のっとり賢者?

北の山さん

第1話、逃がさん‼

「壮大な宮殿」それを見た誰しもが そう称えるであろう巨大な屋敷。


一人の若い男がとある魔法を使うべく膨大な魔力を練り上げていた。


部屋の中央に立つ彼の周りには幾重にも重なった複雑な魔法陣が光り輝いている。



「クソがぁぁ、僕ちんが何したってんだ」



彼には自覚が無かったが、この男とんでもない犯罪者なのである。


稀有な魔法の才能に恵まれた彼はその力に慢心し今まで好き放題の事をやらかした。


自分の豪邸?を作るため各国の国庫から財宝を盗み出した。


それだけでも大罪人決定だが 勿論これで終りではない。


世界中から気に入った少女を誘拐しては性的に食い散らかし、飽きたら家に返すのが面倒になって魔獣がうろつく近くの森に放り出した。勿論ほとんどの女性は帰らぬ人と成る。


その中には各国の王女や新婚の貴族の奥方もいる。


そりゃあ怒るというものだ。


世界中の国々が血眼になって犯人を捜し、やがて彼を追い詰めていった。


しかし、彼は自称賢者を名乗るほど強大な魔導士であり 討伐部隊はことごとく返り討ちに有う。


その中には王子や貴族の子弟もいたが見せしめとして人々の前で生きたまま焼かれていった。


もはや地位も名誉も種族も関係無く 被害を受けた国々が協力して この悪魔を打倒さんと団結し、多くの賢者、魔術師が集うこととなる。


やがて作り出されたのが相手の魔法を打ち消すための魔法だった。


自称 賢者の唯一の強大な武力である魔法。それを無力化する事に成功した。


しかも その対魔法消滅効果を騎士や兵士の装備に付与する技術まで確立したから形勢は一気に覆る。


魔導士は戦いに負け続け、何とか逃げ延び最後の隠れ家まで追い詰められた。



「ふんっ、向こうにも優秀な魔導士が居るようだが、僕ちんを捕まえられるかよ。バーカバーカ」


幼児のケンカのような言葉を残すと彼は複雑な魔法を完成させた。


魔法陣がフラッシュの光のように輝いたあと彼は膝から崩れ落ち、死んだように倒れ伏した。




***************************少しして





ある日の事、ひどい不快感を感じて目を覚ました。


目に映るそこは知らない部屋だった。


海外のお城のような部屋と言えば理解しやすいかな・・


とにかく思いつく限りの豪華さだ。


そして 他にも驚く異変が有った。


なんと、立ち上がった自分の足元がよく見える。


「当たり前だろ」って?。


いやいや、極度の肥満体になるとお腹が出すぎて足元が見えなくなるのさ。


自慢してどうする?良いんだよ。


ニートのプライドなんて他人から見たらゴミだからな


ちなみに大相撲の力士は太りすぎて自分のケつが拭けないという話もある。


それに比べたらオレは拭けたからな、まだまだ序の口だ。




姿見が有ったので少しだけ期待しながら近寄っていく。


なんと、知らない人だ。 


「ちっ、別人か・・・」


自分のままで痩せた姿を期待していたのでガッカリだ。


高校生くらいの年齢だろうか、少女漫画に出てくるようなクールなイケメンが鏡に映し出されていた。


こんなの俺じゃねーーよ。


妹あたりが見たらキャーキャー言いそうだ。むかつく


黒髪をオールバックに決め上等な肌触りの黒の上下服。


それに重厚なマントを背負っていた。さながら吸血鬼のコスプレである。



部屋の真ん中には分かりやすく小さなテーブルがあり、必ず目につくように手紙が置かれていた。


なぜか手紙だと確信しているが 見た目はまるで大学のレポートのようにページ数がある。


当然 読んでみる。情報が欲しいからね。


変な文字だが不思議に読める。


読む・・・・・・・・・


読む・・・・・・


読む・・・・・



「ふぁっ!、マジかぁ」


思わず声が出た。


手紙の内容が本当なら今のオレは「魂を交換された」らしい。


魂を入れ替える・・だと、そんな冗談のような話を信じたくないが・・


今の現状はそれを事実だと思い知らせている。


無駄な内容が多い手紙を要約するとこうだ。


この体の本来の持ち主は「賢者で大天才魔導士」だったらしい。


自分で大天才とか書いておくほどイタイ奴なのは分った。


若くして多彩な魔術を極めた彼はやりたい放題した。


世界中の姫君に手を付け、国庫から財宝を持ち出して豪遊し、気に入らない貴族の領地を草も生えない焦土に変えた。まるで どこかの不良勇者みたいだ。


当然、知れ渡るすべての国々から指名手配され、膨大な懸賞金のかかった賞金首になっていた。


いや・・賢者って賢くて尊敬される人の事だろ。ここでも嘘ついてるし。


最初は討伐隊が来ようが賞金稼ぎが来ようが全て返り討ちにしていた、と自慢話が長々と書かれていた。ウザイ


そんな男もついには負けたのだろう。


追い詰められる過程は屈辱なのかほとんど書かれていない。


結界が張られ空を飛んで逃げる事も出来なくなった賢者は籠城戦に切り替えた。


四方から押し寄せる各国の大群は魔法無効で魔法攻撃では排除できない。


苦肉の策として膨大な数のトラップを周辺の土地や屋敷に設置し 何とか時間を稼いでいたそうな。


追い詰められたくせに文面ではゲームを楽しんでいるように書かれている。


変なところにプライドが高い。


長い負け惜しみの後にこうある・・


