タワーディフェンス系ソシャゲのキャラにボッチ転生~いくら廃課金ランカーだったとはいえ、このゲームは協力プレイ必須なんですっ!
御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売
第1話 ゲームの敵モンスターと遭遇
「最近、見たこともないモンスターが出るそうよ。森では気をつけてね、リーダス」
心配そうな母に適当に返事を返して、僕は家を出る。心配する母の気持ちもわからなくはない。
誰もが十三歳でスキルを神様から授かる。誕生日を迎えると、普通は頭のなかにスキルが浮かび上がってくるのだ。しかし、十四歳も間近な僕はなぜか、いまだに何のスキルも得られていないのだ。
そのせいで、村のいじめっこ集団であるグスタブと取り巻き達から、すっかり目をつけられてしまった。
『能なしリーダス』なんて悪口は、かわいいもの。村で見つかると、よってたかって小突きまわされるのも、日常茶飯事だった。
そして、他の大人たちからのそんな僕への視線も、冷たい。
両親だけは変わらずに接してくれていた。いや、どちらかと言えば前よりも過保護になったかもしれない。
そういう経緯もあって、こうやって母から心配される度に、もやもやとしたものが、どうしても心のなかに溜まっていくのだ。
そのもやもやを振りきるように、森を進む。今日の予定はいつもと同じ、薪拾いと箱罠の確認。
これから訪れる冬への準備として、薪はいくらあっても困らない。
そして楽しみなのが、箱罠だ。泊まりで狩に出ている父から、確認を頼まれているのだ。
当然、仕掛けられているのは、僕でも対処のできる小型の獣用の罠。
──それでも、ウサギネズミぐらいはかかっている可能性がある。もしウサギネズミ一匹でも確保できたら、今日の夕食はご馳走だ。
森を進みながら、ウサギネズミの日持ちしない肝の部分を使った母の料理の数々が、僕の頭をよぎる。
しかし残念なことに、そんな食欲まみれで確認したせいなのか、箱罠はことごとく空だった。
落ちた気分を奮い立たせ、せめて薪だけでもと僕は拾い集めていく。ある程度薪が集まったところで、最後の箱罠へと向かった。
「──あーあ。今日も全部、空っぽか。だいたいこんな獣すら少ない森に、モンスターなんて出るはずないのに。母さんは心配しすぎだ。そもそも、その見たことのないモンスターの話だって、旅商人からの噂だし」
僕は最後の空の箱罠を確認しながら、思わずグチっぽく呟いてしまう。
その時だった。背後で枯れ枝を踏み折る、パキッという音が響く。
僕はたまたま手にした薪を構えるようにして振り向く。
──グスタブの取り巻きたちのうちの一人か?!
しかしそこにいたのは、人ではなかった。
やけに丸々とした、僕のお腹ぐらいまでの大きさの体。そして特徴的なことに、その体は短い針におおわれていた。
「クマ? いや、モンスター?」
本能的に一歩下がる。
──どうしよう。もしかしてこれが、噂になっている見たこともないモンスターなのか?
僕が、そのままもう一歩下がったときだった。モンスターの口らしき部分が開く。辺りに響く、甲高い鳴き声。
それは、明らかに威嚇の声だ。ブワッとその体が膨らむ。まるでハリを飛ばしてきそうな──
僕は思わず逃げ出そうとして、急に頭に痛みが走る。あまりの痛みに、足がもつれる。
──ぐぅっ! 不味い、ハリコグマのトゲが飛んでくるのにっ!
痛む頭に浮かんだ、本来であれば僕が知らないはずの知識。
とっさにその知識のままに、僕はその場でしゃがむと、手で頭をガードする。
さっきまで僕が立っていた場所を通りすぎるように、何本もの短いハリが通過していく。
──ハリコグマの針飛ばし攻撃だ。つぅっ!
その針のほとんどを避けることに成功するも、一本だけ腕に刺さってしまう。
激痛。
その時だった。ハリコグマを見たこと切っ掛けとして起きていた僕のなかでの不思議な変化が、その痛みで加速する。
よみがえったのは、前世の記憶だった。
「え、俺、転生した、のか」
リーダスとして生きた僕の記憶とは全く異なる記憶。機械文明が発達し情報化された世界を生きた俺の記憶が、急激に混じり始める。
「あのハリコグマは、俺がやっていたソシャゲの敵……。え、でもあれってタワーディフェンスだったよな」
前世でもかなり昔にやりこんだ、ソーシャルゲームのタワーディフェンスゲーム──悠久の防人たち。
通称ユウサキ。
それは俺がガラケー時代に初めて廃課金し、ランカーにまでなったソシャゲだった。
「え、これっていわゆるゲーム世界転生? いやでも記憶にあるかぎり、この世界ってユウサキと全然違うぞ。ハリコグマだってこの世界じゃ誰も見たことないって……」
その時だった。クールタイムの終わったハリコグマが、再びその体を膨らませる。
焦る俺の頭のなかに、ふとフレーズが浮かぶ。それはまるで話にきく神から授かるというスキルのようだった。
「ガラケー召喚?」
頭に浮かんだフレーズを呟く。すると、いつの間にか右手に、見たことのあるガラケーを握りしめていた。
そこには、日本語でこう書かれていた。
◆◇────────◇◆
お友達を連れていきますか。
はい
いいえ
────────────
「──これは、NPCの小姓システムか!」
ユウサキは、ソシャゲのタワーディフェンスゲームの中でも、特に協力プレイが必須のゲームだった。自分と、『お友達』──いわゆる、フレンドとなったプレーヤー達のキャラで、迫り来る敵を撃退する、というゲームなのだ。
ゲームの時は最大四人までお友達を連れて戦闘に参加出来た。
そしてお友達が誰もいなかったり、いてもログインタイミングが合わなかった時に、数あわせで戦闘に参加するNPCが『小姓』だ。小姓も育成ができ、俺も当然ゲーム内ではカンストまで小姓を育成していた。
──当時はなぜ防人の時代に小姓がいるんだと、さんざんネタにされていたな……いや、それよりも今は! もしこれで小姓たちが戦ってくれるなら何とかなるかもしれないっ!
