第57話 幸の不安
家で幸さんは料理を作っている。
いつもみんなが大好きな料理に、しっかり野菜の料理もプラスして栄養バランスもバッチリ!
「 萌ちゃーー ん、ご飯出来たわよ。 」
ここでの生活にも少しは慣れ、幸さんとの会話も少し増えていた。
ただ萌は勉強を辞めてしまい、塾にも行かずに出掛けたりしている。
「 萌ちゃん美味しい?? 」
「 ええ…… 美味しいです。 」
相変わらず心を開く事もなく、当たり障りのない事しか言わない。
それでも幸さんは負けずに話をかけている。
「 私ね…… 子供の産めない体なの。 」
いつも明るい幸さんから出た言葉に、萌はびっくりしてしまう。
「 主人と仲は良いのよ。
でもこればかりは申し訳なくて…… 。 」
笑ってはいるが心の中では笑っていないのがバレバレだ。
「 私の夢はね? 可愛い娘と恋話したり、一緒に料理したり…… 普通の。
普通の…… お母さんになりたかったの。 」
そう言いながらこぼれ落ちそうな涙を、手で拭いてしまう。
萌は箸を止めて黙って聞いていた。
「 ごめんね、変な話しちゃって。
さぁ、食べましょ? 」
気まずい空気を変えてご飯を食べる。
萌はそんな幸さんが可哀想に見えていた。
部屋へ戻ろうとして立ち止まる。
「 ごちそうさまでした。
偉そうに見えちゃうかもですけど。
私は幸さんが好きですよ。 」
そう言い部屋へ戻って行った。
幸さんは嬉しそうに笑い、お皿を洗っていた。
その頃おじさんはビールを飲みながら夜空を眺めていた。
「 赤沼さん、少し良いですか? 」
朝倉が隣に座る。
「 気になってたんですけど。
赤沼さんって萌のお母さんの事が好きだったんですか? 」
唐突に聞いてしまった。
前から気になっていたのだ。
「 萌には絶対に言うなよ?
好意はあったのは認める。
だけどそれからなんもなかった。 」
おじさんは少し寂しそうにビールを一口。
「 一度だけ同窓会の日に朝まで一緒に居たけど、酔っ払ってて全く記憶がない。
その日が一番近くに長い時間居たのかもな。 」
( いつもと変わらず話してるけど、赤沼さんは今でも後悔してる。
だからこそ萌には幸せになって欲しい。
そんな気がする…… 。 )
朝倉はそれ以上の事は聞けなかった。
そして二人は星を見ていた。
「 って言うか…… 赤沼さん。
掃除しといて下さいって言いましたよね?
すげぇ散らかってるんですが。 」
部屋はいつの間にかゴミや脱いだ靴下や、漫画などで散らかっている。
おじさんが来てからこんなになっていた。
「 仕方ないだろ? O型だから大雑把なんだから。」
相変わらず言い訳をさせたら右に出る者は居ない。
だけどイライラはしなかった。
おじさんらしくもあったからだ。
萌は部屋の大きなソファで仰向けになり、つまらなそうに天井を見ている。
すると部屋の扉をノックする音が。
「 萌ちゃん、これ落ちてたけど萌ちゃんの? 」
そう言って見せてきたのは、牛の顔をしたラバーキーホルダー。
それはおじさんと初めて出掛けた時の、大切な思い出のキーホルダーだった。
慌てて直ぐに受け取る。
「 ありがとうございます。
いつの間にか鞄から落ちてたみたい。
これは大切な宝物なの…… 。 」
萌は大事そうに握り締める。
幸さんは嬉しそうにしていた。
「 可愛いキーホルダーね。
彼氏からのプレゼントかしら?? 」
「 違います…… 。
これはおじさんから貰いました。 」
萌はキーホルダーを見て思い出していた。
幸さんは部屋に入りソファに腰を降ろす。
「 おじさんって赤沼さんの事かしら? 」
そう言うと大きく頷いた。
「 そうなのね、それは大切な物ね。 」
幸さんはそう言いキーホルダーを見ている。
「 これが…… おじさん。 」
萌はスマホを見せるとそこには、一緒に撮ったおじさんが写っている。
萌は笑ってピースをしている。
その隣で恥ずかしそうに逃げようとしていおじさん。
「 凄い綺麗に撮れてるね。
もっと他のも見せてくれるかしら? 」
萌は幸さんの言葉に驚いてしまう。
今の生活を嫌がっているのに、前の思い出の話をしてるなんて普通は気分が良くない。
そして他の写真も見せる。
すると幸さんは顔を近づけて見ている。
「 どの写真も萌ちゃん…… 良く笑ってる。
それに比べて赤沼さんは、まともに撮れてる写真は一つもないわね。 」
言われて見てみると逃げようとしていたり、横顔だったりとまともに撮れていない。
それを見て萌はクスっと笑う。
「 おじさんはね、凄い恥ずかしがりやで写真とかも凄い苦手で。
だらしなくて食いしん坊で、本当に一人では生きてけないくらいどうしようもないんです。 」
おじさんの話をしているときの目には、生気が甦っているように見えた。
幸さんは嬉しそうに横で聞いて、ゆっくりと何度も頷いていた。
「 あっ…… 余計な話をしてしまいました。
すみません…… 。 」
「 良いのよ全然っ!