「魔法の可能性を模索せんがため超高度な魔法、魂の交換を行う」らしい。


「命が惜しいから逃げる」と素直に書けば良いのに。




そして手紙の最後に


【この手紙を読んでいるだろう どこぞのマヌケには感謝してやるぜ。


僕ちんの代わりに死んでくれ。


装備やアイテム、宝石なんかのお宝もアイテムボックスの中にあるから全部くれてやる。生き残れたら使えるかもな。生き残れたらな・・ははは、まぁ冥福を祈るよ。


こっちも入れ替わった体で好きにやるからよ。


追伸、最後に僕ちんの使える最強の魔法をリストにして書き残しておいた。


魔力やスキルは体に残るからな、短い時間だろうが最強の人生を楽しめるぜ。


有難く思いたまえよ。】


いや いや、その最強の魔法でもどうしようもないから逃げたんだろが。


手紙は読み終わると霧のように溶けて消えていった。


昔のスパイアイテムかよ。


賢者を名乗るくらい頭良いなら少しは頭使えや。


文章だけ見ても低俗なヤンキーなみの思考しかしてないぞ。


山ほど苦情は言いたいが、この内容が本当ならかなりヤバイ状況だ。



ドドーーンッッッ、ガラガラ


外も騒がしくなってきた・・窓から外を覗くとすでに周りは凄い数の兵士で囲まれている。


素人のオレですら感じられる強い殺気で身震いがする。


どんだけ恨まれてるんだよ、自称賢者。


とりあえず必死に魔法の確認をしていく。


いくらニートなオレでもこんな事で死にたくない。


あんな文章しか書けないバカだし、どこかに盲点が在りそうだ。


書かれていた魔法と 記憶に残されている魔法とを照合し確認していく。


ニートでオンラインゲーマーの俺にとって、こんなの苦にもならない。


あった、リストに書かれてない魔法が頭の中に有る。


いや、これって・・



躊躇している時間も無い。


全力で魔法を起動してみた。






*******************わーぷ





「きゃあ、止めて お兄ちゃん」


「はははっ、良いじゃねぇか。

こっち来て最初に女が用意されてるたぁ気が利いてるぜ」


「オレの体で何をしてんじゃぁぁ」


ドガカッ☆


オレが賢者の体で自分の部屋に帰ると、目の前でデブだった以前のオレが妹を襲っていた。


荒事が嫌いなオレでもさすがに手が出るというものだ。


いや蹴り飛ばしたから足が出るかな・・まぁいいや。


下着姿の妹が今のオレを見て目を丸くしている。


良かった、最悪の事態は回避できたようだ。


ごめんよ、今のお兄ちゃんは他人なんだ。



「がはっ、なにが・・はぁぁぁっ?、僕ちんがいるだと」


「さすがに驚くか、自称 賢者のカス野郎」


オレの姿をした自称 賢者も目を丸くしていた。


その姿で「僕ちん」言うな、気持ち悪さと恥ずかしさで死にたくなる。


「なっ、何で あの状況から脱出できた?。僕ちんでも不可能だったのに」


「オレはテメェより優秀なんだよ、僕ちん言うな気持ち悪い」


転生ボーナス?転移ボーナス?


どちらかは知らないが、僕ちん野郎が残した魔法とは別にスキルとして転移能力が備わっていた。


行った場所なら転移できる能力だ。


ラノベあるある、な話だが 神様がこの能力をくれたのなら幾千万の感謝を捧げるぜ。


ただし、それが使えると分かったのは「自分の能力を鑑定できるスキル」が有ればこそ。


自称 賢者が残したスキルだ。


さらに膨大な魔力が無くては使えない転移なのだが使えた。


それも この体に備わった膨大な魔力のおかげなのだから皮肉な話だ。


元俺の体の僕ちん野郎にも何かボーナスが付いてるかも知れない。


だが、あの体は何の能力も無いモブの極みだからな。


有っても使えないだろう。


元の自分の体がつくづく情けなくて泣ける。


いや、こうなると自堕落して体を鍛えて無かったのは正解だったのかも・・



まあいいか・・


それはともかく、太った元の体の首根っこを捕まえて再び転移する。


「はぁぁっ何を・・。なっ、ここは僕ちんの城?。何でだー」


「そりゃあ異世界に転移したからだ。賢者なのに出来なかったのか?ん。


まぁ何だ。自分でやらかした事の責任は自分で取ってもらうぞ。


じゃあな、自称賢者で大天才魔導士様、幸運を祈るぜ。ははは」


真犯人を置き去りにして自分の部屋に帰還した。


最後に奴が何か言っていたようだが知らん。


どうせ「体を返せ」、とかだろ。



オレの方こそ元の自分に戻りたかった。


たとえ無能な体でも自分だから。


でも諦めた・・


「もう一度入れ替わるのは不可能だ」と頭の中の知識が教えていたからだ。


これからはこの姿で生きていく他は無いだろう。



帰ってから目をキラキラさせた妹に説明するのが大変だった。


彼女のピンチを救ったイケメンのヒーローだし、兄とは認めたくないのだ。


他人が知らない妹の黒歴史を暴露して渋々兄と納得してくれた。泣ける



さて、この体は日本でも魔法が使えた。


すさまじいチート能力だ。


魔法が使えるのは秘匿する。


当然だね、大国でも一瞬で更地に出来るほど凶悪な威力なのだ。


しかも放射能が無いから核爆弾より使いやすい危険な力だ。



だが、人は大きすぎる力を使ってはいけない。



その成れの果てが アレだから・・



ふぃん

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