第10話 奴隷8
その夜もいつものようにガイアの寝室に呼ばれた。
「スールの街に行ってきたんだってな」
ガイアは寝室のテーブルの前に座って、酒を呷りながら私に尋ねた。
私はガウンを羽織って彼の傍に立ち、コンパニオンみたいに酒瓶を持って、空になったグラスに酒を注いでいた。
「あ…、はい。すごく賑やかでした。あと、服をありがとうございました」
「ああ。出来上がりが楽しみだな」
「はい…」
「どうした?元気がないな」
「…今日、外の奴隷を初めて見たんです。あんな酷い扱いを受けてるって知らなくて…」
「ああ、奴隷市場に行ったんだったな。サンドラが子供の奴隷を一人買ったと言っていた」
彼は酒の入ったグラスを私に差し出した。
「おまえも飲め」
「飲めません」
「いいから飲め。酔えば嫌なことも忘れられるぞ」
「…お酒に頼って逃避するなんて、何の解決にもならないです」
「解決できないことは酔ってやり過ごすしかないだろ?ほら」
無理矢理グラスを押し付けられて、いやいやながらそれを両手で受け取って、口を付けた。
ウイスキーなのかブランデーなのか、お酒の味なんてわからないけど、美味しくはなかった。
「おえーっ、変な味…」
私が舌を出して顔をしかめたのを見て、彼は笑った。
「こんなに美味い酒を変な味だというのか。おまえは贅沢だな」
「だって…飲んだことないのに、お酒の味なんてわかりません」
「ハハ、正直な奴だ」
ガイアは笑いながら私の手からグラスを取り上げた。
「普通の女なら、俺の機嫌を取るために嘘でも美味いというものだがな」
「…機嫌、取った方がよかったんですか?」
「いや、正直に言ってくれた方がいい」
どっちなのよ、もう。
ホントに何考えてるかわからない。
「ショックだったのか?」
「えっ?」
「外の奴隷の姿を見たんだろう?」
「…はい」
そう言われて、私は今日街で見た奴隷たちのことを思い出した。
ガイアは不意に私の肩を抱き寄せ、顔を近づけた。
「俺に買われて良かっただろ?」
「はい…」
「俺がどれだけ優しいご主人様か、わかったか?ん?」
ガイアは私の返事も聞かず、唇に口づけた。
お酒の匂いにむせそうになる。
大人の男の人の匂いだ…。
「んっ…」
舌を絡めてきて、唇を何度も吸われる。
想像してたキスと随分違っていて、最初は戸惑ったけど、今はそれも慣れた。
さっき飲んだお酒のせいなのか、なんだか頭がボーっとして、とろけそうになる。
好きでもない人とキスしてるのに、どうして私、素直に受け入れてしまうんだろう…?
触られるのもくすぐったくて、ちょっとだけ気持ちいいって思ってしまう。
あんなに嫌だったのに。
慣れたっていうことなのかな…。
「明日から国境の前線へ物資の納入に行ってくるから、しばらく留守にする」
「…前線って、戦場に行くんですか?」
「ああそうだ」
「危なくないんですか?」
「俺が心配か?」
「そりゃそうですよ…」
「ハハッ、そうだな。俺がいなくなったらおまえも行き場を失うからな」
「そんなんじゃ…!」
本当に心配しているのに…。
私が自分の立場を守るためだけにそんなこと言ってるって思われるのはなんだか心外だ。
「しばらくの間、会えないからな。不在の間の分、まとめて抱いていってやる。朝まで付き合ってもらうぞ」
「ええっ?!明日出かけるのに…?早く寝た方がいいんじゃ?」
「馬車の中で寝るからいいんだ」
ベッドに降ろされ、愛撫を受けながら、彼のキスに応える。
ふいに私の脳裏には奴隷商人の店で見たあの少女の姿が浮かんだ。
私もあんなふうに品定めされて売られたんだろうか。
きっとあの少女はあそこで男たちに襲われたんだろう。
だけどどうして私は無事だったんだろう。ガイアに抱かれるまでは、間違いなく処女だったんだから。
サンドラも処女のまま奴隷に売られるのは珍しいって言ってたから、きっと何か理由があったんだろう。
やっぱり、魅力がなかったから…?
私はガイアの首に、ぎゅっと強く掴まった。
白金の前髪が私の額をくすぐる。
「どうした?」
「…キスして」
何言ってるの、私…。
「おまえからねだるとは珍しいな。…いいとも」
ガイアは私の唇をついばむように小さく、たくさん口づけを与えてくれた。
それが気持ちよくて、私も夢中でそれに応えた。
「可愛いな」
低音で囁く声が耳に心地よくてゾクゾクする。
最初こそ強姦みたいに奪われたけど、この人は私を人として扱ってくれる。
…気持ち良くしてくれる。
「良い匂いだ…。きっとこれが俺に力を与えてくれるんだな」
「え…?力って…?」
「おまえを気持ちよくさせると、俺も元気になるってことさ」
ガイアは私の体中にキスをしながら囁いた。
どうしてなのか、この男に抱かれることを望んでいる自分がいる。
望んでいたものを与えられた時、エリンの火傷のことも奴隷のことも、不安なことのすべてを忘れられた。
私のすべてを支配するのは、ガイアが与える快楽だけだった。
「いい子で待ってるんだぞ。そうしたらまた可愛がってやる」
彼は私の耳元で囁いた。
自分が奴隷だということも忘れて、その言葉に少しだけときめいた。
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