むしろ聞いてるこっちまで楽しかったわ。
萌ちゃんは本当におじさんが大好きだったのね。 」
その通りでした。
恥ずかしそうに下を向いてしまう。
「 もっと聞かせてくれる?
おじさんの事もっと知りたくなっちゃった。 」
「 本当ですか? それなら…… 。 」
萌はその後に写真を見せながら、おじさんとの思い出を話した。
幸さんも笑ったりしながら聞いていた。
その日萌は早く眠ってしまっていた。
沢山話したから疲れたのだろう。
幸さんはゆっくり布団をかける。
起こさないようにゆっくり出ていく。
「 本当に良い子ね…… 萌ちゃんは。 」
リビングで一人で考え事をしていると。
「 ただいま。 」
工藤さんが帰って来た。
時刻は0時を過ぎていた。
「 お帰りなさい。 」
「 まだ起きていたのかい?
先に寝ていても良かったのに。 」
疲れているのか? 直ぐにスーツを脱ぎ、椅子に腰を降ろして水を飲む。
幸さんは向かい側の椅子に座る。
「 あなたに聞きたい事があったの。 」
真剣な表情で聞いてきて、工藤さんも少し動揺してしまう。
「 あなた…… 萌ちゃんは赤沼さんに捨てられたって言ったわよね?
でも話を聞いていたら、絶対そんな事するような人に思えなかったわ。 」
「 で…… 何が言いたいんだい? 」
「 あなたが二人の仲を引き裂いていない?
もし…… そうだとしたら。 」
幸さんは工藤さんの事を良く分かっていた。
欲しいものは絶対手に入れる。
どんな手を使ってでも…… 。
「 安心しておくれ。
そんな酷いことする訳ないじゃないか。
さぁ、お風呂入って来るね。 」
幸さんの追及に全く動じずに行ってしまう。
そのポーカーフェイスこそが怪しい根拠とも知らずに。
次の日になると萌は朝から出掛けに行っていた。
幸さんはいつものように部屋の掃除やらなんやらで大忙し。
ピンポーンっ!!
チャイムが鳴り玄関に向かう。
「 はぁい、どちら様ですか? 」
モニターに映っているのは吉良でした。
「 初めまして、藤堂さんの同じクラスの者です。」
クラスメイトなので喜んで中へ招待した。
そしてお茶とお菓子を出してくれる。
「 そうなのね…… 萌ちゃんとは仲良しなのね。
なら私も大歓迎よ。 」
「 ありがとうございます。 」
一体どんな用事で来たのだろうか。
「 ちょっとゆっくりしてて貰える?
萌ちゃんに今連絡してくるから。 」
そう言い電話をしに部屋を離れる。
直ぐに吉良は辺りを見渡す。
( 今のうちだ…… 。
部屋から髪の毛を見つけるんだ。 )
吉良の狙いはDNA鑑定の為に必要な髪の毛だった。
工藤さんの髪の毛と萌の髪の毛を鑑定に出して、血縁関係か調べようとしていた。
( 駄目だ…… 全然見つからない。
幸さんは掃除完璧のようだ。 )
髪の毛どころか、ちり一つ落ちていない。
幸さんの電話が終わり、部屋に戻って来る足音が聞こえる。
「 連絡つかなくてごめんね。
もう少しで帰って来ると思うから。 」
「 はい…… ありがとうございます。 」
吉良の万策が尽きた。
直ぐに最後の手段に移る。
「 幸さん…… 失礼なのですがお願いが。 」
「 何かしら?? 」
「 工藤さんと藤堂さん…… 本当の親子なんでしょうか? 」
突然の言葉に幸さんは、飲んでいた紅茶のカップを落としてしまう。
二人は静かに見つめ合っていた。
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