第60話 守りたいモノ


問い詰められてしまう朝倉。


「 恵が最近食べてる物はおじさんの唯一作れる物ばかり。

それに最近は家に寄ってけば?

って言わなくなったし。 」


相変わらずの勘が鋭い。

朝倉は嘘をつくのが本当に苦手。


「 んーー …… 。

言わないって約束したからなぁ…… 。 」


朝倉が言いにくそうにしていると、萌は返答も聞かずに朝倉の家に向かう。


「 おいおい、いきなり行って大丈夫な…… 」


「 うるさい! 裏切り者!!

ずっと私に秘密にするなんて。 」


朝倉が引き止めようとしても聞く耳持たない。

朝倉に凄い怒っていた。

朝倉は少し小さくなって後を追っていた。


おじさんは朝倉の家で何も知らずにビールを飲んで居た。


「 ふぁーーあっ…… 。

ずっとのんびりするのも疲れたな。 」


つまみがなくなりコンビニに行くことにした。


入れ違いのように萌がやってきた。

激しく扉を開けた。


「 おじさんっ!! 居るのは分かってるのよ。 」


部屋を見渡すといつもより散らかった部屋が寂しく佇んでいた。

テーブルに置いてあるビールを持つ。


「 まだ冷たい…… しかも残ってる。

これはコンビニにつまみを買いに行ったな?

ここから近いコンビニに行くわよ。 」


朝倉に近くのコンビニを案内させて直ぐに部屋を後にした。


おじさんは信号待ちして買い物を終え家に帰ろうとしていた。


「 つまみも買ったし…… ビールもついでに買ったから大丈夫だな。 」


また家に帰ってお酒を飲もうとしていた。


「 ん? 子供かぁ…… 。 」


信号待ちしてた向かい側に小学生の少年がサッカーボールを蹴りながら待っていた。

おじさんは可愛らしく微笑ましく思っていた。

それと少し危ないなぁとも思っていた。


「 それそれそれ! 」


サッカーに夢中で周りが見えていない。

隣に母親らしき人が居たが、電話をしていて目を離していた。


「 あっ…… ボール。 」


間違えて道路にボールが転がっていってしまう。

子供はボールを心配して道路へ。


「 えっ…… 。 」


子供がボールを取ろうと道路に飛び出すと、信号は赤な為問答無用に車がやって来てしまう。

運転手も気づくのが少し遅れて、クラクションを鳴らせなかった。


子供は車に気づいたが、怖くて動けなくなっていた。


「 それでね…… えぇっ!?

守ちゃん危ないっ!! 」


母親がやっと気づいても時既に遅く、車が勢い良く子供目掛けて走っていく。

周りの人達も一瞬の出来事に足が動かなかった。


( 多分あのスピードの車に跳ねられたら死ぬな。

まだ色々やり残した事あったけど、充分俺は楽しめた気がする…… 。 )


迷わずおじさんは走り出していた。

ひかれそうな子供を抱き締めて、庇うように車にひかれていた。


キキーーッ!!

車の凄い急ブレーキと共に、おじさんは跳ねられてボンネットの上に乗り転がるように地面に叩きつけられた。


「 守ちゃーーんっ!! 」


倒れたおじさんの元へ駆け寄る母親。

倒れたおじさんの腕の中から、子供がゆっくりと起き上がった。


「 うわあぁーーんっ!

