第58話 ぶっきらぼうな人助け


吉良と幸さんの間に沈黙が続いていた。


「 な…… 何を言ってるんです?

それは当然本当の親子に決まってます。

だって主人が私に嘘をつくはずありません! 」


幸さんは激しく動揺し、大きな声で否定した。


「 そうですよね…… 。

失礼な事言ってすみません。 」


失礼な質問をしたので、当然怒られても仕方がなかった。

吉良も反省して気を落ちつかせる為に紅茶を一口。


「 萌ちゃんは…… 主人の娘です。

そして私の…… 私の娘なんです!

ごめんなさい…… これから予定があるので。 」


そう言われて仕方なく帰るしかなかった。

吉良は工藤さんのDNAを採取するのを断念した。


「 あんなに動揺するとは…… 。 」


どうにかおじさんとまた暮らせるようにしたくて、違う作戦に切り替えるのだった。


その頃、萌と朝倉は二人でご飯を食べていた。


「 それでさ、新しい家が凄い広くて。

部屋だって沢山あるんだよ?

私専用の部屋もあって、毎日静かに勉強出来る。

これが理想の生活なのかなって。 」


無理して笑顔で強がる姿は、見てるだけで辛かった。


「 って言うかおじさんって自分勝手過ぎて、もういい加減にうんざりしてたの。

だからこれで良かったのかも。

ちゃんとトイレ行ってくるね。 」


萌は席を離れる。

朝倉は直ぐに萌のコートを探り始めた。


「 朝倉には藤堂さんの髪の毛を取って来て欲しい。

藤堂さんの為なんだから頑張ってくれよ。 」


吉良に言われた通り髪の毛を探していた。

そして一本だけ見つけて、直ぐに持ってきたジップロックに入れる。

すると萌が帰って来るのが見えた。


( ヤバい!! 早くコートを席に戻さなくてわ。 )


焦りながらコートを元に戻す。

そして何食わぬ顔でポテトを食べる。


「 何かそわそわしてる? 」


いつもと違う朝倉を見て、萌は顔を近づけて見詰める。


「 なな…… なんでもない。

パフェでも注文しようかな? 」


明らかに動揺しているのがバレていた。

疑われていたがどうにかバレずに済んだ。

ポケットにはやっと手に入れた髪の毛がしまわれていた。


おじさんは一人散歩をしていた。

公園でベンチに座り、缶ビールを飲みながら小さな子供が遊んでいるのを見ている。


「 楽しそうで良いねぇ…… 。

さぁこれからどうするかな。 」


これからの事を悩んでいた。

するといつの間にか自分の周りには、子供達のお母さんに囲まれていた。


「 ちょっと! あなた誰ですか!?

昼間からお酒なんて飲んで。 」


おじさんは怪しい変質者にされていた。

皆からは冷たい目線を向けられている。


「 い嫌…… 別にただ見ていただけで。 」


弁解しても当然疑いは晴れず。

いつの間にか近くの交番から、警察がやって来た。


「 こんにちわ! 少し交番で話しましょうか。 」


目付きも見た目も悪いので、交番に連れて行かれてしまった。

少し話したら分かってもらえたが、気分は最悪で酔いも覚めてしまう。


「 何が怪しいだよ…… 。

てか怪しいかぁ。 」


おじさんはパーカーにスウェット。

髭も剃らずに見るからに怪しい。

自分でも納得してしまい、情けなくも感じていた。


歩いていると買い物袋が破けて、周りに散らばってしまい広い集めている女性がいた。


( 無駄に買いすぎるからだ。

周りの人達も結構見てるし。 )


