第2話 キャラクターネーム

「それでは、我々はフェイズが終了いたしましたので、御前を失礼させて頂いてよろしいでしょうか、防人様?」


 あれだけ爆発していたホムラの髪をすっかり綺麗に直したカゲロウマルがこちらに向かって告げる。

 さっと他の三人の小姓たちも、カゲロウマルの後ろに整列する。ついさっきまで寝ていたヤマクズシもいつの間にかしれっとそこに並んでいた。


 ──あれ、いつの間に……。まあいいや。フェイズというと──あれか。ユウサキで言うところの戦闘フェイズが終了したってことだな。確かにユウサキなら戦闘が終わったら小姓達の出番は終わるしなー


「ええと、ありがとう。カゲロウマル。あと、帰っちゃう前に。できれば、俺の呼び名、防人様と呼ぶのはやめて欲しいかも……」


 俺のお願いに、礼をしながら返事をするカゲロウマル。他の小姓たちも、おのおの挨拶をしてくれる。


「かしこまりました、コペコペ様。では、失礼致します」

「んー」

「コペコペさまー。ばいばいー」

「スースー」


 並んでいる間に再び寝てしまったヤマクズシの寝息は断じて挨拶とは言えないと思うが、俺はそれどころではなかった。


 ──そうだった、俺のユウサキのキャラネーム、コペコペだった。すっかり忘れていた。始めた当初は、こんなにもはまると思わなくて適当につけたまま、変更出来ないゲーム設定だったんだよ……思い出した……


 俺が衝撃のあまり崩れ落ちるのと同時に、手にしたままのガラケーが光る。

 カゲロウマル達の姿が光となってガラケーに吸い込まれていく。


 カゲロウマルたちが消えたあとのガラケーを操作してみる。

 ユウサキが俺のスキルとなった今なら、もしかしたらキャラネームを変更できるのではないかという、一縷の望みを託して。


「やっぱり、無理だよね。うん。わかってた……。今後もカゲロウマル達からしたら俺ってコペコペなのか。はぁ」


 ため息をついたまま何となくガラケーをいじり続ける。そしてすぐさま、俺は異変に気がつく。


「ちょっとまって、え、これってもしかして機能のほとんどがロックされている!?」


 俺はユウサキのホーム画面に戻る。

 メニュー画面に並ぶ項目。その項目のほとんどがグレーアウトしていて、選択することが出来なかったのだ。

 数少ない選択するすることができる項目はわずか二つだけ。


 一つはさきほどまで一緒にいたカゲロウマル達の『小姓』。

 そしてもう一つは『修行』だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る