試すのはこれ」


 そう言って手にしていた本をパラパラめくると、ほうじんらしき図形がいてあるページを開いてわたくしたちに提示してくれた。この国の本ではないらしく、見たことのない文字がさいされている。ブライト様はしきの手順について説明し、成功すればわたくしのたましいはジル様の体を出てブライト様の持ってきたビスクドールに移されると教えてくれた。

 ブライト様の説明を聞きながら、わたくしは内心焦っていた。人形の中なんかに魂を移されたら、今以上に身動きがとれなくなってしまう。まだ何一つ浮気の証拠を集められていないのに、今ジル様の体から追い出されては困る。

 このままでは、わたくしを助けるどころか同じ未来をむかえてしまいますわ。

 おまけにブライト様の持ってきたビスクドールは、目がぎょろりとしていてかみもパサパサでおどろおどろしい。正直、あんな人形になるなんていやすぎる。

 どうにかできないかと、そんな不気味な人形に移されるのは嫌だとをこねてみる。


『どうしてよりにもよって、そんな不気味なお人形さんなんですの!?』


「不気味だなんてひどいな。しょうがないじゃないか、うちにある女の子の人形なんてこれくらいしかなかったんだから――さぁ、ものは試しだよ。はい、ジルベルト。これかぶってじんの中央に立って」


ブライト様は黒いローブを羽織ると、かべに丸めて立てかけてあった大きな紙をゆかに広げて、げっけいじゅでできたかんむりをジル様に差し出した。ジル様は促されるままに魔法陣とおぼしき複雑に重なった円の中央に立つと、葉っぱがわさわさ付いた冠を頭にせた。

 円の外にいるブライト様はジル様と同じく月桂樹で作られた冠を頭に載せて、聞いたこともない言語でじゅもんらしきものを唱え始めた。

 そのしゅんかん、見えない力に引っ張られるような感覚を覚えた。


(まずいですわ! 追い出されてたまるものですか!)


 わたくしは必死にジル様の体にしがみつくようにして儀式にえた。

 ややあって、ブライト様が力ある言葉をもって手を天にかかげた。同時に見えない力のようなものも消える。


(た、耐えきりましたわ……)


 ほっと胸をなでおろすと、ブライト様が息を切らしながら「どう?」とたずねてきた。ジル様の代わりにわたくしがまだジル様の中にいることを告げると、ブライト様は「失敗かー」とぼやいた。


「まぁ、そう上手うまくいくとは思ってなかったけどね。今度またちがうのを探しておくよ」


 ブライト様はがっかりするジル様をづかって手ずからお茶をれてくれた。なかなかにぎわがいい。貴族なのに自分でお茶を淹れられるなんてめずらしいとその様子を見ていると、

 ふと目が合ったブライト様がかしたように小さく笑った。


「夜眠れなくて、よくあんみん効果のあるお茶を淹れるんだ」


 夜眠れないというブライト様の目の下に浮いたくまが痛ましい。

 ブライト様の淹れてくれたお茶は、ほのかにオレンジの香りがした。ふわふわとした気分になってきたと思ったら、ジル様の体がぐらりとかたむいて、まばたきのうちに体の支配権

がわたくしに移っていた。

 急にどうしたのかしらと、自由に動くようになった体に視線を落として手を握ったり開いたりしていると、向かいに座るブライト様から声がかけられた。


「―― ジルベルトは寝たかな?」


 まるでジル様が寝るとわかっていたような口ぶりにけいかいしんが高まる。


『どういうおつもりですか? ジル様になにをなさったの!?』

「少しだけジルベルトきで君と話したくてね。あ、ジルベルトなら僕がいつも飲んでるお茶を飲んでもらっただけだから心配いらないよ――まぁ、ジルベルトだけ寝るかどうかはけだったけど。さっきの話を聞いた感じだと、ジルベルトに比べて君の感覚はにぶいみたいだからね。それをちょっと利用させてもらったってわけ」


