65 分断
「直に見てないから知らないけど」
白に黒の縞模様が入った、短めのハネ髪。歳は十二歳くらいに見えるのが口を開く。
「まあ、そうじゃないとこうはならないよなぁ」
にやりと笑うそこから、てつほどじゃないけど犬歯というには鋭すぎる『牙』が見えた。
上は袖の無い白銀の着物、下は足首辺りで絞った袴。腕にも、金属製に見える平たい腕輪を幾つか。
「本当……」
今度は、十歳くらいの赤い振り袖を着た子が、顔をしかめながら口を開いた。
「前の奴と言い、これと言い。人間って凄い迷惑で馬鹿な事ばっかりしてくれるわ」
煌びやかなその着物は、袖だけじゃなく裾も長く、床について広がっている。
同じく床に届きそうな髪は燃えるような紅で、緩いウェーブが余計に炎を思わせる。
「それが巡り巡ってコレだ。楽しいなあ?」
その白と赤の間に二人。
片方は赤と同じくらいの背丈で、教科書で見た狩衣みたいな形の、艶のある蒼の着物を着て。
同系の、少し翠が混じった髪を肩口で結んで、前に垂らしてる。
「……」
表情が全く動かないし、気も読み難い。
そして、最後。一番背が低い、小学校にも上がってないくらいの年齢に見える子。
艶のあるその黒髪はおかっぱで。
黒に金銀の模様がついた、なんだろう、中華風の着物? を着てる。多分男物の。
「……っ」
眺めてたら睨んできた。気分は良くないよね。
でもそっちも、凄みながらじろじろ見てるよね。
別に、悠長に観察してる訳でもない。目が逸らせないから見ていた、と言った方が正しい。
今、視線を彼らから外す。それは死を意味すると、直感的に理解した。
殺気とは違う。だけど、『逃がさない』と気が物語っている。
加えて、威圧感や畏怖の念。得体が知れないなりに上位の、平伏し、その
それをなんとか堪え、四人を睨み返す。
「……へぇ。やっぱり変わってるな」
興味深そうに、白いのがまた笑みを作る。
結局ここはどこなんだ。てつ達はあの山に居て、私だけここにいるんだろうか。
「前の奴も、頭は下げなかったな」
だとしたら、てつとあの人の偽物が一緒にいるままかも知れない。それはマズい。
「やたらにこにこしてたけどね。アホみたいに」
なんとか、距離くらいとれないか。今、ほんの数ミリ動くにも気を使う。
「……お前」
高く澄んだ声が響いた。一番幼く見える容姿に違わず、それはどこかあどけない。
「っ……」
けれど、この黒。
「自分以外の、心配をしている?」
四人の中で一番、圧がある。
この子がリーダー? 最強って事?
「聞いている? お前、人間」
ゆったりと、豪奢な裾をさばきながら近寄ってくる。
「……まあ、仕事中だったので」
出入り口らしき扉は、斜め右奥。どうすれば、意味不明に竦む身体を動かせるか。
「ここ、どこですか?」
「余裕だな。あ、違うか。隙を探してんのか」
白が扉に目を向け、肩を上下させる。
「うん、頑張れ」
うざいな、君。
「その気力、そのまま保たせろ。生きたいと願え」
気付けば黒が、すぐ目の前まで。
いけない、緊張して視界が狭まってた。
「それが『材』の質を上げる。際の際まで、苦しみに耐え抜け」
不穏な事を言うこの子達から、少しでも離れてどうにか──
「あの目にも耳にも煩い狼が、ここにやって来るまで」
恐ろしいほど美しい笑みとその言葉に、私は息を呑んだ。
「さて、ここがどこだか」
板と畳が混じり合うように敷かれた床を踏みしめ、
「どなたか教えていただけませんか?」
遠野を囲むのは人ではない。鬼、巨大な生首、鶴、目玉、デカい鼠に爬虫類らしき者まで。
刀や槍やらを構えた彼らは、友好的とは程遠い気配でこちらを見据えてくる。
「……残念」
どうにも互いに牽制する雰囲気を見せている彼らに、遠野は大仰に肩を竦ませた。
「言葉は通じている気が」
そして捉えられる範囲の意識を手繰り寄せ、
「するんですが」
一気に引き抜く。
糸が切れたようにバタバタと倒れていく者達を眺め、遠野は軽く息を吐いた。
「異界ではあるんでしょうが」
さてそのどこか、と呟き、近くに倒れた人型三つ目の手から刀を取る。そして振り向きざまに振った。
カシンッ
軽い音が響き、二つに折れた矢が足下に落ちる。
「……」
壁を背に、刀を構える。
先ほどより少ないものの、奥からまた異界の者が集まってきた。
ここはどこだ?
いや、知っている。覚えがある。
覚え?
「…………」
ああ、周りがうるせぇ。ごちゃごちゃと。また山に、……違う。
あれは何だ?
お前は、
違う。知らない、
「やめろ!!」
……あぁ、静かになった。
帰らなければ。
……帰る? どこに?
俺の……俺? 俺、は、
「……?」
また、煩くなってきやがった。懲りねぇなぁ……なあ?
「……──……?」
いない。居ない、どこ行きやがった。
また適当にほっつき歩いて──
違う。
「……」
あぁ、居た。 違う、
やっと ちがう
見つけた
違う!
「あぁあああぁぁああ゛!!!」
……消えた…………
………………どこ行った?
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