第59話 DNA


幸さんは悩んでいた。

吉良から言われた言葉が今でも頭を過る。


( 絶対に主人の娘よ…… 。

疑うなんて妻失格よ。

でも…… もしそうだとしたら。

萌ちゃんとおじさんを離ればなれになってしまった事になるわ。 )


幸さんは何度も自分に問いかけた。

このままで良いのかを。


そして幸さんは行動する事に。

直ぐに工藤さんの書斎に入る。

そしてスケジュール張やメモやレシートを調べる。


「 あるとしたらここなんだけど…… 。

これね! えっ…… 。

この細かく調べられてる資料によると、この人が萌ちゃんの…… おじさん? 」


一枚の写真を手にしていた。

それはおじさんの姿だった。

幸さんは驚愕してしまう。

偶然会ったあの男性が、まさか萌のおじさんだったなんて信じられなかった。


そんな事よりも何故こんなにも、萌の里親であるおじさんの情報を集めていたのだろうか?

そして探偵に頼み集めて貰った写真や、動向についてが事細かに書かれている。


( 亮二さん…… やっぱり何か理由があるのね。

純粋に娘を引き取る人とは思えない執着心。 )


幸さんは資料を持って何処かへ向かった。


その頃工藤さんはある場所にいた。


「 そろそろ検査結果が出るはずだろ?

どれだけ待たせれば良いんだ? 」


そこは病院だった。

萌と自分のDNA鑑定に来ていた。


「 工藤さん、わざわざ調べる必要はありますか?

もう分かりきってるのに、お金払ってまで調べるなんて物好きとしか。 」


「 私の娘が全く懐かなくてね…… 。

多分まだ私が父親だと自覚していないようでね。

だから正真正銘の父親だと証明したらどうだ?

あんな反抗的な態度ではいられないだろう。

懐いて貰わなければ昇進に響くんだ。

何が何でも懐かせてみせる。 」


工藤さんの野望は大きく、娘も道具の一つとして考えていた。

医者もあまりにも私利私欲が強い工藤さんに呆れていた。

すると検査結果が出て来た。


「 出てきました…… よ? 」


医者はパソコンの画面を見て言葉を失う。

直ぐに異変に気づき工藤さんは近づいてきた。


「 どうしたんですか!?

何かあったみたいに。 」


医者は青ざめた表情をして体を工藤さんの方に向ける。


「 工藤さん…… 藤堂萌さんとのDNA判定の結果…… 残念ながら0%の結果に。 」


「 そんな…… 0%だと!?

彼女が最後に付き合って居たのは私だ!

何度も調べてあるから分かっている。 」


すると検査結果の紙を見ながら説明してきた。


「 工藤さん…… あなたの血液型は? 」


「 B型だ…… 彼女はA型だった。 」


医者は検査結果の紙を見せた。

そこには萌の血液型はOと書かれている。


「 そんな…… O型!?

私と桜との娘にO型が生まれるのはありえない。

なら…… 彼女は一体誰の娘だ!? 」


「 分かりません…… 桜さんの娘な事は産婦人科の記録に残っています。 」


工藤さんは落胆してしまい椅子に寄りかかる。

本当は父親だと証明させるはずが、まさか赤の他人だと証明する事になるとは思わなかった。


「 この事は…… 誰にも言わないでくれ。

ここだけの秘密に…… 分かったな? 」


「 はい…… 。 」


意地でも本当の親子だと良い続ける事にした。

自分の未来の為に…… 。


幸さんは一人喫茶店に来ていた。

そこは探偵が調べた資料によると、おじさんが好きなベーグルサンドが売っているお店。

かなりの頻度で通っているのが分かった。


喫茶店でコーヒーを飲みつつ店内を探す。

何時間待っても現れない。

時間が過ぎると何杯もコーヒーをおかわりしていた。


「 やっぱりそう簡単には見つからないわね。

相当なベーグル好きと書いてあるんだけど。 」


すると店内と扉が開き入って来たのはおじさんだった。

髭ズラに大きめなパーカーに、スウェットを着て現れたのだ。


「 マスター、ベーグルサンドくれ。

マスタード多めで、ベーコンはカリカリに。 」


そう言いカウンターに腰を降ろす。

幸さんはゆっくりと近寄る。


「 洋介さん…… 。 」


「 ん? 」


急に呼ばれて振り返ると、この前助けた幸さんが立っていた。


「 あれ? あなたは…… あのデカい家の? 」


「 お久しぶりです…… 。

今日はあなたに会う為に待っていました。 」


重たい空気に思い詰めた表情。

カウンターから普通の席に移る。


向かい合いながら座り、少し沈黙に。


( この人一体何の用なんだ…… 。

俺を探してここまで来た?

