第62話 幸せの形


萌はおじさんとまた一緒に暮らして、大学に通って無事に卒業した。

そして頑張って勉強した結果、司法書士になっていた。


「 朝倉先生、忘れ物ですよ。 」


事務の女性が萌の鞄を持ってきた。


「 ごめんね、忙しいと忘れちゃう。

ありがとうね。 」


萌は急いで何処かへ走って行く。


「 本当仕事も出来て家族が居て羨ましい。 」


仕事場でも尊敬されて皆に愛されていた。

ちなみに名字を聞いて気になるのは、朝倉に変わっている事。

なんだかんだで朝倉と萌は結婚していた。

何処かの誰かさんが認めるのに、かなりの時間が掛かったのは内緒の話。


「 遅くなってごめんね。 」


「 遅いよママぁ。 」


幼稚園に着いて出迎えてくれたのは、小さな可愛い女の子。

髪が長くてお母さんそっくり。

そう萌の娘の朝倉麻里あさくらまり

お母さんのやる事は直ぐに真似する。

髪型から料理も洗濯も何でも真似する女の子。


「 ごめん、ごめん。

帰りに何か買って帰ろうね。 」


二人は手を繋いで歩いて帰る。

途中で遅れたお詫びにソフトクリームを買い、椅子に座って食べていた。


「 ママぁ、新しいお洋服欲しいなぁ。 」


「 そうだなぁ…… 一緒に買いに行こうか。 」


すると麻里は大きく首を振った。


「 幸おばちゃんと行く! 」


幸さんとは本当の親子のような関係で、今でも頻繁に会っている。

麻里が可愛くて沢山甘やかしている。


「 幸おばちゃんにまた甘えるつもりね?

絶対にワガママ言っちゃダメよ。 」


「 ペロペロ、ふぉい。 」


嘘を着くとき顔を反らすのは父親譲り。

朝倉は建築関係の仕事につき、働きながら資格を得る為に学校にも行き、今では立派な建築士になっていた。

かなり無愛想で個人事務所を設立し、たまに来る仕事を一生懸命こなしていた。


「 パパぁーー 、ただいま。 」


「 おっ、お帰り。

幼稚園は楽しかったか? 」


貫禄をつけようと髭を生やしているが、娘には合わない! と言われてしまっている。


「 あなたお疲れさま。

仕事は後どれくらいで終わる? 」


「 お腹空いたし仕事はまた明日にしよう。

皆で帰ろうか。 」


適当なのは相変わらず。

家族が大好きで仕事はおまけのような感覚。

良いのか悪いのか…… 。


三人は麻里を真ん中にして手を繋いで帰って行く。


「 今日のご飯はどうしようか? 」


「 お義父さんが釣りに行くって言ってて、夜は俺に任せろって言ってたぞ? 」


朝倉の口からお義父さんと聞くとおかしな感じだが、おじさんの事だった。

立派なお義父さんであり、麻里のおじいちゃん。


「 じいじの釣りはお魚釣れない。 」


麻里にまでおじさんの釣りはバカにされていた。

二人は笑ってしまう。


「 どうせ釣れなくても魚屋で買って来るんだろうから、夜は一応魚料理かな。 」


その頃おじさんはくしゃみをしていた。


「 へっくしゅん!! 風邪引いたかな。

朝からやってるけど全然釣れん。

近くの魚屋で代わりの魚でも買って誤魔化そう。 」


相変わらずプライドが高い。

萌には手に取るように行動がバレていた。

釣竿を持って帰って行く。


魚屋で鮎を沢山買った。

美味しそうなサンマも買い大満足。

色んな種類の魚を買えば釣った気分に。


「 カキも良いな。

それとこのマグロ旨そうだ。

今日は豪勢にしようっと。 」


何故簡単にバレるかと言うと、川の魚や海の魚などを同時に釣れる訳がない。

食べたい気持ちが先行するせいである。


「 洋介さんこんばんわ。

今日はお魚買いに来たんですか? 」


それは大人になった彩芽の姿だった。

格好も大人っぽくなり、今は主婦として楽しく生活している。

ちなみに結婚相手は弁護士。

萌に紹介してもらった男性。


「 ま…… まあな。

ここであったのは萌には内緒な? 」


必死に隠そうとしていた。

彩芽は相変わらずだと思いクスクスと笑う。


「 はいはい、今度バーベキューやりましょうよ。

主人が新しいバーベキューコンロ買ったんです。

凄い火力と最高の焼き加減の肉が食べれますよ。 」


軽くよだれが垂れそうになりすする。


「 そうだな…… お前の旦那さぁ…… 。

絶対俺の悪口言ってるだろ?

