第61話 娘の勘


手術を開始してから時間が流れた。

椅子に座り終わるのを待ち続けている。


「 萌ちゃん、ここに居たのね。 」


幸さんが萌から電話を貰い、心配になり急いでやって来た。


「 幸さん…… ごめんなさい。

今は上手く話す余裕なくて。 」


幸さんは混乱している萌を強く抱き締める。


「 良いのよ…… 良いの…… それで。 」


萌は少し安心したのか、ゆっくり涙を流した。


「 萌! ここで何をしているんだ。 」


工藤さんも幸さんと一緒に病院へ来ていた。

いつもと違い、怖い顔をして近付いて来る。


「 萌…… 早く帰るぞ。

ここはキミが来て良い場所ではない!

あの男はキミを捨てたんだぞ?

心配する必要が何処にある。 」


工藤さんは怒りながら萌の手を掴む。

直ぐに萌は激しく払い除けてしまう。


「 放して!! 私はここに居たいの。

父親ヅラしないで下さい。 」


周りもその一部始終を見て言葉を失う。

工藤さんもショックのあまり、開いた口が塞がらない。


手術室では難しい手術が行われていた。

そして血を大量に流してしまい、輸血をしようとして血液を調べた。

その結果を見て医師達はびっくりする。


「 この患者さん…… ボンベイタイプだ…… 。 」


おじさんはO型。

ただのO型ではなく、かなり珍しい血液のボンベイと呼ばれているO型だったのだ。


「 O型の輸血のストックはあるか? 」


医師が助手に聞くと大きく首を振った。


「 先生…… 昨日別の手術で使ってしまい、今は手配中です。

直ぐに近くの病院に問い合わせてみます。 」


周りの病院に問い合わせても見つからず、必死に電話をかけ続ける。

医師が一人オペ室から出ていく。


急に扉が開き、萌達は立ち上がり医師の前に行った。


「 先生! おじさんは大丈夫なんですか!? 」


「 実は…… 。 」


おじさんが今危険な状態だと言う事と、珍しい血液なのでストックが不足している事を伝えられる。

皆はあまりの状況に驚愕して言葉も出なかった。


( 何て事なんだ…… このままでは藤堂さんのおじさんが死んでしまう。

今…… 伝えるしかないのか…… 。 )


吉良は一人気まずそうにしていた。

ゆっくりと萌に駆け寄る。


「 あの…… 藤堂さ。 」


「 先生! おじさんはO型ですよね? 」


萌は医師に聞きました。

医師はO型のボンベイだと伝える。


「 なら先生…… 私もO型なんです。

おじさんと同じボンベイ? か調べてみて下さい。」


みんなはその言葉に耳を疑った。

かなり珍しいボンベイタイプ…… 。

萌が偶然にも同じボンベイタイプの確率はかなり低くかった。


「 …… 分かりました。

隣の診察室で直ぐに調べてみましょう。 」


医師に連れられて入って行った。

皆はかなり低い確率に懸けるしかなかった。


少しして医師は血液を調べ終わる。

医師は目を大きくして驚いてしまう。


「 これは…… !?

藤堂さん、おめでとうございます。

奇跡的に同じボンベイタイプです。 」


「 良かった…… 早くおじさんに輸血して下さい。

お願いします…… 。 」


萌はおじさんの隣に横たわり、ゆっくりとおじさんに輸血が行われていく。

かなり大量の血を流した為、萌は危険な状態にならないくらいまで輸血する。


ずっと病院に居ても何も出来ないので、子供の朝倉と吉良は帰されてしまう。

その時朝倉は気になった事を聞く。


「 吉良…… お前…… 何かずっと言いたそうに見えたけど、一体何が分かったんだ? 」


すると吉良は鼻で笑う。

そしてDNA鑑定の結果を破いてゴミ箱に捨てる。


「 ははは、本当に凄い人だよ…… 藤堂さん。

僕は余計な事をしていたんだ。 」


「 ん?? 」


吉良だけいた真実。

それは闇の中に消えてしまうのだった。


数日後…… 。

おじさんはゆっくり目を覚ます。

見慣れない場所に病院のベッドの上。

身体中は痛み意識もハッキリしない。

横を見ると隣のベッドで萌が寝ている。


「 萌…… ? 」


怪我した自分寝ていたのは何となく分かる。

すると看護婦さんが入ってきた。


「 赤沼さん、大丈夫ですか?