お礼だって済んでるのに何なんだ? )


おじさんは頼んだベーグルをたべながら、気を落ち着かせていた。


「 これを見て頂けますか? 」


「 もぐもぐ…… ん?? 」


そこには細かく調べられた自分の事が書かれている。

おじさんもベーグルを置いて、その資料に目を通した。


「 これは探偵が調べたあなたの資料です。 」


その瞬間全て分かってしまった。

おじさんはびっくりして目を大きく見開く。


( おいおいおい…… 俺を調べてたって事は。

まさか…… 俺の追っかけ!? )


大きな勘違いをしていた。

おじさんは軽く咳をして、真面目な表情で幸さんを見る。


「 まぁなんとなく分かってましたよ。 」


「 え…… ? 分かっていたんですか? 」


知ったかぶりをしながらコーヒーを飲む。


「 まぁ旦那さんとは俺は大違いですもんね。

少し魅力的に見えても仕方がないです。 」


「 はい?? 何の話ですか? 」


おじさんは検討外れの事を言った事に恥ずかしくなり、顔を赤くしてしまう。


「 私は工藤幸です…… 工藤亮二の妻です。 」


工藤亮二…… 何処かで聞いた名前。


「 藤堂萌ちゃんの今の母親です。 」


おじさんはそれを聞き立ち上がる。


「 あーーっ! 工藤ってあの!? 」


「 はい…… まさかあなたが、萌ちゃんの里親をやっていたなんて気付きませんでした。

何度も写真を見せて貰っていたのですが、まともに写った写真がなくて良く分からなくて。

しかも…… 今の容姿では…… 。 」


軽く貶されてる気がした。

気を落ち着かせながらまた腰を降ろす。


「 んで何の用なんだ…… 。

俺に会う理由何かないだろ? 」


幸さんの素性が分かると、いきなり冷たい話し方になった。

どんな理由であれ自分から萌を奪ったのだから。


「 本当に…… 本当にごめんなさい! 」


いきなり土下座をして深々と頭を下げた。

急な事におじさんも驚いてしまう。


「 えっ? 何で頭下げてるんですか?

早く頭を上げて下さい。 」


直ぐに幸さんの土下座を止めさせる。


「 ウチの主人が本当に酷いことを…… 。」


「 何言ってるんですか。

身を引いたのは俺ですよ?

何も責める必要なんてありませんよ。 」


幸さんはどうしても謝りたかった。

身勝手な工藤さんの行動を。


「 萌…… 元気にしてますか? 」


「 いえ…… 明るく振る舞っていますが、心の中にはいつも赤沼さんが居ます。 」


それを聞くと安心したように帰ろうとする。


「 あなたは! それで…… 良いんですか!? 」


大きな声を出して問いかけた。

おじさんは立ち止まって。


「 萌の事宜しくお願いします…… 。 」


そう言い残し帰って行った。

でも幸さんには分かっていた。

おじさんは工藤さんの言うような、冷たい人間ではなかった事。

娘を手放したのも沢山考えての決断だった事。

幸さんは工藤さんへ怒りの感情を膨らませていた。


萌は朝倉と二人で歩いていた。


「 昨日何食べたのよ? 」


夜ご飯の話をしていた。


「 カレー焼きそばかな? 」


それを言った瞬間に首元を掴まれて止められてひまう。

ごく普通のような会話に引っかかる。


「 恵…… もしかして…… 家におじさん居ない?」


何故かいきなりバレてしまう。

大汗をかいて追い詰められる朝倉だった。

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