俺は痛む腕をかばいながら急いでガラケーを操作すると、「いいえ」を選択する。
「これで四人のNPCが──うわっ」
ガラケーの画面が激しく輝く。
次の瞬間、そこには四人のNPCが立っていた。
どれも見覚えのある装備。しかし問題はその装備をまとっている人たちだった。
ユウサキの画面では、解像度の問題もあって顔も性別も判然としていなかった。しかし今、目の前に現れたのは、なんと全員が女性だった。
そこへ放たれたハリコグマの針。
NPCのうちの一人、「剣術使い」が俺の前に立つ。
すらりと腰の日本刀を抜き放たれる。
そして、目にもとまらぬ速さで縦横無尽に振るわれる斬撃。ポニーテール風にまとめられた長くて艶やかな黒髪が、その体の動きにあわせて、宙を踊る。
飛んできたハリコグマの針すべてが、その剣によって正確に切り落とされていく。
ぱちんと納刀すると、振り返り様に話しかけてくる。
「剣術使い
一礼すると凛とした表情でこちらを見つめてくるカゲロウマル。
そのカゲロウマルと俺の間へ、別のNPCが小走りに近づいてくる。装備から見て「法術師」だ。
「防人様ー。おけがー、してるー。
すらりと背の高くて、理知的な見た目。狩衣のような服をお洒落に着崩していて、そのスタイルの良さと合わせて、かなり格好いい。なのに、その言葉だけがなぜか舌足らずだ。
「『癒しの手』」
ヤクドウが俺の腕に手をかざす。ぼわっと光輝くと、腕の傷が急速に治っていく。盛り上がる肉が刺さったままの針を押し出す。その針がポトリと地面に落ちる頃には腕の傷はすっかり消えていた。
俺は確認のため袖をまくってみる。
すると、『癒しの手』の効果が、それだけではなかったことに気づく。
いじめっこのグスタブたちにつけられた、治りかけの色とりどりに変色したアザ。
それらも、すっかり消えていたのだ。
「んー?」
俺が法術師ヤクドウのかけてくれた癒しに驚いているところに、別の『小姓』が話しかけてくる。
巫女服をまとった栗色のロングヘアの女性。
服装から推察するに、「言霊使い」だ。
最初の、んーのあとは、なぜか無言の言霊使い。
するすると言霊使いの横へ移動したカゲロウマルが、背伸びをして言霊使いの女性の頭にぽんと手をおく。そのまま、こちらを向いてカゲロウマルが話しかけてくる。
「焔羅《ホムラ》はあのハリコグマを倒してしまって良いかと尋ねております。防人様」
どうやら「言霊使い」の女性の名前はホムラらしい。そしてなぜかカゲロウマルが代弁するようだ
──この子はホムラ、か。みんな、名前があるんだね……。ゲームの時は、それぞれジョブしか表示されていなかったんだけど。
「あ、ああ。えっとホムラさん。お願いします」
俺の言葉に、ようやくじっと見つめていた視線をそらすと、ホムラがハリコグマの方を向く。
巫女服で仁王立ちになると、ハリコグマをじっと見つめたまま両手を組み、印を作るホムラ。
「爆っ」
鋭く唱えられた、呪。
次の瞬間だった。ハリコグマが爆散する。
轟く爆音。
爆風が、俺の前髪を揺らす。
「す、すごい威力……」
思わず感嘆する。俺の声に、くるりとこちらを向くホムラ。無言のままだが、その表情はどこか自慢げだ。
ただ、残念なことにその美しく長い栗色の髪が、すっかり逆立っていた。しかもボサボサだ。
カゲロウマルが再び背伸びをすると、そのホムラのボンバーヘアを真剣な表情で直し始める。
「んっ」
短くカゲロウマルへ告げるホムラ。
「うむ。よいのだ。我ら小姓同士、助け合わなければな」
俺がなんとも言えない目で二人を見ていると、ヤクドウが話しかけてくる。
「あのふたりー。仲良しー」
「そうなんだね。あ、えっと、ヤクドウさん? さっきは傷を治してくれてありがとう。体自体も軽くなって、すごい楽になったよ」
見上げながらお礼を伝える。
「防人さまのー。お役にたててー。ちょうじょうー」
「そういえば、小姓の最後の一人は……?」
「
ヤクドウの指差した先にいたのは、俺よりも小柄な少女。その華奢な体に毛皮主体の服をまとい、特大サイズのマサカリを両手に持っている。
装備からみて、「山賊」だ。
──「剣術使い」に「法術師」と「言霊使い」、そして「山賊」。確かにどれも俺がユウサキでカンストまで育成した「小姓」だ。それは間違いないんだけど……。ゲームの時は、もっとこう無個性な感じだったんだが……。
俺の視線の先。
そこではヤクドウの言うとおり、ヤマクズシと呼ばれた少女が、スースーと可愛らしい寝息をかなで、立ったまま器用に寝ていた。
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