 どうやらジル様よりもわたくしのほうが感覚が鈍いという特性を利用して、すいみん効果のあるお茶でジル様だけを眠らせたらしい。

 たんたんと話すブライト様の様子に得体のしれないものを感じて身構える。


「そう身構えないでよ。ねぇ、アリーシャ、、、、、じょう

『…………え?』


 さらりと言われた名前に目を見開く。驚いてブライト様の顔を見ると、にこやかなみを浮かべた彼と目が合った。


「どうして? って顔だね。君も知ってるだろ? 僕が人のオーラを見ることができるってこと」

『え、ええ……でも、だからって、どうして……』


 それに何の関係があるのだろうと、ごくりとつばを飲み込んでブライト様の言葉を待つ。


「人のオーラっていうのはね、誰一人として同じ色をしてる人はいないんだよ。一昨日、ジルベルトと会った時は驚いたよ。アリーシャ嬢とうりふたつのオーラがジルベルトの中に見えるんだもの」

『で、でも、アリーシャは別に……』

「うん、いるね。本来なら同じ時間に同じ人間が二人いるなんていきりょうくらいしかありえないんだけど、君は生霊でも、まして悪霊でもなさそうだ。だから、君が何なのか確認しておきたくて」

 ブライト様はひざの上にほおづえをつくと、黒いそうぼうをすっと細めた。さぐるような視線にごこの悪さを感じて、そっと視線を下げる。


『わたくしだってわからないのです。死んだはずなのに、目が覚めたらジル様の体だし、一年半も時がもどっているしで―― 』

「時が巻き戻ってる!? それ、本当!? 」


 ブライト様が驚きのあまり腰を浮かせてりょうかたつかんできた。

 本当かと言われると正直自信がない。時をさかのぼる前のおくはわたくしが覚えているだけで、何の証拠もない。『とても信じられるようなお話ではないのですが』と前置きをした上で生前の話をすると、ブライト様はしんみょうな顔をしてわたくしの話に耳を傾けてくれた。

 ひとしきり話を聞いた後、ブライト様はなにやら考えるように親指のつめんで、一言「信じられないな」とつぶやいた。

 でしょうね。わたくしだって、ブライト様の立場だったら信じられませんもの。

 もとより信じてもらえないと思っていたとはいえ、やはり信じてもらえないというのはこたえる。『こんな非常識なお話、信じられませんわよね』と意気しょうちんして同意すると、ブライト様ははっとしたように顔を上げて手を横にった。


「違う違う! 僕が信じられないって言ったのは、ジルベルトが浮気してたってとこ」

『そこ!?』

「時が巻き戻ってることを確認する術はないけど、世の中には逆行転生の魔術書なんてものが存在してるくらいだからね。そこは信じるよ」

『逆行転生の魔術書? そんなものがあるのですか?』

「うん。うちの禁書庫で読んだことがあるよ」


 世間話をするかのようにさらりと言ってのけたブライト様は、一度言葉を切った後に「ねぇ、アリーシャ嬢」と口を開いた。


「……どうしてジルベルトに名前を忘れただなんてうそをついたの? もしかして、婚約破棄されたことが原因だったりする?」


図星を指されて膝の上で手を握りしめる。


『……だって、気づいてくださらなかったんですもの。仮にもこんやく関係にあったのに、ジル様ってばまったく! これっぽっちも! わたくしがアリーシャだって気づいてくださらなかったんです! 確かに、正体は明かしてないですがきっとジル様にとって、わたくしはどうでもいい存在だったのでしょうね……ああ、いろいろ思い出してきましたわ。二人でお出かけした時もいつもわたくしよりも時間を気にされていて……そういえば卒業パーティーの日だって、いつの間にかいなくなっていて最後までエスコートしてもらえませんでした……きっとあの時もわたくしに隠れてコーデリア様とのおうを楽しんでいたに違いありませんわ! 何の因果かこうして過去に戻ってこれたんですもの、今度はこちらから婚約破棄をつきつけないと気が済みません!』


 不快感を隠さずに答えると、ブライト様は額に手を当てて深くため息をついた。

 

「なるほど……君はそう思ってるわけか……」


 ブライト様はに座ったまま、けんに深いしわを刻んで動かなくなってしまった。その表情からは何を考えているのかわからない。しばらくはその様子を見守っていたのだけれど、重苦しいちんもくえかねて様子をうかがうように声をかけてみる。