痛いよ、痛いよーー!! 」


膝や肘を擦りむいたくらいで、命に別状なかった。

その証拠に子供は大きな声で泣いていた。

相当怖かったのだろう。


「 守ちゃん! 良かった、良かった。 」


「 ママーーっ! 怖かったよ。 」


その親子は泣きながら抱き締めていた。

直ぐに母親はおじさんの方を見る。


「 良かった…… な…… 。

泣くぐらいなら…… 大した事ねぇ…… な…… 。 」


おじさんは身体を激しく強打し、頭から血を流し倒れていた。

薄れ行く意識の中、子供の無事を確認して満足そうに目を閉じた。


「 誰かーーっ! 救急車。

救急車を呼んでくれ!! 」


その事故の起きた場所はパニック状態に。

沢山の人がおじさんに駆け寄って状態を確認する。

パニックになった学生が叫び声をあげてしまう。


「 あれ? 何かあっち騒がしくない?? 」


萌と朝倉がその声の方へ向かう。

すると近くに破裂したビール缶や、おつまみが散乱していた。


「 何よこれ…… 何かあったのかし…… 。」


人混みを避けながら声の方へ歩いていく。

萌は嫌な予感がして激しく心臓が高鳴っていた。


「 救急車はまだか? かなり出血してる。 」


沢山の人が道路の脇におじさんを運び、出来る限りの処置を行っていた。

その光景を見て萌は愕然としてしまう。


「 あれ? …… 嘘よ。

おじさんが…… おじさんが…… 。 」


萌は倒れているおじさんを見て、激しく動揺して現実を受け入れられずにいる。


「 萌! 落ち着け! 早く行くぞ? 」


そう言い朝倉に手を引かれておじさんの元へ。

辺りはおじさんの流した血で汚れていた。


「 おじさん…… おじさん!

どうして…… どうしてこんな事に…… 。 」


萌は動かなくなったおじさんを必死に揺する。


「 キミ何してるんだ! 」


怪我人を揺すったので近くの大人に怒られる。


「 この人…… 私のおじさんなんです。

おじさん、おじさん起きて! 」


気が動転しながらも必死に呼び掛けた。

ピクリとも動かない…… 。


「 ごめんなさい…… 私の息子を守って…… こんな事に…… 本当にごめんなさい! 」


泣きながら助かった子供の母親は、必死に謝っていた。

直ぐに救急車が到着して担ぎ込まれる。


「 あなたは知り合いの方ですか? 」


救急隊の人に聞かれると、萌は大きくうなずいた。


「 はい、私は家族の者です。

一緒に同行します。 」


そう言い一緒に救急車へ。

朝倉も心配で一緒に乗った。


直ぐに救急隊の人達がテレビで見たような、素早い動きでおじさんを処置していく。


「 かなり危ない状態だ…… 。

直ぐに近くの病院へ向かえ! 」


荒々しい言葉が飛び交う。

萌は震えながらおじさんを見守る。

朝倉はゆっくりと萌の手を握る。


「 大丈夫だ…… 大丈夫だ。

赤沼さんは強い人だ…… 絶対に負けない。

信じて待つしかない…… 俺がついてる。 」


その優しい言葉で少し落ち着き、信じて病院に着くのを待っていた。


その頃病院の椅子座る吉良が居た。


( DNA検査の為にかなり無理したが、工藤の歯ブラシを手に入れた。

藤堂さんの髪の毛は朝倉から貰って、今は二人の鑑定結果を待つのみだ。 )


吉良は知り合いの医者に頼んで、二人のDNAを調べて貰っていた。


「 吉良君、検査結果出たよ。 」


「 早かったですね、結果はどうでした? 」


医者は検査結果の紙を見て。


「 吉良君の言った通り、二人は血の繋がりは一切ない。

ほぼ100%赤の他人だね。 」


それを聞き吉良は小さくガッツポーズをする。

かなり少ない可能性に懸けた甲斐があった。


「 それともう一つ…… 。

DNAを調べたら…… 。 」


その答えを聞いて吉良は驚愕する。

これはかなり意味のない、自分の自己満に近い予想だけど調べて貰った物があった。


「 何て事だ…… これは凄いね。

僕の推理がまさか当たるとは…… 。

早く彼女に知らせなくては! 」


そう言い直ぐに病院を出ようとすると、タンカーで運び込まれて来たおじさんと萌に出くわす。


「 あれ? 今のは…… 。 」


直ぐにおじさんは緊急治療室に運ばれた。

そして手術中のランプが光る。

その扉の前で萌は呆然と立ち尽くしていた。


中では必死におじさんの傷を塞いだりと治療をしていた。

萌達は信じて待つしかなかった。


「 朝倉…… これは…… 。 」


吉良はかなり悪いタイミングで来てしまった。

そして朝倉から全ての経緯を聞く。


「 そうか…… そんな事が…… 。 」


本当は直ぐにでも真実を話そうとしていたが、今はそれどころではなかった。


「 おじさん…… おじさん。 」


萌は祈るように待ち続けていた。

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