凄い大変だったんですよ。

無事にお目覚めして良かった。 」


少しずつ事故の事を思い出していた。

それと同時に萌についても気になり聞いた。


「 藤堂さんは赤沼さんの為に大量の血を輸血したんですよ。

それで少し疲れちゃって眠ってます。 」


「 萌が…… 。 」


横に居る萌を見ていると、ゆっくりと目が覚めて起き上がる。


「 おじさん!! 」


萌は強く抱き締めていた。

おじさんは苦しそうになっている。


「 本当に、本当に心配したんだから。 」


「 そうか…… 悪かった。 」


おじさんは恥ずかしそうに萌を引き離す。

ただ血はまだ少なくてふらふらしている。


「 おじさんのせいで沢山血が失くなったんだから。

沢山お礼して貰わなくちゃ! 」


「 …… お前はもう俺とは。 」


また萌を遠ざけようとすると、萌は強くまた抱きついて来た。


「 うるさいっ!! 私は命の恩人よ?

一生かけて償う事! 」


おじさんは萌に頭が上がらなかった。

言い返せなくなったおじさんを見て笑っている。


工藤さんは家で絶望していた。


「 あなた…… 萌ちゃんは…… 。 」


「 そうだ…… あの子は俺の子じゃなかった。

そんなはずないんだ!

最後に付き合っていたのだって俺だ。

なのにどうして…… 。 」


幸さんは一つの答えにたどり着いていた。


「 萌ちゃんは赤沼洋介さんの娘ね。

本当の親子だったのよ。 」


衝撃の事実が話された。

工藤さんは飲んでいたカップを床に叩きつけた。


「 萌ちゃんは途中から気付いていたのよ。

あなたとは正真正銘の親子ではないって。 」


「 嘘だ!! そんな証拠何処にもないのに。 」


工藤さんは声を荒げて叫んだ。

自分の思うようにならず、栄光の未来へ上手くいかずに怒った。


「 あなたにとって萌ちゃんはなんだったの?

一度でもあの子を知りたいと思った?

あなたは萌ちゃんの事を出世への道具の一つでしかなかったのよね…… 。

あの子は直ぐに分かってと思うわ。 」


幸さんはこれまでの日々を過ごし、萌の事を知れば知るほどそれが良く分かった。

そしておじさんへの愛情、いつも寂しそうに遠くを見ていた。


「 赤沼さんと無理矢理引き離したのもあなた。

これは許される事ではないわ。」


工藤さんはソファに腰をかけて膝を何度も叩いた。


「 ごめんなさい…… 私が普通の体なら。 」


その言葉を聞き工藤さんは我に返る。


「 何言ってるんだ、僕は一度でも責めた事あるかい?

家族はそれぞれ違う…… 僕達は僕達の幸せがある。

だから自分を責めないでくれ。

僕が出世したくて色々無理してたみたいだ。

本当にごめん…… 。 」


泣きながら謝っていた。

幸さんも涙を流して笑っていた。


「 でも…… 萌はどうやって赤沼さんと親子だって分かったのかな?

今までDNA鑑定なんて受けていないのに。 」


工藤さんは不思議がる。

幸さん分かっていたので鼻で笑ってしまう。


「 簡単よ、親子なんだもん。

どんなに離れてお互い成長していても、分かるもんなのよ。 」


幸さんは輸血している萌と会話していた。


「 萌ちゃん…… あなたおじさんと本当の親子だってなんで分かったの? 」


萌は笑って言った。


「 全然根拠なんてなかったの。

調べるのは怖かったからやってなかったの。

でも何となく分かったんです。

娘の勘? かな。 」


幸さんは涙を流して喜んでいた。

自分の幸せのように。


「 幸さん…… ずっと冷たくしてごめんね。

ママのように一緒に居て楽しかった。

もう一人のお母さんって思っても良い? 」


心を許し優しい言葉で話していた。

幸さんは泣きながら手を握った。


「 当然…… 当然よ。

私はずっとあなたのお母さんよ。 」


萌も嬉しそうにゆっくりと眠っていた。

幸さんにとってその言葉ほど嬉しいものはなかった。


おじさんが居る病室に一人の男の子が来た。

あの助けた子供だった。

両親二人は泣きながらお礼を言った。


「 おじさんありがとう。

僕は全然大丈夫だよ?

怪我治ったら一緒に遊ぼう?? 」


ベッドの近くまで来た男の子の頭を撫でておじさんは。


「 汗かくの好きじゃないんだわ。

その代わり旨いパフェ食べに行こう。

病院食なんか食べてたら死んじまう。 」


相変わらずの面倒くさがりや。

それと同時に優しい人。

病室では笑い声でいっぱいになっていた。


それから数年の月日が流れた。

萌は大人になっていた。


「 ヤバいヤバい、そろそろお迎えに行かなきゃ。」


スーツを着た萌は何処かへ走って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る