『……あの、ブライト様?』


 呼びかけると、ブライト様はゆっくりした動作でわたくしと目を合わせ――にっこりとさんくさい笑みを浮かべた。


「どうせすぐには解決しないんだ。この機会にジルベルトのことをよく見てあげてよ」

『…………どういう意味ですの?』


 言葉の真意がわからずに聞き返すと、ブライト様はにっこりとした笑みを浮かべたまま


「ジルベルトが浮気するやつかどうか、君の目で確かめてってこと」と答えた。

 ブライト様はジル様が浮気なんてするはずないって思っているのでしょうけど、浮気なんて外聞の悪いことを友達に話すとは思えない。きっとブライト様は知らされていないだけなのだろう。

 どのみち浮気調査をしているので結果はおのずと出てくるはず。このちょうせん、受けて差し上げようじゃありませんか。


『浮気調査、望むところですわ』

「決まりだね。それじゃあ結果がわかるまでは、君がアリーシャ嬢だってことはジルベルトにないしょにしておいてあげるよ」


 にこにことゆうそうなブライト様の様子に、わたくしは負けじと口の端を上げて「ジル様のほんしょうを知ってもこうかいしないでくださいね」とたいこうした。


 放課後、ジル様はコーデリア様から授業で作ったというしゅうのハンカチを差し出された。


「午後の授業で刺繍をしたんです。よろしければもらっていただけないかと思って」


 細いうでの先をスカートの後ろに隠して、もじもじと体を揺らしながら頰を染めるコーデリア様の姿に、わたくしは背筋の冷えるような感覚をいだいた。

 自身が刺繍した小物をおくるということは、相手を大切な人と思っていると暗に伝えているようなものだ。婚約者のいる男性に刺繍のハンカチを贈るという神経が信じられない。

 ジル様だって女性が刺繍のハンカチを男性に贈ることの意味はわかっているはず。

 これは立派な浮気現場といえるだろう。

 ようやくめぐってきた機会にドキドキしながら見守っていると、ジル様はわたくしの予想に反してていねいに頭を下げて受け取りをこばんだ。


「すみません、コーデリア嬢。申し訳ないのですが、受け取れません」

(え!? 受け取りませんの!?)


 てっきりとして受け取るのだと思っていたから、ジル様の反応に驚いた。 断られたのが気にくわなかったのか、コーデリア様の顔がわずかにゆがむ。


「……それは、婚約者がいらっしゃるからですか?」

「ええ」

「それは存じてますわ。でも、私……上手くできたから、ずっとあこがれていたジルベルト様に使っていただきたくて……」


 コーデリア様の目がみるみるなみだうるんできて、それを見たジル様が「うっ」と狼狽いろたえる。

 ジル様は彼女の涙にさそわれるように手をばしかけて、ぎゅっとこぶしを握りしめた。


「すみません。それでも、僕はアリーシャを裏切るようなことはしたくないので――――ああ、泣かないでください!」

「せめて見ていただくだけでもだめですか?」

「ええと……見るだけでよければ……」


 ジル様の返事に、今にも泣きだしそうだったコーデリア様の顔がぱぁっと明るくなる。

 彼女は折りたたまれていたハンカチを開いて、もっと近くで見てくださいとジル様に体を近づけた。

 赤やピンクの小さな花が左下と右上にれいに刺繍されていたハンカチは、本人が上手にできたと言うだけあってかなりの力作だった。


「綺麗な花ですね。これは何という花なんですか?」

「アネモネです」


 花の名前を聞かれたコーデリア様がはにかむように微笑ほほえんだ。

 アネモネ。花言葉は確か【あなたを愛する】とか【はかないこい】とかだった気がする。

 そういえば、思い出してきましたわ。

 確かこの授業、花言葉を調べてその花を刺繍したハンカチを誰かにプレゼントするというしゅのものでしたっけ。プレゼントする相手は親でも兄弟でも好きな人でもいいというので、わたくしはジル様にお贈りしようと花言葉を調べてナズナとブルースターの花を刺繍したのでした。

