第51話 地下牢
両腕に痛みを感じて、サヤカは目を覚ました。
「んっ…」
彼女は、目を開けて周囲を見回した。
そこは窓のない、薄暗い部屋だった。
自分が何かに吊られているような感じがして、足元を見た。
ゴツゴツした石の床に素足の爪先が当たった。
「え…何これ」
その時初めて自分が両手首を頭の上で縛られ、鎖で天井から吊り下げられていることに気付いた。
「やだ…、なんでこんな…?」
黒いキャミソールドレスの下は何も履いていない。
足をジタバタさせ、なんとか手首の拘束を解こうとしたが、鎖がジャラジャラと音を立てるだけでどうにもならなかった。
「やっと目を覚ましましたね、お寝坊さん」
部屋の隅から黒衣の大男が歩いてきた。
「あ、あんた…」
彼女はその醜い顔を見て、恐怖の表情になった。
それはブールという男だった。
「これ以上目を覚まさないようなら、水をぶっかけようかと思っていましたよ」
彼女は思い出した。
気を失う前、この男にさんざん慰み者にされたことを。
「ひっ…!よ、寄らないで!」
「ホホ、あんなに可愛がってあげたのに、なんとつれないことを」
「ふざけんな!誰があんたなんか!」
「良く吠える雌だこと」
「何なのよこれ…?ここどこ?」
「ここは城の地下牢ですよ」
「地下牢!?」
サヤカは驚いて周囲を見回した。
石の床、土の壁。
牢という割には檻のようなものはなく、普通に扉のある部屋に見えた。
窓のない殺風景な部屋の四隅には光石の照明があるだけだった。
しかしよく見ると、壁際の棚には様々な拷問道具が並べられていた。
ここは地下牢というより、拷問部屋なのだろう。
寒気を感じて、サヤカは身震いした。
「嘘でしょ…?地下牢って何なの?」
「罪を犯した者が繋がれるところですよ、お嬢さん」
「バカにしてんの?そんなのわかってるよ!なんでこんなとこにいるかって聞いてんだよ!私が何したっていうのよ!」
「さて。そんなことに興味はありません。私の仕事はここへ来た者を従順にすることですから」
「何なのよ!私は特別待遇のはずよ?なんでこんなとこに連れて来られなきゃなんないの!?」
「ええ、ですから特別に扱うよう申し付かっています」
「これのどこがよ!」
「それはこれからわかりますよ」
サヤカは部屋中に避妊香の匂いが充満していることに気付いた。
これから何をされるのかと、不吉な予感に襲われた。
しばらくすると、ブールの後ろの扉が開いて、見知らぬ男が二人入ってきた。
「やあ、ブール。来たぜ」
「お待ちしておりました、グエン様、フォボス様」
「ヘヘ、賭けで一番の権利を勝ち取ったんだぜ」
「測定は済ませましたか?」
「ああ。ヤる前とヤった後に魔力を測れってやつか。ありゃ一体なんなんだ?」
「さて、私もよくは知りませんが、今回一定の魔力をお持ちの方のみが選ばれていると伺っていますので、その確認でしょう」
「ふうん?魔力ったって、俺のなんて微々たるもんだぜ?」
「ともかくあなた方は選ばれたのです。四六時中避妊香を焚いておりますので、好きなだけしてくださって結構です。守っていただきたいのは、奴隷に暴力を振るわないことだけです。持ち時間は二時間ですが、最初ということでおまけしておきますよ」
「へへ、ありがたい」
「ずっと遠征続きで溜まってたんだ。楽しませてもらうぜ」
二人の男は下級兵士の軍服を着ていた。
グエンとフォボスという男たちは、二十代半ばの独身男で下っ端の兵士だった。
顔立ちも平凡で、傍まで来ると微かに酒の匂いがした。
二人の男たちは天井から吊り下げられているサヤカを見て、歓喜した。
「おおー!こりゃあ上玉じゃんか。最近の奴隷は質が上がったなあ」
彼らは吊り下げられているサヤカに近寄り、ぐるりと一周しながらキャミソールごしに彼女の体を舐めるように見た。
「な、何なのよ?あんたたち」
男らはサヤカの胸や尻を揉んで、その感触を楽しんでいた。
「ちょっと!やめて!」
「おっぱいもデカいな。スタイルも顔もいい。この娘若そうだが、いくつだ?」
「17と聞いております」
「マジでか!いいねえ!こんな若い雌奴隷は久々だ」
「若い女とタダでヤれるなんて、ラッキーだぜ」
「な、何よ、ラッキーって…」
サヤカの言葉などまるで聞こえていないかのように、男たちは無遠慮にサヤカの胸や尻、太股を撫でまわした。
「やだ!触んな!!」
サヤカは体を揺らして彼らの手から逃れようとしたが、鎖に繋がれている状態ではどうすることもできなかった。
「おー、抵抗するぜ、こいつ」
「嫌がる女を犯すってのは燃えるな」
男たちは下卑た笑い声を立てた。
二人の男はサヤカの体を触りまくった。
「きゃあ!!やめなさいよ!この変態ども!あっちいけ、馬鹿、痴漢!」
彼女は体を揺らし、足をバタバタさせて、取りつく男たちを振るい落とそうとした。
だが宙吊りにされている彼女は、思うように抵抗できず、男たちのなすがままにされてしまう。
「やだってば!触んな!あっちいけ!」
「ヘヘ、いいぜ、わめけわめけ」