恥ずかしそうに集めているのを、野次馬達は手伝う事なく見ている。

おじさんも気にせず通り過ぎようとする。


「 …… たく、しょうがないな。 」


立ち止まり散らばっている食品を拾い集める。


「 あ、ありがとうございます。

少し買いすぎてしまって。 」


その女性は幸さんだった。

何とも偶然で運命的な出会い。

当然二人はお互いを知らない。


「 女性が両手にこんな重い荷物持ってたら、誰だって辛いし袋だって耐えられないだろ。 」


相変わらず無愛想にしてしまう。

幸さんはおじさんを見て少し怖がる。

工藤さんとは全くの真逆。


「 本当にすみません…… 。

もう大丈夫なのでお構い無く。 」


恥ずかしいのと怖いのもあり、早く帰って貰おうとしていた。

でも買い物袋は破けてしまって、家まで持って帰れずにいた。


「 これ使っても良いぞ。 」


おじさんが手渡したのは、白熊の買い物袋だった。

スーパーで貰えるビニールよりも大きく、耐久性にも優れている。


「 ぷぷ、あっ! すみません。

可愛い買い物袋だなぁと思いまして。 」


怖さとか恥ずかしさがぶっ飛んでしまっていた。


「 余計なお世話だよ。

娘…… 前に持ち歩けって言われて仕方なく持つ習慣出来ただけだ。 」


おじさんの買い物袋に食材を入れ、家まで行く事にした。

おじさんは一つ荷物を待ってあげていた。


「 あなたは凄い感じ悪そうなのに、見た目とは全然違うのですね。 」


ムカッ!! おじさんはイラついてしまう。


「 初対面なのにあんたずっと失礼だぞ。 」


「 ごめんなさい…… 私の娘から聞いていた人にそっくりだったのでつい。 」


幸さんは萌から沢山聞いていたおじさんと、重なって考えてしまう。

同一人物だとも知らずに。


「 ウチの主人とは正反対…… 。

でも私はあなたみたいに、見てみぬフリ出来ない人は素敵だなぁって。 」


おじさんは照れくさそうに顔を反らしてした。

幸さんはクスクスと笑ってしままう。


( 本当見た目だけじゃ分からないのね。

凄い素敵な人ね、帰ったら萌ちゃんに話そうっと。 )


家に着くとおじさんはびっくりする。

大きな家で二階建て。


( すげぇ…… お屋敷みたい。

何かこの人の見た目通りの感じだな。 )


荷物も運べたし後は帰ろうとする。

買い物袋を返しに家から出て来た幸さん。


「 本当に助かりました。

良ければお茶でもどうですか? 」


「 い…… いや。

別にそう言うの良いんで帰ります。 」


直ぐに帰ろうとすると腕を掴まれてしまう。


「 ダメです! さぁ中へ。 」


( 何だこの人は…… 強引で失礼だし。 )


おじさんは仕方なく中へ。

中は広くてリビングも光が差し込み、凄い綺麗だった。


「 そこのソファに座ってて下さい。 」


そう言い紅茶を入れたり、お菓子の準備をしている。

先にケーキを出してくれる。

そのケーキはまた高そうな美味しそうだ。


( すげぇ…… 何か分かんないけど、すげぇ高そうなのは分かる。 )


「 そのミルフィーユは近くのお店で買った物なの。

フランスで修行していたパティシエが、日本に帰って来て開いた店らしくて。

いつの間にか行きつけのお店になってまして。

お口に合いますか?? 」


そう言っておじさんを見ると、フォークも使わずに手で食べていた。

しかも大きな口で沢山頬ばって食べたので、あっという間に無くなっていた。


「 う…… んまいですよ。

何がどう旨いとかは言えないけど。 」


幸さんは嬉しそうに笑っていた。


「 あっ…… フォーク使うの忘れてた。 」


「 いいえ、美味しそうで何よりです。

紅茶も良かったらどうぞ。 」


紅茶も音を立てて飲んでしまう。

萌に散々注意されたのに、まだ直っていなかった。


「 あの…… お名前聞いても良いですか?

私は工藤幸と申します。 」


「 ズルズルーーっ! ん? 洋介。 」


おじさんはなんだかんだケーキを三個も頂いてしまい、長居してしまったので帰ることに。


「 洋介さん、またいらして下さい。 」


「 見ず知らずの男を簡単に信じない方が良い。

ケーキは旨かった、それでは。 」


素っ気なく帰ってしまったが、幸さんには分かっていました。

相手の旦那さんの事を気にしたり、直ぐに信用するのは危ないと言いたかったのだと。

幸さんにとって素敵な出会いでした。


その日の夜の食卓では、相変わらずの沢山の料理を作っていた。

嬉しそうに笑っている幸さんを見て、萌は気になって聞きました。


「 何かあったんですか? 」


「 うふふ、聞いてくれる?

今日ね、スーパーで沢山買いすぎて袋が破けちゃったの。

そしたら汚ならしい中年のおじさんがね、他の人が助けてくれない中で一人だけ助けてくれたの。

それに口が悪くて感じ悪くて。」


聞いていてもそんなに喜んで話す理由には、少し足りないようにも感じる。


「 そんな汚ならしい? おじさんに助けて貰って何がそんなに嬉しいんですか? 」


萌が聞くと幸さんは笑った。


「 人は見かけじゃないって良く分かったの。

本当に見た目気にすればモテそうなのに。 」


幸さんは嬉しそうに話していた。

萌には洋介だと気づけるはずもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る