あんな真面目で愚痴の一つも言わないのは、絶対裏で悪口言ってるに違いない。 」


「 ないない、気にしすぎですって。

私の旦那様は誰にでも優しいんです。 」


さりげなく惚気を聞かされて、少しイラついてしまった。


「 今度会ったら化けの皮剥いでやる。

そう伝えとけよな!! 」


そう言って帰って行った。

彩芽はいつもと変わらないおじさんを見て笑ってしまう。


「 本当に洋介さんは変わらない…… って、ヤバいヤバい…… 旦那様が帰って来ちゃう。

早く帰らなきゃ。 」


まだ新婚の為、毎日が幸せいっぱいなのだった。


吉良はどうなっているのか?

吉良は親と大喧嘩をして勘当されて、一人何処かへ旅立ってしまった。

萌の所にはたまにメールが来るが、一体何処で何をしているのか分からない…… 。


ある景色の良い山脈。

あまりの山の高さで雲が近くに感じるほど。


「 静かだなぁ…… 。 」


山の上の草花が咲いている上で一人の男が寝ていた。


「 ヘイ! ミスター清十郎!!

チーズ作るから手伝ってくれ。 」


白髪のおじさんが呼ぶのは、少し大人っぽくなった吉良だった。


「 OK…… 今行きますよ。 」


親の選んだ道以外を歩んで行きたい。

そう思い大喧嘩をして家を飛び出した。

そこは日本から遠く離れたアルプス山脈だった。

何故かその表情は前よりも明るく、いきいきとしているようにも見えた。


ただ一つだけ捨てられなかった物もあった。

それは…… 許嫁の彼女だった。

家を飛び出し海外に行く前に別れを告げに行った。

すると彼女は笑って言った。


「 やっと本心で話してくれましたわ。

沢山悩み旅して来て下さい。

私はここでずっと待ってますから。 」


いつ戻るか分からない吉良を待ち続けていた。

その純粋な彼女に戻らないとは言えなかった。

吉良が戻るのはもう少し後のお話…… 。


工藤はどうしているのか?

出世は出来なかったが悔いはなかった。

その代わりに幸さんとの時間を大切にした。

あの一件で本当に大切な物に気づけた。

工藤さんは前よりも笑うのが増えていた。


夜になりおじさんが帰って来る。


「 ただいまぁ。 」


「 お帰りなさーーいっ!! 」


おじさんが帰って来て走って抱きつく麻里。

おじさんは軽く持ち上げて抱っこする。


「 じいじ今日お魚釣れた?? 」


「 おう、じゃんじゃん釣れたぞ。 」


おじさんが麻里と話していると、笑いながら奥から二人が来る。


「 お帰りなさいお義父さん。 」


朝倉が出迎えるとおじさんは。


「 お義父さんって響き相変わらず慣れないな。 」


今はおじさんと萌夫婦と麻里の4人で暮らしている。

本当はおじさんは別で暮らそうとしていたが、萌が猛反発して仕方なく折れて一緒に暮らしている。


「 お帰りなさいお父さん。 」


「 ん? ただいま。 」


萌がお父さんと呼べるようになるのは、かなり時間が掛かった。

お互いに恥ずかしかっただけだった。


「 今日は魚沢山釣って来たからパーティーだ。 」


おじさんは直ぐに手を洗い、一日の疲れをビールを飲んで癒す。

息子の朝倉も良く付き合わされている。


萌はお母さんが亡くなり一人ぼっちになったかと思っていた。

今は違っていた。

偽装で作った親子は本当の親子になっていた。

お母さんの仏壇に線香をつけて、直ぐに料理の支度をする。

萌は幸せでいっぱいだった。


「 おぉーーいっ! ビールがないぞぉ。 」


おじさん…… お父さんに呼ばれてニッコリ笑い。


「 それぐらいお父さんがやってよ。

今から料理するんだからね? 」


お父さんは一人が好きだったのに、今では暖かい家族と幸せに暮らしていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽装親子 ミッシェル @monk3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