男たちは彼女のキャミソールドレスをたくし上げてその素肌を晒し、舐めまわした。
「このクソ男!私に触れて良いのはウォルフだけなんだから!」
サヤカが叫ぶと、グエンという男が笑い出した。
「ウォルフってあの皇太后の
「はあ?何言ってんの?ウォルフは私の騎士なんだよ!」
「ハハ、気の毒にな。あいつ、皇太后に隠れてあちこちで貴族の侍女やらメイドやらに手を出してるって噂だぜ。あのツラなら女には困らねえよなあ」
「う、嘘よ!ウォルフはそんなんじゃない!あんたたち、ウォルフがカッコイイからヤキモチ妬いてそんなこと言ってるんでしょ!」
すると二人の男は、同情するような目で彼女を見た。
「可哀想になあ。すっかり騙されてよ」
「あいつがあんたの騎士なら、何で助けに来ないんだよ?」
「…そ、それは…きっとそれもあのババアの命令なんだよ!」
「ババアって皇太后のことか?」
「はっはあ、わかったぜ。あんた、あの男妾に手を出して皇太后の不興を買ったんだな?それで奴隷に堕とされたんだろ」
「はあ?何言ってんの?」
その時、サヤカの言葉を遮るようにパンパン、とブールが大きく手を叩いた。
「おしゃべりはそのくらいにして、さっさと始めてください。時間が勿体ないですよ。後がつかえているんですから」
「おっと、そうだった」
グエンとフォボスはニヤニヤしながら再びサヤカの体に手を伸ばした。
「それじゃあ可哀想な雌奴隷を慰めてやろうぜ」
「おお。悲しむ暇もない程めちゃくちゃに犯してやるからな」
吊られている鎖が降ろされ、サヤカは二人の男の腕に囚われた。
ブールは気配を消すかのように部屋の片隅に下がった。
「やだ!やめてよ!汚い手で触んないで!」
男たちに好き勝手に弄ばれ、彼女は悲鳴を上げた。
グエンが、彼女の顎を掴んで無理矢理その口に自分の唇を押し当てた。
「んん-!!やだっ…!」
サヤカはそれを振り払って、グエンの顔に唾を吐いた。
「てめえ…!」
「あんたたち、私にこんなことしていいと思ってんの?!」
「へっ…、気の強い女を犯す方が燃えるってもんだ」
グエンは唾を吐かれた頬を拳で拭うと、不敵に微笑んだ。
「二度とそんな風な態度取れねえようにしてやるからな」
フォボスはサヤカの後ろに回り、彼女の腰をがっしりと押さえ込んだ。
「しっかり躾しないとな」
男たちは下品な笑いをしながら、二人がかりでサヤカを蹂躙し始めた。
最初は抵抗していた彼女もやがて大人しくなり、ワンピースを脱がされる頃には甘い声を上げ始めていた。
「あ…ああ…ん」
「ククッ、この女、嫌がってた割に感じてやがるぜ。犯されてるってのに相当好きモノだな」
「淫乱女め」
男たちは彼女の前後で体を揺すり続けた。
せわしなく体位を入れ替えながら、少しも休む暇なく、彼らはサヤカを犯し続けた。
ブールは壁に寄りかかり、その様子を舌なめずりしながら見ていた。
男たちは制限時間いっぱいまで散々楽しんだ後、満足げに出て行った。
サヤカは、床に横たわったまま裸で放り出されていた。
「ククッ、楽しんでもらえたようですね。これからもっと大勢の男たちに毎日可愛がられるんですよ。良かったですねえ」
「クソが…!何なのよ…、これ」
「あなた、お好きでしょ?」
「あんなヘタくそなのでイけるわけないじゃん。バーカ。演技してやったんだよ」
「へえ。なかなか余裕があるじゃありませんか」
「うっざ!それより喉乾いた!お水持って来て!あと、食べるものも!」
「はいはい。まったくあなたは大したものですよ」
ブールは笑いながら部屋から出て行った。
サヤカは両手を縛られながらも、体を起こした。
見ず知らずの男たちに乱暴に扱われた体は、あちこちに痛みを感じていた。
それは昔、味わったことのある感覚だった。
「なんで私がこんな目に遭わなきゃなんないのよ。絶対、あいつがやらせたんだ。くっそ、あのブス、今に見てろ…」
サヤカは自分の今の境遇をサラのせいだと思い込んだ。
「ここから出たら思い知らせてやる」
憎しみはしばし不幸を忘れさせてくれる。
金持ちの家に生まれ、何不自由なく暮らしてきた彼女は、気に入らないことがあるたび、他人のせいにして憎んできた。
そのせいで友人に裏切られて酷い目に遭ったことも一度や二度ではない。
それは暴力であったり
「こんなの、なんでもない。…もっと酷い目に遭ったことあるもん。男なんて、どいつもこいつもヤるだけが目的のバカばっか」
彼女は悪態をついた。
この世界に来る前、サヤカがつき合ってきたのは、いわゆる半グレだったりチャラ男だったりと、かなり問題のある男ばかりだった。仲間内で輪姦されたり、レイプまがいのこともされたが、彼らがくれるセックスとドラッグはサヤカを嫌なことから解き放ってくれた。
今となってはその忌まわしい過去が、彼女に勇気を与えていた。
彼女は、まだウォルフが助けに来てくれると信じていた。
だがサヤカにとっての長い長い夜は、始まったばかりだった。
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