 ジル様が花言葉まで知っているかはわからないけれど、婚約者のいる相手に【愛してます】という花言葉の花を刺繍したハンカチを贈ろうとするなんて正気のとは思えなかった。

 あまりのことにぜんとしていると、ふとコーデリア様のかたしにこちらを見ているアリーシャの姿に気がついた。

 その不安げな表情に、この時のことを思い出した。

 帰りにハンカチをおわたししようと思っていたわたくしは、ジル様がコーデリア様からハンカチをもらっているのを見てすっかり渡す気をなくしてしまいましたのよね。楽しそう

にお話しする二人を見ているのがつらくなって、教室をそっと抜け出して、中庭で一人泣きましたっけ。今でもとても悲しかったのをよく覚えている。

 ―――― でも、本当は違った。

 ジル様はちゃんと婚約者であるわたくしのことを優先してくれて、きっぱり受け取れないと断ってくれていた。

 時をえて知った真実は、わたくしが思っていたものとは全く違うものだった。

 コーデリア様の長いまんばなしが終わるころには、教室からアリーシャがいなくなっていた。


「アリーシャ……?」


 ジル様が小さく呟きをもらし、教室内をぐるりと見渡す。目線の動きからアリーシャをさがしているのがわかった。

 わたくしはアリーシャの場所を教えようと口を開きかけ、きゅっと口を結んだ。

 かつてのわたくしがそうだったように、おそらくいまごろは中庭で泣いているはずだ。きっと涙でぐちゃぐちゃになっているに違いない。泣きらした顔なんてジル様には見られたくないだろう。そう思ったから、わたくしはあえてアリーシャの居場所を教えなかった。

 ジル様は最後にもう一度アリーシャの席に目を向けると、そのまま教室を出て人けの少ないろうを走りだした。

 移動教室で使った教室、図書室、医務室、食堂。

 広い学園内を走り回るジル様を間近で見て、『どうして』と心の中で呟く。

 どうしてこんなにいっしょうけんめい捜してくださるの?


『もうとっくに帰ってしまったのではないですか?』


 教室とうと特別棟をつなぐ渡り廊下まで戻ってきたところでぽつりと話しかけてみる。

 アリーシャの机にかばんがかかっていなかったのをジル様も確認しているはず――もう帰ったと思われても仕方のない状況で、試すようなことを言っている自覚はあった。

 けれど、ジル様は「いいえ」ときっぱり首を横に振った。


「放課後、少し会えないかと言っていたんです。アリーシャが何も言わずに帰るなんてあ

りえません」


 傾いた赤い太陽が誰もいなくなった廊下を照らして、足元のかげが大きく伸びる。

 まだ学園内のどこかにいると信じてくださっているジル様に心を打たれ、わたくしは今

まで黙っていたアリーシャの居場所を伝えることにした。


『…………中庭です』

「中庭?」

『中庭の、池の近く……おそらくそこにいます』


 かつて、二人の仲を誤解したまま教室を出たわたくしが向かった場所がそこだった。

 どこでもいいから人のいないところへと足の向くままに歩き回ったせいで、どういう経路を辿たどったかまでは覚えていなかったけれど、ハンカチを池に落としてしまったことだけはせんめいに覚えていた。

 ジル様は理由も聞かずに廊下の手すりをえて中庭に降り立つと、池のある西側に向かってけ出した。

 あしの長いジル様は走るのも速くて、目的の場所にはあっという間にたどり着いた。

 きょろきょろとあたりを見回すジル様の視界が、風になびく銀の髪をとらえた。


「アリーシャ!」


 ジル様が駆け寄りながら声をかけると、木の幹に背中を預けるようにして座っていたアリーシャがびくりと体をふるわせた。けれど、声をかけられたアリーシャはこうちょくしてしまったかのように、こちらを振り返ろうとはしない。

 そうしているうちにジル様がアリーシャのもとにたどり着いてしまう。膝をついて正面からアリーシャの顔をのぞき込むと、案の定彼女の目は泣き腫らしたように赤くなっていた。


「アリーシャ、何かあったんですか!?」


 アリーシャの泣き顔を見たジル様が彼女の両肩を揺さぶった。違う、というようにアリーシャが頭を横に振る。


「では、誰かに何かされて!?」


 それも違うとアリーシャが頭を振って否定する。大きなひとみが潤んでポロリとおおつぶの涙があふれた。

 あわてたジル様がポケットからハンカチを取り出して差し出せば、アリーシャは潤んだ目をジル様に向けたままじっと見つめた。そのくちびるが小さく震えた。


「……ど、して……? コーデリア様とご一緒だったのでは……?」

「確かにコーデリア嬢とは話をしていましたけど、放課後はあなたと約束をしていたでしょう?」

「……だから、追いかけてきてくださいましたの?」


 消え入りそうな声で尋ねられ、ジル様は「ええ」と頷き返した。そうしていつまでっても受け取ってもらえないハンカチでアリーシャの涙のあとをそっとぬぐうと、どこかに視線を彷徨さまよわせてから彼女のとなりに腰を下ろした。


「見つけられてよかった……何があったんですか? 僕でよければ聞かせていただけませんか?」

 ジル様がやさしい声で問いかけ、気遣うようにアリーシャに目を向ける。その視線の先で、アリーシャはジル様の視線からのがれるように目をそらし、かすかに震える手でスカートのすそを握りしめた。


「…………」


 不安そうな彼女の表情からは、コーデリア様から贈られたハンカチのことを聞きたい、けどこわくて聞けない――そんなかっとうが見て取れた。自分のことだからか、彼女が何を考えているのか手に取るようにわかった。

 誤解なんだからさっさと確かめてしまえばいいのにと、目の前でもじもじする自分にもどかしくなってくる。


(ああ、もう! じれったいですわね!)


 ジル様にはしゃべらないでくださいと言われていたけれど、このままではらちが明かないと思って、ジル様に一言断ってから口を開いた。


『一言だけ言わせてください―― アリーシャ、ジル……僕はコーデリア嬢のハンカチを受け取っていませんからね』

「っ!」


 なるべくジル様っぽく聞えるように伝えると、アリーシャは深い青色の目を大きく見開いて小さく息をのんだ。


「ほんと、に……? 本当にコーデリア様からもらっていませんの……?」


 その一言でジル様はアリーシャがなぜ泣いていたのか察してくれたらしい。わたくしの言葉をいで今度はジル様が答える。


「ええ。渡されましたけど、受け取りませんでしたから」

「どうして……?」

「どうしても何も。あなたという婚約者がいるのに受け取るわけがないでしょう?」


 ジル様はそう言うと、アリーシャから少し目をそらしてうなじのあたりをかいた。


「その……アリーシャは僕に……」

「え?」


 上手く聞き取れなくてアリーシャが聞き返すと、ジル様は意を決したように先ほどより大きな声でり返した。


「アリーシャは僕に作ってくれなかったんですか?」

「ふぇ!?」

「あなたも授業でハンカチに刺繍をしたのでしょう?」

「はい……あの、でも……わたくしの作ったものなんかで本当によろしいのでしょうか……?」


 鞄からオフホワイトのハンカチを取り出してもじもじするアリーシャに、ジル様はかんはつれずに答えた。


「ええ。あなたのがいいんです」


 その一言を聞いて、アリーシャはきょかれたような顔をしてから満面の笑みを浮かべた。シンプルな言葉はしっかり彼女の胸に届いたらしい。


(うんうん、誤解が解けてよかったよかった―― って、全然よくありませんわ! ああ、なんてこと……裏切られるってわかっているのに、これ以上二人を仲良くさせてどうしますの!?)


 二人の楽しそうな会話を流し聞きつつ、わたくしはジル様の中で頭をかかえるのだった。

 帰りの馬車の中で、ジル様はアリーシャからもらったハンカチをきもせずにながめていた。ハンカチにいつけられた小さな青い花と白い花の刺繍はお世辞にも上手とは言えないえで、作った本人からすると、まじまじと見られると恥ずかしい。

 ジル様はわたくしのがほしいと言ってくれたけれど、いざもらったらこんな下手な刺繍でがっかりしているんじゃないかしら? と心配になって聞いてみる。


『そんなにそれがほしかったんですか?』


 とつぜん動いた口にびくりと体を震わせたジル様は、少しおくれてから口元に笑みを浮かべて「ええ」と頷いた。


『……コーデリア様のを断ってまで?』


 かく対象に出してしまったのは、どう見たってコーデリア様の刺繍のほうが出来が良かったからだ。


「どうしてコーデリア嬢が出てくるんですか」

『だって、どう見たってコーデリア様のほうがお上手だったではありませんか』

「たしかにコーデリア嬢の刺繍はお店で売っていてもそんしょくない出来でしたけど、上手い下手はこの際どうだっていいんですよ。アリーシャが僕のために作ってくれたってことが大事なんです」


 ジル様はそう言ってハンカチに刺繍された青い花をそっとなでると、ふと何かを思い出

したように顔を上げた。


「そうだ、あなたにもお礼を言おうと思っていたんです。今日はありがとうございました」

『え?』

「アリーシャの居場所を教えてくれたでしょう?」

『べ、別にあなたのために教えたわけでは……』


 わたくしはただ誤解したままのアリーシャが可哀想かわいそうだったから少し助言しただけ、そう自分に言い聞かせる。


(なによ。調子がくるうじゃない)


 いなくなったアリーシャを学園中捜し回ってくれたり、ハンカチをもらってうれしそうにしたり―――― これじゃあ、まるでジル様がアリーシャわたくしのことを好きみたいじゃないですか。

 そこまで考えてから、ふとある可能性に思い至った。

 もしかして、ジル様とコーデリア様はまだこいびと同士にはなってない……? それならジル様がコーデリア様よりも婚約者であるアリーシャを優先するのもつじつまが合う。

 本当のところどうなのかしらと聞いてみようかどうか迷っていると、「それにしても」とジル様が先に口を開いた。


「どうしてあなたはアリーシャが中庭にいるとわかったのですか?」

『それ、は……』


 わたくしは答えに詰まった。かつての自分がそうだったからとは言えるわけがない。どうにかして誤魔化さなければと言葉を探したわたくしは、『幽霊だけが使えるとくしゅ能力です』と苦しすぎる言い訳でその場をしのぎ、かんじんなことを聞きそびれてしまった。



*****



 それから数日後の放課後。

 コーデリア様につかまって教室を出るのが遅れたジル様は、アリーシャと一緒に帰る約束を取りつけるべく、教員室に向かった彼女の後を追いかけていた。

 廊下の角を曲がったところで、ジル様がピタリと足を止めた。どうしたのかしら? と思ったのもつか、わたくしの目に信じられない光景が飛び込んできた。


『ええええ!?』


 思わず驚きの声をあげてしまって、その口をジル様にふさがれる。

 だって、だって……アリーシャと金髪の青年がキスしていたんだもの。


 いや、正確には少しかがんだ青年の顔にアリーシャの後頭部が重なって見えるのだけれど、ジル様の位置からはどう見てもキスしているようにしか見えない。

 声を殺してよくよく観察して見てみると、相手はくせのあるい金髪にはく色の目をしたクラスメイトのライアン・ケルディ様だった。


(ええ!? どういうことですの!? こんなことありましたっけ!?)


 半ばパニックになって、ぐるぐると思考をめぐらせ、過去の記憶を急いでこす。


(何でもいい。どんなさいなことでもいいから何か思い出さないと……!)


 この日のことをがんって思い出す。天地がひっくり返っても、ライアン様とキスしたなんてことはなかったはず―――― あ。

 一つだけ思い当たることがあった。

 そういえば先生からたのまれてノートを運んでいるちゅう、運ぶのを手伝ってくれていたライアン様が急に目が痛いと言いだして目の具合を見たことがあったような気がする。わたくしのたけではよく見えなかったからライアン様には屈んでもらったのですが、もしかしてこれがそれかしら?

 少しして、アリーシャとライアン様が何事もなかったかのように歩き出す。


「…………」


 ジル様はふらりと廊下の壁にもたれかかると、ずるずると座り込んでしまった。どうやらジル様は完全にアリーシャとライアン様がキスしたと誤解してしまったようだ。

 そういえば、生前ある時からやけにジル様の態度がよそよそしくなったような気がする。

 もしかして、これが原因だったりするのかしら? それでコーデリア様に気持ちが傾いたとか?

 そんなことを考えていると、ジル様が絶望のにじんだ声で呟いた。


「…………そんな……アリーシャがライアンと浮気していたなんて……」

(浮気!?)


 確かにジル様から見たら二人がキスしたように見えたのかもしれない。けれど、わたくしはそれが絶対にありえないことだと知っている。


(このままではアリーシャにいわれのない疑いがかかってしまいますわ!)


 それは困る。浮気を疑われたままだなんてまんならないと、わたくしはジル様にこうした。


『断じて違いますわ! ぜったい、ぜーったい、ありえません!』

「どこが違うっていうんですか……今のはどう見たって……!」


 みなまで言えずにジル様が拳を握りしめる。

 だめですわ……わたくしが何を言ったところでとうてい信じてもらえない。


『でしたら、直接確かめてみたらよろしいでしょう!』

「…………無理言わないでください。あんなの見た後で直接聞くなんて、僕には……」

『あんなの、ただのちがいかもしれないじゃないですか! ジルベルト様はあの子が婚約者がいる身でありながら他の男性にうつつを抜かすような子だとお思いなのですか!?』


 ジル様ははっと顔を上げた。ジル様の目は遠ざかっていくアリーシャとライアン様の背中を捉え、すくりと立ち上がった。


「違います。アリーシャは……僕のアリーシャは絶対にそんなことはしません!」


 そうして力強く一歩をみ出したジル様は、二人の背後に向かって呼びかけた。


「アリーシャ! ライアン!」


 ジル様の呼びかけに二人が振り返った。ジル様を見たアリーシャの顔がほころぶ。

 その表情からはどう見ても浮気現場を見られてしまったというような後ろめたさはかけほども感じられなかった。

 いつも通りのアリーシャの様子に、ジル様の体から少し力が抜けるのがわかった。そうしてジル様が本題を切りだそうと口を開きかけた時、ライアン様がしめた! という顔でアリーシャとジル様の間に割り込んできた。


「なぁ、ジルベルト。運ぶの代わってもらっていいか? さっきから目が痛くて……医務室に診てもらいに行きたいんだ」


 ジル様があっにとられたように「ああ」としょうだくすると、ライアン様は「助かる!」と言って両手に持っていたノートをジル様にわたした。

 足早にその場を去っていくライアン様の背中を見送ってから、アリーシャと顔を見合わせる。


「目が、痛くて……?」

「そうなんです。ノートを運ぶのを手伝ってくださっていたのですが、急に目が痛くなってしまったみたいで……先ほど目に何か入っていないか見てみたのですけど、特に何か入っているようには見えなくて……」

「そう……でしたか……」


 ジル様はぎこちなくあいづちを打ってあんの息をついた。どうやら誤解だとわかってもらえたようで、わたくしもジル様の中で安堵の息をつく。

 ノートを提出し終えて教員室を出ると、アリーシャが丁寧におをした。


「ありがとうございました」

「いえ。そういえば、ライアンとは途中で?」

「はい。うっかりノートを廊下にばらいてしまって。拾うのを手伝ってくださったんです」

「…………なんだ、そういうことだったんですね」

「え?」

「いえ、何でもありません。今度から荷物を運ぶときは呼んでください。僕がいつでも手伝いますから」


 きょとんと首をかしげたアリーシャに、ジル様は小さくかぶりを振って笑みをこぼした。


「そういえば、ジル様はだいじょうですか? 何かご用があったのでは?」

「あ! そうでした。あなたを誘いに来たんです――今日、一緒に帰りませんか?」


 当初の目的を思い出して、ジル様がアリーシャに一緒に帰らないかと誘うと、彼女は嬉しそうな顔をして二つ返事で頷いた。

 アリーシャをお屋敷に送り届けた後、二人きりになったタイミングでジル様から声をかけられた。


「先ほどはありがとうございました。あなたのおかげで変な誤解をせずにすみました」


 言われてから、自分が意図せず二人の仲を取り持つ手助けをしてしまったことに気づいた。

 浮気されたと思われたままなのはしゃくだと思ったけど、わたくしってばまた二人の仲を取り持つようなことをしてしまいましたわ……。

 うなれるわたくしのことなんて知るよしもなく、ジル様がじょうげんに続ける。


「先日もアリーシャとのことで助けてくださいましたし、実はあなたは天が遣わしてくれた守護霊なのではないかと思えてきました」


 都合のいいかいしゃくだつりょくかんを禁じ得ない。

 むしろなかたがいさせるつもりだったんですけどとは言えなくて、わたくしは力なく笑い返すことしかできなかった。

 それと同時にジル様が好きなのはやっぱりアリーシャなのだと確信した。

 ここ数日のすれちがいをきっかけに、わたくしは今まで何か大きな間違いをしていたのかもしれないと思うようになっていった。

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